第252話 こっちは貸切プール
「お、お前達! なんて
突然声をあげたのはレイラだ。ホテルの出口にて棒立ちとなり、驚いて目をまるくしている。
皆はいやがうえにも彼女のキテレツな衣装に目がいった。とても海辺で着るような服装に見えなかったからだ。
彼女は袖つきのネグリジェともベビードールとも言えるような上着に膝まであるかぼちゃパンツのようなドロワーズ姿だった。
それも年齢に似合わないようなヒラヒラとしたフリルがたくさん付いる。彼女の色気も糞もない姿に龍児達は
「どうかしたのレイラ?」
レイラの大声を気にしてホテルから出てきたのはアイリーンとアイギスである。彼女達もレイラと同じような姿をしていた。
「あーっ! デジャブだ!!」
葵がげっそりと絶望したかのような顔をする。忘れもしない仕事中の居眠りで見たシチュエーションと全く同じだ。
「ちょっと見てやってくれコイツらの格好を」
「あら、ずいぶん大胆ね……」
「まぁ……」
アイリーンとアイギスは葵と由美の姿を見て困った顔をした。
「え? なんかダメなのか?」
訳が分からない龍児はレイラになぜなダメなのか訪ねてみた。
「そんな下着みたいな格好で
レイラの言われるまま辺りを見回すと葵や由美のような水着を着ている人はいなかった。皆、レイラのようなネグリジェとも言いがたい服を着ている。
葵の脳裏に悪夢が正夢となったと気が遠退きそうになる。
「男どもはともかくお前達二人はダメだ。風紀を守る自警団が乱してどうする?」
「そ、そんなぁ……」
葵はもう泣きそうだ。由美も痛恨の思いだがレイラのいっていることが正しいと思った。事前のリサーチが足りなかったのだと悔やんだ。
「なんとかならないのか、レイラさん」
さすがに龍児は二人が可愛そうだと思った。今日のために前から準備して水着をこしらえているのを彼はよく知っている。苦労が大きかった分、彼女達の落胆は大きい。
「こればかりはどうにもならん」
「じゃあせめて、二人が着ているような水着を買ってくるとか……」
颯太もなんとかならないかとアイデアをひねってみた。だがその案には葵達は嫌そうな顔をした。あまりにも水着が可愛くないからだ。
着ている本人達の前では言えないがダサくてみているほうが辛いと思えるほどだと。
レイラは二人を気の毒に思い優しく声をかけた。
「可愛い水着ではあるのだがな、ここの者はそんな水着に免疫がないのだ……」
レイラがなんとか
「ああ、やっぱり葵たちだ」
すぐ隣の垣根を掻き分けて美紀が顔を出していた。
「やっほー、葵」
美紀は楽しそうに声をかけたが葵はまるで幽霊にでも取りつかれたかのように恨めしそうに美紀をみた。
「どうしたの? お腹痛いの?」
美紀は葵の異変に気がついて彼女を心配した。
「この水着で泳いじゃダメなんだと」
答える気力のない葵に代わって龍児が答えた。
「ええ!? マジなの?」
「なぁ、お前も早くそれ着替えないと怒られるぜ」
今度は颯太が美紀のビキニを指摘した。彼女のビキニはもう泳いだのかすでに濡れている。
「あたし達は大丈夫だよ」
「え? なんで?」
「だってこっちは貸し切りだし、許可とってあるもの」
刀夜はプールが貸し切りなるように三部屋取っておいたのだ。無論葵たちが泊まれるようにするためでもある。
そして念のためフロントで彼女達の水着着用の許可を取ってある。またプライベートビーチへはワンピースなどで肌の露出を抑えれば良いとの了承も得ている。
「ね? だからこっちにおいでよ。龍児くんもアイリーンさんたちもどうぞ」
「いや、しかし……」
葵やアイリーン達は美紀の提案に
「――でもお金ないし……」
葵は残念そうに答えた。
「お金なら要らないわよ。全部刀夜が払うって言っていたし、最初っからそのつもりみたいよ」
「え?」
目が点になっている彼らに美紀は刀夜の思いを伝えた。さすがにそこまでお
だが龍児はいまだ戸惑っている。刀夜の
「龍児達も来てくれるよね?」
「いや俺は――」
「龍児くんは優しいから、あたし達に寂しい思いなんてさせないわよねー」
「…………」
「今なら丁度刀夜もいないんだけどなー。一緒に遊ぼうって誘ったのに。言い出しっぺがどっか出かけちゃうんだから薄情よね。龍児くんは刀夜と違ってそんなことしないよね~」
「――わ、分かった。行く。行くよ!」
龍児はとうとう観念した。刀夜の手のひらの上で転がされているようで
「アイリーンさんたちもどうぞ。自警団全員は無理だけど四人ぐらいなら刀夜はいいっていってたわ。何よりうちの仲間がお世話になってるし。どうぞどうぞ」
美紀は三人を強引に誘った。これも刀夜の指示である。上官たる二人に恩を売っておき、なにかあったときに
しかし美紀にとってはそんなことはどうでもよく、単純に楽しみたい一心で彼女達を誘ったのである。ある自分の欲望を満たすために……
だが知り合いとはいえそんな誘いに乗ってしまって良いだろうかとレイラ達は悩んだ。しかし高級リゾートホテルに興味のある三人はその欲望に負けてお言葉に甘えることにした。
「じゃぁ、私はフロントに連絡入れなきゃならいから適当に入ってね」
そういって美紀はフロントへと向かって走ってゆく。
「ねぇ……あの娘、あの姿でフロントに行ったようだけどいいのかしら……」
アイリーンは別の心配をしていた。
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