第260話 実は魔王が本末転倒で
プールサイドに設置しているリクライニング型の椅子に刀夜は座った。せっかくきたのだからと一泳ぎ、というよりはリハビリの水中歩行を済ませて休憩に入ったところだ。
ほどなくしてアイリーン、レイラ、アイギスが昨日と同じ水着を着て女子部屋から出てくる。
「刀夜どの、昨日からお言葉に甘えてプールを使わせてもらっている。気を使わせて申し訳ないな」
「いえ、こちらこそ日頃から仲間が世話になっていますので気兼ねなく使ってください」
刀夜は座ったままだが姿勢を正して挨拶した。
「まだ、体のほうは癒えないか。あれほどの重体であったからな……」
「なんとか……リハビリも順調ですから、もうすぐ杖も要らなくなるでしょう」
本当は龍児の一件がなければもっと早く治っていただろうと思っていた時期もあった。だがマリュークスからもらった薬はかなり効いているらしく、事件前よりも早く治るかも知れない。
「しかし、貴殿の国の水着は随分大胆だな……」
「お気に召しませんか? かなり似合ってて皆さんお綺麗ですが」
「うふふ、お世辞は結構よ。こんなオバサンに」
そんな話を聞いていた男子はお世辞抜きで彼女のナイスバディはすばらしいと思っている。女子高生の若々しい肌も良いが熟女の熟れいた体はそれはまた格別に良いものだと。
「だが泳ぐには実に機能的だ」
「私たちの水着は泳いだときの抵抗が強くて上がったときにベタつくうえに重いですからね」
刀夜は彼女たちの水着を見ていないのでどんな水着なのだと妄想を膨らました。しかし、いまいち想像がつかないので早々に切り上げる。
「明日は誰もお客がいないのでプライベートビーチは貸し切りとなりますから、明日も是非どうぞ」
刀夜の言葉に彼女たちだけでなく他の皆も目を輝かせた。
「うおぉ、マジか。ビーチバレーやろうぜ」
龍児が興奮しているようだが、どうみても龍児の身長はそれだけで武器である。ハンディキャップなしでは無理だと皆からブーイングを受けそうだ。
やがて拓真が上がってきて刀夜の隣の席に座った。ボーイにやらせれば良いのにリリアが飲み物を持ってきてくれる。
「泳がないのか?」
拓真が刀夜に尋ねた。
「泳ぐよりリハビリしなくてはならないからな。後で再開するよ。それより進展はどうだ? 何か分かったことはあるか?」
それは無論帰還方法のことだ。拓真はそれを聞かれると非常に心苦しかった。実のところあまり情報はなかったのである。
「翻訳済みの魔法書からはやはり師匠が言っていたとおり該当する魔法は無かったよ」
拓真は魔法の勉強のみならず師匠の手伝いで古文書の解析の手伝いも行っている。しかし古文書の解析は難しくマウロウの指示なくして作業は無理だ。
そこから該当する魔法を探すのは非常に困難であるが、いくつか得たものがある。
「帝国時代はかなり魔法文明が発達していたらしい。中にはかなりマナを消費するものも多くて帝国人というのはかなりの大量のマナを体内に流しても耐えられる体質にあったようだ。いまの人類とは大違いだよ……」
「しかし、それでは人類は退化していることにならないか? 例の文明ロストと何か関係あるのだろうか?」
拓真はいくつか解析できた魔法を使ってみようと試みたがマナ不足で思うような効果が出ないことがあった。
実際リリアが習得したマナイーターがそれである。刀夜は魔法アイテムを使うのが前提の魔法ではないかと思っていたが、拓真というよりマウロウ師匠によればそうでもないらしい。
しかし、こうなってくるとますます魔法方面での帰還は難しいとしか思えなくなっきた。そしてそれを一番実感しているのは拓真だ。彼は落ち込んでドリンクを口にした。
しかしながら刀夜のほうではマリュークスからもらった情報がある。拓真を励ますつもりで経緯も含めて刀夜は話した。
「そのボドルドに会えたからってすぐに還してもらえるとは限らなさそうだね……」
「わざわざ呼びつけたからには何かさせようとする……と思うよな……」
「しかし、僕たちを呼び出したにしては、そのボドルドって人一向に姿を見せないね」
「これが漫画ならよぅ『勇者よよくこの地に参られた。さあ、世界を滅ぼそうとする悪の魔王を倒すのだ』って展開なんだけどな」
突如口を挟んできたのは颯太だ。確かに漫画ならそんなノリだ。
「だが、僕たちの場合は召還主が世界を滅ぼした魔王だぞ。しかも世界が滅んだ後だ」
拓真が突っ込みを入れる。
「おうよ、ありきたりな展開を打破して召還主の魔王を討伐……」
「魔王は本末転倒だな……」
「んじゃ、平和に暮らす人々を俺達が支配……」
「僕たちは悪役か!!」
「どこに悪人がいるって?」
今度は龍児がやってくる。プールから上がったばかりなので彼はまだびしょびしょである。
龍児の問いに刀夜と拓真がそろって颯太を指差した。
「ほう、貴様が諸悪の根元か」
龍児は指をボキボキと音を立てながら颯太に迫る。彼を両手で掴み、頭の上に掲げるとプールへと投げ捨てた。
「で、なのんの話をしていたんだ」
龍児は余っていた椅子にドカリと座ってバスタオルでカラダを拭きながら尋ねる。
「いや実は魔王が本末転倒で……」
「……もとの世界への帰り方だろ」
拓真のジョークなのか本気でボケているのか判断し難いセリフに刀夜が突っ込みを入れる。
「龍児くん、ボドルドはなぜ帝国を滅ぼしたのだと思う?」
「ん? さあな……そんなのわかんねーよ」
「マリュークスは何も言っていなかったのか?」
刀夜としてはすでに聞いた質問ではあるが、拓真がいるのであえて聞いてみた。龍児の報告で漏れがないのは同席していたリリアの話からも明白ではある。
「ああ、奴からはそんな話はなかった。ただボドルドの奴は俺たちを殺せないから倒して欲しいと……」
「召還……もとい転送したのがマリュークスでその依頼ならわからんでもないが……」と刀夜は考えこむ。
「やはり僕たちの召還に何か意味があるか……」
拓真も考え込んでしまう。しかし刀夜はマリュークスの「ボドルドが転送者たちを殺せない」という発言はどうにも信じられなかった。
「その割には大勢死んでいる。奴が俺たちを殺せないなどとあまり信用しないほうがいいと思うがな……」
そうだ31名もいたクラスメイトはもう10人しかいないのだ。街についてから死亡率は一気に下がって安定している感はあるが絶対ではない。つい先日も颯太が危険な目にあっている。
ともかく帰るためのキーマンはボドルドである。マリュークスも含めて400年前の人物が生きていることに拓真は驚きをかくせないが。
そのうえで彼等の情報が今後の調査目標となることを刀夜は拓真に伝えた。
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