第272話 帝国の魔女2
「て、帝国の魔女だと!?」
「正しくは……帝国……魔道……技術……研究局……局長……」
龍児は驚いた。龍児だけではない刀夜もリリアも驚かされた。帝国の魔女……帝国といえば400年前に滅んだ古代帝国しか思いつかない。
となれば彼女もマリュークスのように400年生き続けた人物なのだろうか?
だがエイミィには両親がいる。それは事実である。であればマリュークスのように生きつづけたとは思えない。
眠気が吹き飛んだ刀夜の思考はフル回転を始める。ゾルディはエイミィの腕を持ち上げようとするがその動きはぎこちない。時間をかけてようやく目線まで持ち上げると自分の手を見つめた。
「や……は……り……しっ……ぱ……い……か……」
彼女は無念そうに表情を曇らせた。
「何が失敗なんだ?」
龍児が尋ねる。
「てん……そう、ちがう……てん……せい……しっぱい」
「転生失敗? ど、どいうことだ?」
「まさか帝国時代から転生してきて彼女に取りついたのか?」
龍児はよく分からないといった風だったが、察しの良い刀夜が核心を突くとゾルディは
「失敗とはどういう意味だ?」
「言葉どおり……失敗……魔法……不完全……未完成……だった」
「それはエイミィの体を完全に乗っ取れなかったということか」
ゾルディは刀夜の言葉に
「エイミィの両親を殺したのはお前か?」
彼女は再び
「不幸な……出来事……目覚めた……反動……本人……意思……でない」
「じゃぁ、あのイリュージョンのモンスターは?」
今度は龍児が質問した。こうなると浜辺を
「彼女……無意識……私の力……使った」
「エイミィが無意識にあんたの魔法を使ったということか?」
龍児の問いにゾルディは無言で
しかし魔術師のエキスパートらしいゾルディの力を間借りしたとなればありえる。だが一点分からないことがある。
「どうして俺たちの世界の空想物を生み出すことができたのだ? 帝国も似たようなモンスターがいたのか?」
浜辺を襲ったスケルトンやグールは地球の空想モンスターだ。別世界であるこの地に存在するはずがない。
「この世界に現れた者から聞いた話だ……」
この世界に現れた者……それはボドルドやマリュークスのことだろう。彼と帝国の間で何が起きたのかが重要だ。そこに帰れる手がかりがあるかも知れない。
「ボドルドと帝国の間で一体何が起きたのだ?」
まだ生きていると言われているボドルドがなぜ刀夜達をここに呼んだのか。帰る方法は? 奴はどこにいるのか? 知るべきことは多い。
「ボ……ボドルド……あの恩知らず……」
ボドルドの名を聞いてゾルディの表情が一気に曇った。
「ボドルド達が……来たのは突然だった……突然嵐が来て……彼らは帝国領内の……一部を破壊……現れた」
「嵐? それは黒い嵐の事か?」
龍児が自分達を飛ばしてきたあの嵐と同じなのかと問いただす。
「そう黒い嵐だった。私達警戒した。だが相手の一人、帝国語で話かけてきた」
帝国語で話しかけてきた!?
初めてこの地にきたはずの人がなぜ帝国語を喋れるのかと刀夜が驚く。もしかして帝国の彼らが逆に地球へやってきて一部の文明を置いていったのだろうか?
文明だけではない。この地の人類種と地球人はその姿が類似している。異なる星の生命体にしては酷似しすぎている。もしかして人類種の根元は彼らと同じだったのだろか?
刀夜の頭の中で色々な可能性を模索し始める。
「友好的な彼らを我々は受け入れた。彼らは元の世界に戻る方法はないといった。だから帝国で保護することにした。私たちは彼らの科学に興味を持った。彼らは私達の魔法に興味を示した」
「つまりお互いの得意分野さらして情報交換、仲良くしましょってことか」
龍児がかいつまんで簡単に説明をする。だが刀夜は帝国語で話しかけてきた相手がどうにも気になって仕方がなかった。
「その帝国語が話せる男というのがボドルドなのか?」
「違う別の男だ」
「ならマリュークスなのか?」
今度は龍児が尋ねたがゾルディは首を振って否定した。
「これではボドルドとマリュークス以外に帝国語を話せる奴がいたということになるな」
「ああ、そうなるな。で――その後どうなるんだ?」
龍児は刀夜に相槌を打ちつつもゾルディに後の話を求めた。ここまでくると自分たちの事というよりだんだんと夢物語を聞いているような気分になってきたのである。
「長い年月を得て彼らは魔法を取得し、我々は科学を学んだ。だが科学は難しく我々は理解に困難を極めた」
魔法の書を読んだことのある刀夜にとってはそれはそうだろうと思った。科学は理論の積み重ねの元に成り立っているので基礎的な概念をいくつも理解してゆくことから始めなければならない。
対してリリア
無論、より効果的にと追究してゆけば難易度は跳ね上がる。魔術ギルドのアレスのように下級魔法で留まってしまうかリリアのように上級魔法が使えるかはその差だという。
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