第246話 身内で密談
馬車は一度、小休憩に入るとアイリーンとレイラは刀夜の馬車を降りた。再び馬車が動くと馬車内は異世界組だけとなる。ラウンジにて刀夜は皆に話しかけた。
「さて、今度は俺たちの情報共有だが……」
「え? まだ何かあるの?」
梨沙は刀夜のことばにまだ続きがあるのかと目を丸くした。アイリーンたちから情報を得たばかりで彼女の頭はまだ整理しきれていない。
「さっきのは自警団向けの話だ。彼らも俺たちに話せないことがあるように、俺たちも彼らに話せないことがある」
重要な情報はボドルドに関するものである。自警団側がその手の情報を得たさいに此方との取引に使えるカードだ。ゆえにこちら側に貴重なカードがある場合は簡単に
特に龍児、颯太、由美、葵は自警団に入っている。情報を得たことがばれると立場上、自警団より問われることになる。その際に何を喋って良いか何がダメかはっきり認識させておく必要がある。
「互いに意見を交わして今後のことを考えよう」
「意見交わすもなにも、隠し事が多いのは刀夜君のほうじゃなくて。巨人のときとか……」
舞衣からきつい一言を突き付けられた刀夜は言い返せず渋い顔をする。確かにあの時は何を目的に行動しているのか説明もなく彼女たちは手伝わされていた。
「済まない、あれはオルマー家のために極秘で行う必要があったからだ。話せるものは何でも話すようにしているだろ?」
「…………ま、いいけど」
舞衣はどうせこんな話をしても彼は同じ事を繰り返すだろうと思っていた。事実この旅行以降に刀夜は単独行動を頻発するようになり、舞衣の危惧は的中する。
「まずは龍児やリリアの出会ったマリュークスについてだが、彼は本物だと思うか龍児?」
龍児とリリアが出会った自称マリュークスが本物かどうか重要であった。偽物ならその者が何を語ろうと無視である。だが本物ならその言葉すべてが重要な手掛かりとなる。
「わからねぇよ。本物知らねぇからな」
身も蓋もない回答に刀夜は目が点となる。なんと役に立たないやつだと……だがこれは質問が悪いのかも知れないと刀夜は言い直す。
「では、他に何か感じたり思うところはあるか? 実際に出会っている者の印象や直感は重要だ」
ここまで具体的に言えば察しの悪い龍児でも何か言えるだろうと刀夜は思った。
「そうだな……あの爺さんはどうも俺たちのことを知っているような印象だったな」
「そう言えば刀夜様を助けたり、私たちを教団に導いたり、単に遠くから
「あの一件か……」
リリアから聞いた話などを判断するにマリュークスは遠隔魔法を使って人を操作していたらしい。ここで刀夜はもう一度整理してみた。
一つは刀夜がヤンタルの街で感じた胸の動悸。それは刀夜をリリアに導くためのものであった。
一つは刀夜の危機にブランを差し向けたことである。そのおかげで刀夜はゴロツキから命拾いしている。
一つはその後に刀夜をリリアの元へ導いた蝶である。そのおかげで刀夜はリリアを得ることができた。
ここまでは奴隷商人からリリアを解放するための手段だったとも言える。マリュークスは刀夜を使ってリリア助け出すことを目的としていたとも読める。
一つは先日の一件でリリアと龍児をマリュークスへと導いた蝶である。
刀夜は玉鋼の件もマリュークスが絡んでいるかと思ったがどうもこれは偶然のようだ。なぜなら先の4つの出来事は最終的にはリリアをマリュークスの元に導くためだと考えられるが玉鋼は関連性がない。
つまりマリュークスを幽閉していた結界をリリアに破壊させるための一連の仕掛けだ。刀夜にはそうとしか思えなかった。
だがそれを行うにしても刀夜やリリアの事を知らなければこんなことは不可能だ。リリアが結界を破壊する魔法は出会た時点では持っていなかった。彼女を助け出すことでリリアがその力を得ると知っていなければ助ける意味がない。しかもそれらがすべて計画通りだとしたらマリュークスの先読みは超越している。
いくら大賢者といえどそんな事が可能なのだろうかという疑問がある。しかしそうなると偽物とは思いにくい……予知能力……または予知魔法があるのか?
