第235話 新たなる目標

 自警団の4警を中心とした教団との激しい戦いは自警団の勝利で終わった。だが恐ろしい戦いとは裏腹にピエルバルグの街は普段通りの営みが行われている。


 彼らが平穏に暮らせるのは自警団の奮闘の賜物たまものである。


 しかし街を守る3警4警の働きは市民にあまり伝わらず不遇ともいえる。だが彼らは自身の仕事に誇りを持っている。誰よりも街を愛して戦っているのだと。


 その後、教団の砦にあった資料によってすべての街の拠点が潰された。だが潰した教団は全体の一部でしかないことは誰もが分かっており、いまだに教団の底が見えない。


 教団の残した爪痕は蝕んでいた街の闇からじわじわと表へと現れる。薬の供給が止まったために禁断症状に襲われる人々という形で。


 その薬については当初麻薬と思われた。だが得られた資料を調べているうちに麻薬成分が主ではないことが分かってきた。主成分の内容がまるで意味不明であったために、一体何の薬だったのか正体はつかめずに調査は今も続いている。


 また行方不明だった者たちの一部が砦より救出された。行方不明者の全体数からすれば僅かではあるが救出されたことは自警団やギルド総会の関係者にとって朗報である。


 しかしその大半は社会復帰が絶望とされ、家族たちの落胆は大きい。そして依然と行方不明者の数は多いままだ。


 彼らがどこへ連れてゆかれたのか、その答えは颯太が掴んでいた。『モンスター工場』である。その忌まわしい名前に誰もが不安を募らせた。


 中には信じていない者も少なくはない。何しろその工場が何なのか、どこにあるのかすべてが不明だ。ただ名前があるのみなのである。教団の砦の資料にも載っていなかった。


 その貴重な情報を知る人物、司教とベルト議員は何者かによって暗殺された。自警団内に潜んでいた裏切り者のダリル・フルトと同様に。


 彼らの口を封じた暗殺者はボドルドの弟子を名乗る恐るべき魔術師である。古代魔術の攻撃魔法を有している彼が本気になれば砦にいた自警団を全滅させることも可能であっただろう。


 魔術師としては優秀であると認めるところであるが、ボドルドの名を冠する以上、彼は世界の敵となる。だが神出鬼没なためまったく足取りがつかめなかった。


 そしてリリアと龍児がもたらした大賢者マリュークスと破壊者ボドルドが生きているという情報は自警団幹部を驚かせた。事実なら彼らは400歳以上である。


 情報が情報なのでこれは自警団のトップと極一部の者だけに留めている。だがににわかには信じられないといった者が大半であった。しかし弟子の存在や教団の技術力のこともあり、完全否定できないのも確かである。


 リリアにより大賢者マリュークスはおりから解き放たれた。このことがやがてこの世界に大きな影響を与えることとなるが、そのことは今は誰も知るよしもない……


◇◇◇◇◇


 龍児は刀夜との約束どおり颯太を助け出してみせたが、その内容は龍児というより颯太の奮闘による賜物たまものである。されど約束は約束なので刀夜は渋々龍児を許すと、彼は自警団に復帰することとなる。


 約束とはいえ彼を許した理由の一つとしてリリアと共に持って帰ってきた薬のことがあった。恐ろしくまずい薬だったが効果は高く、刀夜は杖を突いて自分で歩けるようにまで回復していた。


 回復が早かったのは献身的なリリアの介護とリハビリもあった。ゆえに刀夜の復帰を一番喜んだのは彼女である。


 だが刀夜は体が動くようになると同時に鍛冶屋業を再開しだす。そのような彼に皆はあきれていた。


 龍児とリリアが持ち帰ったのはそれだけではなかった。刀夜たちが喉から手が出るほど欲していた情報である。


 彼らがこの世界に連れてきたのも帰る方法を有しているのもボドルドだと言う。それが真実なら「ボドルドが生きている」という情報は信じる信じないではなく「生きていてほしい」という切望に変る。


 しかし同時にそれはどうやってボドルドを探すのか? という問題に直面することとなった。本当に生きているか分からないような人物を探すのは殆ど雲をつかむような話である。


 だが刀夜はこの件について皆に2つ案を出した。一つは弟子の存在。もう一つはモンスター工場である。共にボドルドが関係していそうなことである。だがそれとて情報は途絶えている。刀夜は最後に皆に一言を付け加えた。


「俺達をここへ連れてきたのがボドルドの意思なら、必ず会える日が来る」と。


 必ず何か訳があるのだと刀夜は考えていた。だが本当のところは本人もまだ確信はできていない。だが皆が生きていくには目標が必要だった。それも現実的に可能そうで希望となるような目標だ。

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