第261話 ファンタジーモンスター襲来
――4日目の朝、プライベートビーチにて。
「アイリーン隊長!!」
プライベートビーチでビーチバレーを楽しんでいたアイリーンを呼びに自警団の団員が生垣を割って顔を出した。よほど緊急だったらしく彼は顔面蒼白である。
「どうした!?」
アイリーンがその声にただ事ではないと判断して振り返った。先程まで乙女のようにはしゃいでいた笑顔はキリッと仕事モードへと切り替えられている。
振り向きざまにビキニに包まれた彼女の放漫な胸が揺れた。
「ぐはっ!!」
団員の男は急に鼻血を吹き出して倒れそうになった。隊長のあられもない姿もさることながら、周りの女子もまるで下着姿のような
ここは天国か……まさにヘブンビーチ……
本日は他の客がいないので、ここプライベートビーチでは刀夜たちの貸し切り状態である。激しく運動していれば肌を隠すために着ていたワンピースも邪魔だと感じて脱いでしまった。
3日も一緒に泳いでいればビキニで肌を
アイリーンたちにとってあのような反応をされることが一番恥ずかしいのだ。
「た、た、た、隊長。き、緊急事態です。そ、早急に指示をお願いします」
鼻血をぼとぼと垂れ流している自警団の男は顔を反らしながら彼女の出動を要請した。よく耳を澄ませてみると歓喜だったはずのビーチの声は悲鳴となっている。
「レイラ! アイギス! 自警団出動する!!」
「はっ!」
彼女達と龍児達はアイリーンに敬礼をする。彼女たちははすぐに椅子に掛けていたワンピースを拾うと服を着ながら現場へと向かった。
拓真や舞衣たちも、これはただ事ではないと龍児達のあとを追う。
刀夜も何が起きたのかと確認したくなり、椅子から立ち上がろうとすると、それを見たリリアは彼に手を貸した。
◇◇◇◇◇
アイリーン達は隣の一般ビーチへと赴くと海を楽しんでいた客たちが慌てふためき、蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ惑っている。
「こ、これは一体何が起きたのだ!?」
「モ、モンスターです。モンスターが現れました!」
鼻血の部下から思いもよらない言葉が返ってきた。
「ば、ばかな……ここは街中だぞ!?」
逃げ惑う民衆の隙間から向こうが見えた。もぞもぞと黒い塊が蠢いいる。だがそれは個体ではなく集団であった。
モンスターと聞いててっきり単体もしくは数匹ていどと予想したアイリーンはさらに驚く。その数は恐らく30匹を上回っていると予想できた。
それほどのモンスターがいったいどうやって街中に侵入したのだろうか? 壁の向こうから来たのなら警報が鳴るはずである。音が鳴らないということは突如ここに沸いたとしか思えなかった。
海から来たのか?
だが海のモンスターなどいうものはこの世界には存在しない。モンスターかと思えるほどの巨大な生き物が存在するが人が襲われたという話は聞いたことがない。
可能性を考えれば新種だろか……現に見たことのないモンスターが暴れている。
アイリーンの元にピエルバルグの自警団団員が集まる。
「あ、あれはスケルトンじゃねーか!?」
「ゾンビ……いやグールもいるぜ龍児!」
モンスターを見た龍児と颯太は驚いた。そこにいたのはファンタジーゲームなどでお馴染みのモンスターだ。
この世界にきてギルドだの剣だ魔法だのとファンタジーっぽい世界観の割にはモンスターは見知らぬものばかりであった。
唯一、リセボ村で見たドレンチというモンスターがどこぞの映画で出てきたトレントという木のモンスターに似ていた。
だがそれですらトレントはいかにも木であったのに対してドレンチはどちらかといえば生物くさい。
それがここにきてようやくゲームに出てきそうなモンスターを拝むことができた。いや、できれば一生会いたくなかったモンスター。
スケルトンの骨に少し肉が残っているところがある当たり妙にリアルである。生意気にも剣と盾、そして部分鎧も着ている。どこか傭兵の成れの果てぽい。
グールそれともゾンビだろうか、そちらのほうはまだ肉がしっかり残ってはいるが、どう見ても腐敗している。こちらも生前使っていたと思われる装備を装着している。
「お前たちアレが何なのか知っているのか?」
レイラは見たこともないモンスターに青ざめながら尋ねた。
「あれはスケルトンとかグールっていう化け物だよ」
「死んだ人間が化け物になって人を襲うんだぜ」
龍児の説明に聡太が捕捉した。
「死んだ人間が動くだと? そんなバカな!?」
「あり得ませんわ」
「そんなの怪談でしか聞いたことありませんよ」
レイラ、アイリーン、アイギスが揃って否定した。彼女たちが否定するのは当然である。どのような生物であれ死んだらそれまでだ。生きているかのように動くなどあり得ないと。
だがそれは龍児達も同じである。知っていとはいえそれは空想の産物であり、実物がいるわけではない。
「いや、空想のモンスターだから、実際にはいねーよ」
龍児が慌ててフォローを入れるが嘘なのかと三人から冷ややかな視線を送られた。しかし実際にいま、目の前でそのような怪物が暴れているのは確かなのだ。これをほっておくわけにはいかない。
「お前ら、応援が来るまで我々が民衆を守るぞ!!」
「おおう!」
「任せておけってんだ!!」
『民衆を守る』その言葉に龍児の心は一気にヒートアップする。自慢のバスターソードを取ろうと肩に手を回した。
――スカ……
龍児は手応えを感じなかった。
「おろ?」
龍児は焦って背中のバスターソードを探すがない。当然である背負っていないのだから。
「ああ、しまったぁ! 武器は置いてきちまった!!」
彼らの武器はバスの中である。道中でしか使わないうえに部屋に持ち込むのは無粋なのでそのままとなっていた。
「ちくしょう。武器なしで戦うのかよ」
「やむえん。その辺の物を武器にするんだ。ただしあくまでも市民を逃がすのが目的だ。敵の正体が不明なのだから倒そうなどと思うな!」
それは堅実的な判断だなと龍児は思った。確か映画ではゾンビやグールに噛みつかれたものは同種になってしまう。仲間があのような姿に成り果てるのを見るのは御免こうむりたかった。
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