第286話 二人だけの戦い2
依然、龍児とレイラはサーベルドワイライトに囲まれてる状況にある。残った無傷のモンスター3匹は依然殺意をむき出しにしており、決して油断はできない状況だ。
「さっさと残りを倒すぜ」
「ああ、思いっきりいけ!」
龍児は先手をとって踏み込んで斬りにかかる。
だが敵もようやく龍児の間合いを掴んだのか後ろに下がってこれを回避すると、チャンスとばかりに右側を陣取っていたモンスターが龍児に襲いかかる。
だが襲いかかるモンスターの先に剣を突き立ててレイラが止めた。サーベルドワイライトの腕から生えている刃と剣が交差すると火花を散らす。
今度は3匹目がレイラの背後を狙う。彼女の首を食いちぎろうと牙を向いて飛びかかってきた。
ガキッ!
噛みついた肉は鉄鋼の味がした。
レイラを守るために伸ばした龍児の左腕のガントレットが口に食い込む。
龍児は噛まれたまま勢いをつけてラリアット気味に腕を振り切ると相手は空中で半回転し、後頭部から地面に
キャインと一鳴き、大きな石に頭を打ち付けたモンスターは失神したのかピクリともしない。
龍児と対峙していたサーベルドワイライトは向けられてた邪魔な剣を迂回して龍児へと襲いかかる。龍児は待ってましたとばかりに前蹴りを喰らわしてやる。
だが敵とてやられっぱなしではない。獣ならではの反応速度を見せつけて吹き飛ばされる瞬間、腕の刃で龍児の足を切り裂いた。
だが薄皮一枚だ。支障はないと思いつつも油断したと龍児は再び気を引き締める。
龍児は上段に構えたバスターソードを地面に倒れた敵の頭めがけて振り下ろすと、グシャリと
その脇でレイラは軽やかに舞いながらモンスターを切り刻む。
細身の剣では龍児のような戦いはできない。代わりに目にも止まらぬほどのスピードの乗った剣を振るう。
獣は切り刻まれて身体中から溢れる血で体毛をヌラヌラとさせて体力を奪われた。ついに敵はその足の力を失い失速すると突きが敵の喉を貫きフィニッシュを決めた。
「ふぅー」
レイラからなんとか乗り越えたと安堵の息が漏れた。
「龍児、ケガは大丈夫なのか?」
自分をかばってくれた龍児の体を気遣った。
「全然、なんともないぜ」
持ち上げた龍児の腕のガントレットは凹んではいたものの本当になんとも無さそうだ。
「まったく、どんな体をしとるんだ……」
凄いと思いつつも半分
だが、そのとき脳震盪を起こして倒れていたサーベルドワイライトが意識を取り戻すと、ギロリとレイラを睨み彼女を襲った!
「レイラっ!!」
龍児はすぐに剣で振り払おうとするが……間に合わない!
レイラは咄嗟に後ろに飛び退くが思うほど体が反応しない。いつもなら油断などしなかったのに……
――なぜわたしは油断などしたのか。
右足に引き裂かれる痛みが走った。
モンスターの腕の刃がレイラの足を切り裂き、なお牙を剥いて襲いかかる。
レイラにとって時の狭間を漂うかのような時間が過ぎる。
彼女の目には吹き出した鮮血がゆっくりと宙を舞っている様子が映った。
その奥から迫りくる牙を向くモンスターの目は、噛みつこうとしている場所を凝視していた。
――このままでは喉元を噛み切られる!
