第253話 再会のアリス
刀夜とリリアはある目的で街のメインストリートにきている。美紀達にプールを誘われたがそれ以前にやるべき事をやっておきたかったのだ。
だが刀夜は大きなため息をつき、肩を落として石材屋から出てきた。彼の目的それは『硫黄』だ。
一応ボナミザ商会に頼んで探してもらったところ無いとの情報は得ていたが自分の目で確かめたかった。
そして情報どおり硫黄は無かった。硝酸はごろごろとあったため、余計に悔しくて仕方がない。それもピエルバルグ同様にタダである。
あちらこちら回れるほど体は良くないので店主に訪ねたところ、扱っているような店は見たことがないとのことだった。
こうなると隣の大陸に置いてあることを願うばかりである。取りに行くとなるとそれなりに資金が必要となる。
刀夜はぶつぶつと念仏でも唱えるかのように考えながらゆっくりと歩く。その後ろをリリアが心配そうについてきていた。
ふとリリアの姿が刀夜の視界に入った。
「あ、リリア。すまないな初めての海だったのに付き合わせてしまって……」
刀夜は申し訳なさそうな表情で彼女の様子をうかがった。彼は出かけるにあたってリリアを連れていくつもりは無かった。
リリアの出身地であるプラプティの街はかなりの内陸地にあるため彼女は海を経験したことがない。なので始めて見る海に彼女に気を使ったつもりであった。だが刀夜の元を離れたくないリリアは彼に付いてきてしまう。
硫黄が見つかったのならともかく、見つからないのでは無駄骨であり、この事態は十分考えうることだったのだ。こんなことならプールやビーチで海を堪能したほうが良かったと彼は後悔しはじめていた。
「わたしは刀夜様の行くところならどこでも楽しいですよ」
彼女は頬を染めてニコリと返事するものの内心は焦りを感じ始めていた。刀夜が元の世界へと帰る日が近づいているような気がする。
帰るなら自分も連れって欲しい……そんな思いを込めた言葉だった。だが彼にはそこまでは伝わらない。
「あれ? 刀夜っち?」
刀夜は変な名前で呼ばれてムッとした。
声のするほうをみれば、買い物袋を両手で抱えた背の高い魔術師が立っている。
オレンジ色の髪が横に跳ねて、ヒラヒラがついた翡翠色の魔道士の服を着ている彼女を刀夜はどこかで見たことがあるような気がした。
「えっと……」
刀夜は彼女の名前が思い出せなかった。というよりどこで会ったかと記憶をたぐり寄せるが思いだせなかった。
「アリス・ウォートさんですよ。賢者の弟子の」
リリアのフォローでようやく思い出せた。彼女は巨人戦の際に刀夜を助けてくれた人物である。だがほとんど意識を失っていた刀夜が彼女のことを思い出せないのは仕方のないことだ。
彼女は賢者マウロウの弟子にして拓真の姉弟子でもある。
「申し訳ない。いつぞやは助けていただき、ありがとうございました」
刀夜は深々と頭を下げた。
「いやいや、こちらこそッス」
アリスも深々と頭を下げた。だがそのとき彼女の持っていた買い物袋から果物や野菜がごろごろと溢れてしまった。
「あらあら……」
リリアは慌ててそれらを屈んで拾った。刀夜も拾うと屈むがまだ体が痛むのか辛そうな様子である。
「刀夜っちはいいッスよ」
アリスはさすがに体が不自由な刀夜に拾ってもらうのは忍びないと思って断った。刀夜は彼女の言葉に甘え数個拾っただけであとは二人にまかせる。
「せっかく出会ったのだからお茶でもどうッスか?」
拾い終わった彼女は笑顔でカフェを指差した。巨人戦では刀夜と話すことが叶わなかった。彼は街に帰るまで気を失ったままだったし、別れのときも議員に呼び出されて会うことはできなかった。
「ええ、そうですね。では少し……」
「そや、そや、いこいこ」
刀夜もその後の拓真のことが聞きたいと思うのであった。彼は帰る手だてを探すために賢者の元で頑張っているはずなのだが、アリス同様全然会えていない。
◇◇◇◇◇
メインストリートの大きなカフェの店内の一角に刀夜達は入った。品物を注文すると彼らの座っているテーブルに常温のお茶が出された。
冷たい飲み物が欲しいところだか氷は魔術師でないと作れない。水を冷やすにはせいぜい地下で冷やすしか方法がないのだが、それとて限度がある。
常温のお茶が出てきたということは冷えた水のストックは尽きたのである。
「刀夜っちはまたどうしてビスクビエンツにきたんッスか?」
「ここへは旅行に来ました」
お茶を飲んでいる刀夜に代わってリリアが答えた。
「ついでに探し物をしていたところだ」
ティーカップをテーブルに置いた刀夜が補足する。
「へー、それで探し物は見つかったんスか?」
刀夜とリリアは揃って首を振った。今まさに玉砕したばかりである。
「何を探しているんッスか?」
アリスは刀夜の探し物に興味を引かれた。この男がわざわざこの街に足を運んででも欲しがるものとは何なのか知りたくなった。
「硫黄だ」
「イオウ?」
鉱物知識の乏しいアリスにはそれはなんなのかと分からない様子だ。彼女は魔法石ならそれなり知識はあるがそれ以外はからっきしである。
硫黄がなんなのか分からない彼女に刀夜は説明をしてみた。最も彼女に教えても見つかるとは思えないのだが……
しかし彼女は好奇心の塊のような人物で刀夜の説明に興味しんしんで聞き入っている。
「もしかして……あれッスかねー」
彼女は刀夜の説明の特徴に似た鉱石を知っていた。だが硫黄のような結晶は他にもある。石材屋を探してもないものを簡単に見つかるとは思えなかった。
恐らく
「それはどこで見たのですか?」
「そおッスね。一回見に行くッスよ」
アリスはそう言って立ち上がった。硫黄の見分けがつかない彼女は説明するよりは刀夜に見てもらったほうが早いと感じたのだった。
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