第274話 プールで語らう
「刀夜、ゾルディは最後になんと言っていたんだ?」
龍児はよじ切れそうになった脇腹を摩りながら尋ねた。
「……真実は帝国首都にあると。あとエイミィが自身でちゃんと魔法を使えるまで封印しておくと……」
「彼女、もう消えちまったのか?」
「わからない。だがこうなるとエイミィは家で引き取ったほうがよさそうだな……」
それは無論またゾルディが再び現れたときに情報を得るに都合がよいからである。ゾルディが魔力を封印してくれるなら彼女の両親の二の舞のようなことは起こらないだろう。
リリアとエイミィが残された後のことは懸念があるが、リリアの様子ではそれでも受け入れたがっているように見える。
「よぉ、研究所ってもしかしてモンスター工場の事じゃねーか?」
「ああ、そう思うよ」
刀夜と龍児はプールの淵に立って互いの意見を交わしていた。それはいがみ合っていた二人にしては極めて珍しい光景であった。
「龍児、お前……工場攻略してボドルドを倒そうとか考えているだろう?」
「無論だ。これ以上多くの人々をモンスターの餌食にされてたまるかよ」
「お前らしい理由だな……」
「ンあんだよ。お前は違うってのか?」
「まだ検討中だ……しかし帝国でも落とせなかったとなると攻略は極めて困難だぞ」
「そりゃ……そうかもしれねぇけど……だからて放置もできねぇぜ」
「戦死者の数は巨人兵のときよりうわまるがお前はそれに耐えれるのか?」
「……わかんねぇよ……お前なら罠とかでなんとかできねぇのかよ……」
「罠は受けの戦法だ。攻めには向いていない……」
刀夜が取ってきた戦法は敵を罠の位置に引きずり出して仕止める方法である。だが今回は敵の拠点に責めるのでそのような戦法は使えないのである。
「最も自警団がどう出るか次第だから。そこに俺達の意見は通らないだろうな」
「ぐ……」
確かに刀夜のいうとおり龍児が倒そうと言った所で自警団が動かなければ意味は無い。だがそんな時、龍児に妙案が浮かんだ。
「よぉ。またテメーがひと騒動やらかしゃいいんじぁねーのか?」
龍児はニヤニヤとした顔で刀夜に
だが刀夜にしてみればあればオルマーと関係を結ぶためと魔術ギルドに入る為の工作であり今回わざわざ危険をおかす必要はない。
「あの時お前は嫌がっていた筈では?」
「うぐッ」
「その後もその事で俺はお前に酷い目にあわされたぞ」
「うぐッ」
なのにその本人から
今の自警団にそんな余力があるかどうか。だがその場所にはボドルドがいる可能性が高い。
元の世界に戻る為にもボドルドには一度会う必要はあるだろう。だがそれは自警団が捕まえてからではダメなのである。捕まえてからでは交渉にならない。
そしてボドルドと交渉をするには奴との取引材料が必要になる。どのようなものが材料になるか分からない今、それを知るためにはボドルドが何者で何を求めているのか知る必要がある。
『真実は帝国首都にある』となれば首都に赴かなければならない。
それには古代帝国文字を読める人物が必要だ。それはアリスさんに頼むしかないだろう。だが果たしてモンスターの巣窟に彼女はついてきてくれるだろうか……
刀夜は大きく大の字になって体を捻って背中からプールの水に落ちた。
「お、おい刀夜!?」
刀夜の突然の行為に龍児は驚いた。また気を失ったのかと危惧した。
「頭を冷やしているだけだ。一度に多くの情報が入りすぎた。冷静に分析しないと……お前も頭を冷やしたらどうだ。ボドルドだけが必ずしも悪とは限らない。この世に絶対悪なんてないんだぞ。マリュークスの言っていることもどこまで信用できるか……」
「んなことぐらい分かってら!!」
龍児もプールに飛び込むと二人して大の字になってプールに浮かんだ。巨大な満月を見上げて二人はこの先どう進むべきか互いに思いに
沈黙を破って口を開いたのは龍児だ。
「なぁ、ボドルドもマリュークスも地球人なのか?」
「それしか考えられん……」
「日本人なのか?」
「少なくともマリュークスはそうだろう」
「あの爺が日本人ねぇ……」
「直接会ったんだろ」
「日本語は流暢だけど……400年前ってことは……」
「マリュークス歴412年だから西暦1607年だな。1年が同じ周期ならだが」
「レイラの話じゃ同じ周期らしいぜ、最もうるう年の概念はないみたいだが……江戸時代か?」
「関ヶ原が丁度1600年だからそうだろう……」
「そんな時代の奴が作った世界にしちゃ、言葉が変じゃねーか?」
「たとえば?」
「『トイレ』なら『かわや』と呼んでるはずだろ」
「……確かに。現代的表現が多すぎるな……こーゆーのはハルのほうが得意だっけ……」
「そーいや、お前ら随分仲いいよな。いつからの付き合いなんだよ……」
「……小2からだ…………」
「幼なじみって奴か」
「お前こそ颯太とは?」
「奴とは中1からの付き合いだな」
「……ふつーだな」
刀夜と龍児はその後も今後の方針やどうでもよい話題も交えて話し合った。だだ二人が後で思ったのは声だけで会話すれば意外と話せたという驚きであった。
リリアがエイミィを寝かしつけるのにかけた1時間もの間、彼らはずっとプールに入ったままだったという。
そんな二人がゆったりと話したのは後にも先にもこの時だけであった。
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