レイラがそう覚悟したとき、眼前の獣は背中を見せた。
「!?」
後ろに倒れ行く彼女の頭上を獣の上半身が回りながら超えてゆくと、その後ろには剣を振り上げた龍児の姿があった
「いてっ」
レイラは地面に尻もちをついた。
そなような様子を伺いながら龍児は剣についた血糊を払って鞘に納めた。そしてレイラの元に寄って傷口を確認する。
「すまねぇ、俺がちゃんと止めを刺していなかったばかりに……」
レイラの足は鋭利な刃で切り裂かれて止めもなく出血していた。
「大丈夫だ。止血して皆の元へ戻ればすぐに治してもらえる」
そう言ってレイラはポシェットから三角布を取り出すと畳んで傷口より上できつく縛った。龍児も同じく三角布を取り出して彼女の傷口を縛る。
「これじゃ走れそうにないな……」
「走る?」
龍児の言葉にレイラは意味が分からずポカンとする。すでに敵は排除できたのだからゆっくり帰ればよい。異変を察した団員が迎えにきてくれるかも知れない。
だが龍児はしゃがんだまま彼女をお姫様抱っこのようにかかえた。
「ひゃあああ」
突然の行為にレイラはおよそ彼女らしくない可愛い声を上げる。このような行為にでてくるとは想像しておらず、完全に意表を突く形となった。
今まで自分をこのように少女のような扱いをするものはいなかった。若い頃から腕に自信があるため男からは生意気なヤツだとか近寄りがたい相手だとか
龍児は自分のマントの裾を引っ張って彼女を包むようにして、マントの端を肩にくくりつける。
「ちょ、ちょ、何のまねだ! き、貴様!」
端から見ればまるで大きな乳飲み子を抱えているような姿である。このような恥ずかしい姿を他の部下に見られたら自分の威厳が地に落ちてしまうような気がした。
レイラは顔を真っ赤にして龍児の顔を押し退けるが相手はびくともしない。
「悪いな、もう時間がない。敵の増援だ」
レイラはハッとして龍児の肩越しに街のほうへと視線を向けるとゴルゾンの一団がこちらに向かってきていた。固い表皮を持つ人型のモンスターは龍児や自分の武器では分が悪い。
「奴らは俺達の武器じゃ刃が通らず相性が悪い。だから……」
「だから?」
「ここは逃げるんだよぉぉぉぉぉぉ」
マントに包まれたレイラをお姫様抱っこしたまま龍児は駆けだす。
「あわわわわ」
激しい揺れにマントからずり落ちそうになったレイラは龍児の首にしがみつく。その姿がまるで恋人がしがみついているかのようで恥ずかしいを通り越して
「せ、せめて背負うとかできんのか!!」
「無茶いうなッ。俺の背中はすでに先着済みだ!」
龍児の背中からガチャガチャと武器の音がしており、確かにこれでは背負えない。レイラは無念だと諦めるしかなかった。
女性一人とはいえ彼女は武装している。そして龍児も武装しており、二人合わせれば相当の重量になる。それでも龍児は追いかけてくるモンスターとの差を広げてみせた。
大したパワーとスタミナではあるが、いくら龍児と言えど限界があり、彼は徐々に息を荒らげてゆく。約半分の道のりを逃げて、いよいよ限界というところで援軍がやってきてくれた。
「隊長! 龍児ぃ!!」
龍児の元所属していたナーガ小隊が助けにきてくれた。彼らの元に二人の馬だけ帰ってきたので危機を察知したのだ。
モンスターをめがけて突き進む部隊とすれ違うと、急に安心感が沸いて龍児は止まった。
突き進んでいった団員は追ってきているモンスターの殲滅だ。手にはゴルゾンに有効なバトルアックスなどの重量武器を持っている。
「隊長! ごぶ……じ……」
ナーガは二人の無事を確認しようとするが、その姿に思わず吹き出しそうになる。だがここで吹き出せば後が怖いと視線を外して耐えた。
お姫様抱っこをされているレイラは恥ずかしさのあまり両手で顔を伏せて、援軍の団員たちと目を合わせられなかった。
これは一体どういう状況なのかと混乱するナーガ。
「……え、えっと…………」
「見るなッ!」
「はい?」
「あたしを見るなぁぁぁ!!」
別にこのような状況を見られた所でレイラの評価は変わることはない。多少話のネタにはされるかも知れないが。
この時の事件をレイラは一生の不覚と黒歴史として心の奥深く閉まったという。
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