刀夜は自分の考察をわかりやすいように説明したが、ほかの者にはにわかに信じがたい内容だ。
「他に分かることはないか?」
刀夜が尋ねてみたが特にネタはないと誰もが口を開こうとはしない。
「では俺の意見を言わせてもらう」
誰からも返答が無いので刀夜は自身の結論と注意事項を述べることにした。
「まず俺はマリュークスは本物の可能性が極めて高いと思っている。ゆえに奴から得られる情報は極秘だ。自警団などに漏らさないでくれ。あと俺は彼は日本人だと思っている」
「ええっ!?」
「そうねぇ。私もそう思うわ」
刀夜の意見が突拍子もないと感じたのか皆は驚きの声を上げる。だが由美だけは刀夜の意見に賛同した。
「どうしてそう思う?」と龍児が疑問に思った。
「文献によれば人類が滅亡寸前になったとき文明が大きく失われている。その人類を救ったのは彼だ。その時に自分に都合のよい文明を彼らに伝えたのだと思う」
「日本語がいい例ね」と由美。
「時計も最たる例だ」と刀夜。
二人は顔を見合わせて答えた。
「じゃあ筆記はなぜ日本語じゃないんだ?」
「日本語は世界の中でも曖昧で難しい言語だ。特に文字は漢字が多いため覚えにくい。ちょっとでも簡単にしようとしたんだろ。ほとんど平仮名と対称だったからな」
それは刀夜がリリアから字を習ったときに最初に感じたことであった。刀夜は最初は単語で覚えようとした。だが単語が5個になると違和感を感じた。さらに10個になるとあいうえお表と一致していることに気付く。
「ちょと待って、それはおかしいわ」
突如、由美が異を唱えた。
「だって街並みや他はほとんど西洋文化よ」
「あくまで想像の範疇だがそれは帝国時代の名残じゃないかな。街は過去帝国時代の街をそのまま利用しているそうだ。あの防壁とか」
「この地にきて感じていた違和感それだったのかしら……」
梨沙はプルシ村で宿泊した際に刀夜との会話を思い出した。あの時は
見た目が西洋文化なのに日本語、まるで掻き混ぜたかのような違和感がそれだったのかも知れないと梨沙は思った。
「……ボドルドについてはどう思う?」
「世界に破壊者にて今なお暗躍しているやつか」
「それは置いておいて……なんのために俺たちをこの世界に連れてきたのだろうか?」
刀夜はボドルドが何を考えているのかさっぱり分からなかった。想像もつかないのである。
「マリュークスも知らないと言っていたのだろ?」
「ああ、そうだ。聞いたが知らないと言った」
晴樹の質問に龍児は答えた。龍児もその理由は知りたかった。何のために21名のクラスメイトが亡くなったのかと。
「マリュークスはボドルドは俺たちを殺せないと言っていた。俺たちに何かをやらせるために呼んだのだろうか?」
晴樹の疑問はもっともだ。皆もその疑問は感じていた。だがこればかりは情報が無さすぎる。
「悪の魔王を倒してくれとか?」
颯太が冗談で漫画のような展開を口にした。
「それを言えば奴のほうが魔王っぽいぜ。マリュークスからも倒してくれと言われているしな」と龍児。
「その件についてだけど間違ってもボドルドを殺そうとするなよ龍児……」
「なんでだよ? 倒したらマリュークスが返してくれるって言ってるんだぜ?」
「まだ彼を信用できない。
龍児は一応納得はしたようだが、その顔は少し不服そうにした。もっともボドルドを倒すとはいったが殺すつもりはこれっぽっちもないが。しかし、話の流れから刀夜はあることに気がついた。
「奴は本気で人類滅亡を企んだのだろうか?」
「あ? どういうことだ?」
龍児は刀夜の言っている意味が分からない。だが彼の言葉に龍児のみならず皆も分からないといった顔をする。現にボドルドは帝国を滅ぼしてしいるではないかと。
「ボドルドが人類の滅亡を望んでいるならなぜ奴は400年も沈黙しているか分からない。巨人兵をもっと生産して攻め込めば残った人類の
「マリュークスが防いでくれたとか?」
「彼はボドルドに幽閉されていたのよ。できるはずないわ」
晴樹の意見に由美は異を唱えた。晴樹は彼女の意見になるほどと思うと再び思考を巡らせる。だがこの答えは直接本人でも聞かないことには分かりはしない。
「ボドルドはマリュークスを殺す気はないみたいだな……」
「知り合いかなんかかな……」
「龍児と刀夜みたいな?」
颯太の何気ない言葉に葵が反応した。無論軽いジョークのつもりであったのだが……
「なるほど手段を選ばないあたりボドルドみたいだな」と龍児。
「直情的に滅ぼそうとかボドルドはお前みたいな奴だな」と刀夜。
二人は目を合わせると火花を散らすと、由美と舞衣はまたこのパターンかと大きくため息をついて頭を抱え込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます