第283話 エンカウト2
龍児はグリズホッグを上から
龍児は力任せでただ斬っただけである。
晴樹から教わった刀の本来の切れ味をだすように振るってはいない。
「あんにゃろぉ……」
龍児は自分の力で勝った気になれないのが気にくわなかった。まるで刀夜に勝たせてもらったかのような錯覚に見舞われ、忘れかけていた嫉妬の首が持ち上がる。
しかし今、この状況、仲間が殺られる前に敵を倒さなくてはならない。
龍児はその一点で沸き起こった嫉妬を封じ込めた。そして左で仲間が対峙している熊に野太刀を上段から振りかざす。
再び空を切り裂くような感覚にとらわれる。キーンと耳なりがしたような気がした瞬間、熊は血を吹き出した。
背中の脊髄から腹に向けての振り下ろし一閃!。
上半身と下半身の真っ二つとなった熊の視線はいつの間にか獲物を見上げる形となった。
何が起こったか理解もできず腕で這いずって団員を襲うと近づいてくる。切り口から臓物を引きずりながら……
「うわわわわわああああ!!」
あまりの不気味さに団員は涙目で必死に熊の頭に何度も剣を
龍児は開けた前へと一気に躍りでた。
ここならば思いっきり振り回しても誰もいない、絶好の場所だ。得意の
低空から侵入した刃は熊の腹から背中へと抜けて行く、先程とは真逆だ。
面白いようにスパッと熊を切り裂く。
ちょいとコツを入れただけでまったく別物のような感覚だった。
再び熊は真っ二つとなるが今度はすぐに絶命したようだ。先程のフラストレーションを吐き出すと龍児のエンジンが一気に吹き上がる。
「おらあああああああッ!」
加速された刀の速度を殺さないよう流れるように連続で繰り出される剣劇は嵐となりてモンスターに襲いかかる。
あまりの剣圧に熊と対峙していた団員は後ろに下がった。近寄っただけで今にも吸い込まれそうな感覚が怖くなったのだ。
だがそれでも龍児の迫力に目が奪われる。それはどこかで見たことのある光景だ。
レイラは2匹目のグリズホッグを倒すと龍児に目をやった。そして懐かしい記憶が甦った。
「ブラン!?」
その戦いかたはまさしく、かつて1警の実力ナンバー1と呼ばれた男、ブランを彷彿とさせるものだった。龍児は教団のとの戦い以降、ちょくちょくブランにバスターソードの使い方を教わっていた。
龍児の力はブランから言わせればまだまだの一言である。しかし以前の彼のスタイルは着々とこの男へと受け継がれていた。
やがて戦いは終わった。
死者0、重症0、軽傷4名である。
レイラはまずまずと戦果には満足した。
しかし最初に龍児を下がらせたの失敗だと思い知らされた。かつてブランがいたころの彼の立ち位置は、今のレイラが立っていた場所だった。そして自分はその後ろだった。
いつか越えてやるぞと若かりし自分は闘志を燃やしていたと古い記憶を甦らせる。
「これはまた、後ろに逆戻りだな……」
そう口にしたレイラの表情は穏やかな笑顔で龍児を見つめた。
◇◇◇◇◇
休憩の後、再びシュチトノへと馬を
そして再びエンカウトする。
岩のような表皮をもつゴルゾンである。この二足歩行の岩人間モンスターは固くて頑丈であるがその姿から想像できるように足は遅い。
ゆえにレイラは無視した。無駄な戦いはしないことに越したことはない。
モンスターとのエンカウントのため日程が遅れる。
3日目、再びグリズホッグと出くわす。
レイラは再び戦闘を指示した。
今度は龍児を中央の先頭に配置する。だがその位置は龍児の所属している小隊のナーガからは遠くて命令が届かない。よって龍児は一時期的にレイラの直轄に置くこととなり、彼女は後方へと下がった。
戦いが始まると龍児はその戦闘力を遺憾なく発揮する。そしてレイラは後方へと下がったことにより全体の把握を掴みやすくなり、瞬時に細かく指示ができるようになった。
そして彼らはほぼ無傷で勝利すると、その後も順調に進む。
いつの間にかただの草原だったはずの地面には道が現れた。草が生い茂ってはいるが道の痕跡はしっかりとある。もう何年使われていなのだろう。
道にそって進んで草原の丘を越えたとき、彼らの眼前に廃墟化した街が見えた。
「見えた。あれがシュチトノだ……」
先頭を駆けていたレイラは丘の上で馬を止めた。
次々と後続の部隊が同じ丘の上で止まって街を眺めた。廃墟となっていなければピエルバルグに匹敵するほどの規模の街であっただろう。
龍児はレイラの横で馬を止めた。
「うひょー結構でけぇなぁ」
街の大きさに目を丸くする。
「まったくだ。これでは3街合同でも街全体を防衛するのは不可能だな……」
そう考えつつもレイラはここまできたのだと達成感にひたった。だが彼らの偵察任務まだ始まったばかりである。
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