第262話 ファンタジーモンスターの正体
「いよぉーし、行くぜ!」
龍児が気合を入れて飛び出そうとする。ともかくその辺りテーブルや椅子を武器にして戦うしかない。
「まて! 慌てるな!」
大声で龍児を止めたのは遅れてやって来た刀夜だ。彼はリリアとアリスに肩を借りてやってきた。普段歩いている分には苦にはならないが、走るとかなりキツイらしく刀夜は大きく息を切らしている。
「なんで止めるんだよ」
「状況をよく見ろ、例えばそこ」
刀夜は杖で腰を抜かしている女性を指した。スケルトンが彼女の前に立ち尽くし唸り声をあげている。
「や、やべ!」
龍児は焦る。ここから走って間に合うだろうかと計算しつつ飛び出そうとするが……
「大丈夫だから見ていろ」
刀夜は再び飛び出しそうになった龍児を杖で止めた。
「なんだと!」
「大丈夫だから冷静になってよく見ろ」
怒る龍児を刀夜は勇めた。2度も大丈夫といわれ、本当に大丈夫なのかと龍児は彼女と怪物を観察してみる。
襲いかかってくるスケルトンは剣を振り回して唸り声で
刀夜は杖を付きながらヨタヨタとモンスターに近づいた。気がついたスケルトンは刀夜に近寄ってくると剣を振り上げて唸り声で
「と、刀夜!」
危険を感じた龍児が珍しく彼の名を呼ぶ。だが目の前にいるモンスターは
逆に刀夜は杖でモンスターを振り払った。振りかざした杖はモンスターの体をなんの抵抗もなくすり抜ける。
「え?」と皆が驚いた。
「ホログラフ? いや幻影なのか!?」
ホログラフは機械的に投影されるものだ、ここは魔法がある異世界。ならば魔法による幻の類いかと龍児は判断した。
「よく知ってるッスね。あれは恐らく古代魔法のイリュージョンっス」
龍児は漫画などでよく出てくる名を口にしたつもりだったが、どうやら当たりだったようだ。
幻影は精神系に属する魔法である。同じ精神系でもスリープのような人の睡眠欲を誘発する魔法はまだ簡単である。だが幻影を見せるような魔法はかなり高度な部類であった。
「だが、なぜわかったんだ?」
龍児はなぜそうも簡単に刀夜が見抜いたのか、そのからくりが知りたくなった。
「影だ。あと砂浜の足跡」
刀夜に言われてよく見れば確かにモンスターには影が無い。しかも砂浜にも関わらずモンスターに歩いた足跡も無かった。
その事実を知るないなや龍児はいらぬ屈辱を感じた。なぜこんな簡単なことに気がつかなかったのかと。
「イリュージョンには実態はないッス。光は多少屈折はするけど影ができるほどじゃないッスよ。当然質量はないッス」
アリスは自慢そうに説明を入れた。ちなみに最初に幻影を見破ったのはアリスである。だが刀夜も遅れて見破っている。
イリュージョンの魔法を知らない癖に大した洞察力だとアリスは感心した。とはいえ龍児を始め、殆どの人が気がつけないのは仕方のないこだとも思う。
浜辺に現れたモンスターはイリュージョンだとは思えぬほどリアルでクッキリとしていたのだ。
「最もこんな広範囲に本物と見分けつかないほどのモンスターを多数なんて相当な手練れッス。みんな気をつけるッス」
アリスはまだイリュージョンを習得していない。無論リリアも習得していない。
アリスはマウロウ師匠に見せてもらったことがあるが師匠でもここまで実態と見分けつかないほどの幻は出せなかった。それもこれほどの広範囲に複数体を生成したのだ。
相手は間違いなく師匠より格上の魔術師だとアリスは警戒した。
「二人とも頼む!」
刀夜が幻影の排除を二人に頼んだ。幻影を排除するには大本を断つか発動している魔法をかき消すしかない。だが見たところ魔法使いらしき者は浜辺にいない。
術者を倒すことはできない。となれば魔法をかき消すしか方法はない。リリアもアリスと同じことを考えていた。広範囲に吹きとばすにはマナイータが手っ取り早い。
だがあの魔法を使うと自身と周辺のマナが
敵がどこにいるか分からないこの状況で迂闊には使えない。最も杖を持ってきていないので微弱なマナで魔法を放っても消しきれない可能性が高い。
二人は同時に魔法詠唱に入った。
「この者の繋がれしマナを解放せしめり。ディスペル!」
面倒でも一つ一つ潰していくしかない。
「よし、からくりが分かればどうってことはない。逃げ遅れている人々を助け、首謀者を探すぞ。いけ!」
「はっ!」
アイリーンが自警団の面々に命令を下した。だが返ってきた返事は女性だけだ。男どもはどうしたのかと彼女が振り替えると男どもは股間を押さえて動けずにいた。
こんな非常時になぜと彼女は唖然とした。たがそれは仕方のないことであった。
アイリーン達はワンピースで肌の露出を押さえてはいるが異世界組の女子はまだ水着のままであった。肌を多く露出し、カラフルでかわいい水着姿にこの世界の男どもに免疫はない。
アイリーンはこれだから男は……と嘆く。そして遅れてやってきた舞衣が皆の上着を持ってきてくれた。
◇◇◇◇◇
アリスとリリア二人の活躍により浜辺の幻影はすべて排除した。総数は36体であった。
自警団の連中は浜辺にいた人々を誘導して現場から逃がし終えた。そのお陰で浜辺から人の気配は無くなってがらんとしている。散乱している荷物と屋台がなければオフシーズンの海岸のようだ。
自警団は魔法使いを探したが海岸沿いにいないのは一目瞭然である。物陰などに潜んでいないか全員で辺りを捜索したが見当たらない。
民衆が逃げるときにどさくさに紛れて逃げたのだろうか?
だとすればこの襲撃の意味はなんだったのか?
もしかして陽動で本当の狙いは別か?
アイリーンの頭脳は敵の目的のなんなのかと思案しようとするが、情報が少なすぎて結論にいたらない。となればやはりこの騒動を引き起こした魔術師を探すのが先決だ。
そわなとき屋台の一角で不振な行動をしている者をリリアが見つけた。それは小さな女の子のである。
年齢は大体5歳ほどだろうか、リリアと同じパステルピンクの髪をしていて服は良いところのお嬢様のような服を着ている。その衣装は不思議の国のアリスを思いだしそうだが、南国らしく所々シースルーとなっていて通気性は良さそうな服だ。
だがその女の子の背負った大きな鞄からは屋台の景品らしき玩具が顔を
口には食べ物が入っているのか、モグモグとハムスターのように頬張っている。
「こんなところでどうしたの?」
リリアは女の子に優しく声をかけたつもりだった。だが急に声をかけられて女の子は大きく体をびくつかせて、頬張っていた食べ物をゴクリと飲み込んでしまう。
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