第266話 同じ境遇の彼女
「ねぇ、エイミィちゃん。パパとママはどこか出かけているの?」
舞衣は龍児と同じ疑問にかられて尋ねてみた。このような小さな子を放置して親はどこへと行ったのかと。だがエイミィにとってこの質問はタブーだったようで彼女の表情はみるみる青ざめてゆく。
「――あ……」
彼女は何か言いたげにするが唇を噛むように
「エイミィちゃん。悪いけど他の部屋も見せてもらうね」
刀夜の言葉にエイミィは青ざめて、突然立ち上がってテーブルをひっくり返えしながら走りだす。刀夜の体にぶつかっても彼女は気にも留めず龍児と梨沙の間をすり抜けて部屋から出ていった。
「何をしている。なぜ止めない? 追うぞ!」
龍児や梨沙は彼女の反応に驚き、あの事件に彼女が係っているのかと思えるような反応に、信じられない思いで対応できなかった。
刀夜の言葉でレイラと晴樹がすぐに彼女を追いかけて部屋をでてゆく。エイミーはすぐ隣の部屋、廊下奥にある扉へと入っていた。
エイミィは部屋の扉を閉じる。だがすぐに晴樹がその扉を押した。裏から抑えようとするが大人の力にかなうわけなどなく、晴樹は彼女を傷つけないよう慎重に扉をゆっくりと押し戻した。
「だめぇ、こないでぇ!」
もう押し戻せないと悟った彼女は扉を諦めて部屋の奥へと逃げていった。扉を押していた晴樹は急に扉の抵抗が無くなったのを感じてゆっくりと扉を全開にした。
足の悪い刀夜と彼を支えるリリア以外の面々が部屋へとなだれ込む。その部屋は寝室のようである。大きなダブルベッド、そしてまだ新しいドレッサーとクローゼット。どうやら両親の部屋のようだ。
晴樹達はさらに足を進めて奥へと入ってゆく。そして決して見たくなかったものが視界に入ると血の気を失った。
レイラもその光景を目の当たりにすると青ざめた。エイミィが身を寄せてるその物体は大人の男女が重なるように倒れていた。
「ま、まさか……」
レイラは倒れている二人の元へと歩もうとする。
「だめぇ!、きちゃだめぇ!!」
エイミィは涙をボロボロと流しながら倒れている親に寄り添っている。近づくことを拒まれたがレイラは倒れている二人に近づいた。無論二人は亡くなっており、死後から数日経過してるため腐敗が始まって少し臭っていた。
エイミィはレイラが近寄ると両親と彼女を引き離そうと必死に彼女の足を押し返そうとする。
「パパとママは病気なんだもん。近づいたらうつるもの!」
彼女は
だが晴樹はハッとしてこの状況はマズイと焦った。
両親の死、残された子供!
「しまった!! 刀夜! ダメだ! 入っちゃダメだ!!」
だがすでに時遅く振り返った晴樹の眼には顔面蒼白となっている刀夜の姿があった。刀夜の目は亡くなった親の姿と泣き叫ぶ子供の姿から目を反らせなくなっている。
膝が震えて体制を崩すと入口の壁にドンと背中が当たる。息が乱れ、胸が締め付けられるように苦しい。心臓は今にも爆発しそうだ。
あまりの苦しさに胸元を握りしめて拳を胸に強く沈める。だがそれでもどんどんと息が苦しくなると刀夜は吐き気をもよおした。
口元を抑えて刀夜は部屋をヨロヨロと出ていく。そして廊下の隅で膝を折ると耐えきれずに
刀夜の反応に皆は唖然とした。今まで何人もの死を見ても平然としてきたはずの刀夜がこの状況に耐えられないことに驚いた。
「まずい! リリアちゃん発作だ!」
晴樹の言葉にリリアは我に返るとすぐに刀夜の後を追う。何度も
それを刀夜の目の前にかざすと鏡に刀夜の目が映る。刀夜は苦しそうにもブツブツと呪文のような声をあげた。
そんな刀夜にリリアは彼の背中をゆっくりと摩って苦しみを和らげようとする。だが苦しむ彼にこんなことしかできないのかと思うとリリアは悲しくなってきた。
「晴樹、これは一体なんだ!? 発作? 何がおきた?」
龍児は何が起きたのか、皆目見当がつかなかった。それはレイラも葵も初めて見る光景だった。晴樹以外なぜ刀夜がこうなってしまうのか理由を知る者はいない。
「それは……刀夜には持病の発作があるんだ……」
刀夜の発作の事を知っているのは刀夜の家に住んでいる者達だけだ。口止めされていたので龍児達には伝わっていない。
「ごめん。それ以上は本人の了承なしでは言えない……」
両親を殺してしまった影響などとおいそれと誰かに言えるものではない。刀夜の発作はかなり重い。それは彼の命を危険にさらすほどである。
刀夜は自己暗示の効果が現れてきたのか呼吸が落ち着き始めた。だが彼はぐったりとして意識は
「ぼくは刀夜をホテルまで送るよ。エイミィちゃんのほうは頼むよ」
「お、おう……」
理由がハッキリとしないことに戸惑う龍児ではあったが、このような半病人が現場にいても足手まといなのは確実である。さらに殺人事件ともなればビスクビエンツの自警団に委ねるしかなく、部外者の刀夜はいないほうが都合がよいと判断した。
晴樹は現場をレイラたち本職にまかせると、刀夜の腕を掴んで自分の肩にまわす。立ち上がらせると反対側をリリアが支え、梨沙共々自警団でないメンバーは屋敷を後にした。
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