第228話 約束は守ったぞ

 龍児が二階に突入すると予想通り教団の信者達が剣を持って廊下にいた。彼らは突如現れた龍児に驚いて振り向く。


 龍児と一番手前の信者が剣を交えた。龍児は一気にパワーで相手を押しきろうとしたとき、急に剣が流される。


 相手は龍児のパワーを受け流したのだ。


 受け流した剣で即座に攻撃に入る。このままでは斬られると判断した龍児はさらに突進した。そしてタックルで相手を弾くが、突然だったために威力が甘かった。


 相手はさほど吹き飛ばされずに直ぐに反撃へと出てきた。流れるような剣に龍児は防御一辺倒とならざるをえない。


『やべぇ、こいつ手練れだ!』


 龍児は迂闊に飛び込んだことを後悔した。まさかこんな手練れがいたとは予想外だった。しかも龍児達のいる通路は広いため他の信者が回りこむように彼を襲おうとしている。


 手練れを相手に二人目はキツい。龍児は冷や汗を流す。だが回りこんできた男に飛んできたナイフが刺さり、血渋きをあげた。


「させるかってんだよ」


 颯太のサポートで龍児に敵を近づけさせない。しかし今度は颯太に対して敵が差し迫る。相手は仲間を殺られて怒り心頭となり、無我夢中で颯太に斬りかかる。


 直接戦闘の苦手な颯太はそれをダガーで防御するも明らかに分が悪い。近接を嫌がって後退して間合いを開けた。すると龍児が前に出ている分、囲まれる形となってしまう。


「まずい! 龍児、下がるんだ」


 先ほどから加勢に行きたいが割り込む隙間が無いため、リリアの護衛に徹していた晴樹が声をあげた。龍児は颯太が後退していることに気がつき、後退を試みようとするが手練れの敵がそれを見逃さない。


「そらそらぁー、気を散らしている場合か?」


「くッ! 調子に乗りやがってッ!」


 広い場所でバスターソードなら負けないのにと悔しがると龍児は再び防御で手一杯となる。


「龍児様! プロテクションウォール!」


 タイミングを伺っていたリリアが咄嗟とっさに覚えたての魔法を発動させた。グレイトフルワンドを突き出し、すでに登録済みの防御魔法を展開させると、龍児と手練れの男の間に魔法の壁が立ちはだかる形となった。


「チィ、魔法使いか、厄介な」


 良いところで阻まれて気分を阻害される。


「サンキュー、リリア!」


 龍児はすかさず颯太を襲っていた奴に横から蹴りを入れた。

 吹き飛ばされて壁に叩きつけられた所を颯太のナイフが急所に突き刺さった。


「颯太! 代われ!」


 見かねた晴樹が前へとでる。


「リリアちゃんをお願い」


「わ、分かった。すまねぇ」


 二人が入れ替わり、晴樹が刀を構えるとプロテクションウォールが解除される。通路の幅都合上、龍児と並ぶと使用できる技は限られる。だがそれは相手も同様である。


 晴樹が繰り出す技の数々に形勢は逆転する。あっという間に相手の喉を突きさし動脈を切り裂くと吹き出して血渋きが隣の手練れの男に降りかかる。


 顔に当たった血だまりが不運にも目に入り、突然視界を半分奪われた。


「ウッ、くそったれ」


 後退して体制を建て直そうとするが、今度は龍児がそれを見逃さない。好機とばかりに一気に押す。


 龍児の突進力とパワーをもろに受け止めるとその衝撃で腕が痺れ、足の動きも奪われた。返す剣で渾身の上段からの打ち下ろしを仕方なく受け止める。


 だが両手による渾身の力で受けたはずの剣はその勢いを殺せず、刃を肩に受けた。


「うぐ、こ、これは!」


 龍児の剣が相手の肩に食い込む。


「これで終わりだぁ!!」


 突如受けた剣からズンと重い衝撃を受けたと感じた瞬間、龍児の膝蹴りが相手の鳩尾に入る。てっきり剣を振り斬ってくると思われただけに予想外からの攻撃に意表を憑かれ意識が遠退く。


「……くそ、……ったれ……め……」


 技術は自分のほうがはるかに上だった。だが最後は運とパワーだけですべてを持っていかれた。男は自分の培ってきた長年の経験と技術を真っ向から否定されたかのようだった。


「う、うわぁぁ」


 その様子を見た残りの信者たちは完全に戦意を削がれた。だが震える手で握りしめる剣を彼らは不幸にも離すことができない。調子を上げた龍児と冷静に的確に相手をする晴樹はその勢いに乗って一気に残りの信者達を倒してゆく。


 彼らが剣を捨てていれば斬られずに済んだかも知れない。だが彼らは許してもらえるなどという考えを持てなかった。


「ブラン! 大丈夫か!!」


 龍児は元の侵入した部屋へと戻ってきた。捕まえた教団の頭を逃がすまいと部屋に一人で残ったブランの元へと向かった。だがそこにあったのは顔をボコボコに殴られて気絶している信者たちの集団であった。


「ブラン?」


「戻ったか龍児」


 そこにはしれっと何事も無かったかように立っているブランの姿があった。返り血を少し浴びているが怪我はなさそうだ。捉えた議員と司教も確保したままだ。


「これ、一人でやったのか」


 龍児は目を丸くした。全員殺さず、負傷も負わずに捕まえるなどと神業かと思えた。何しろ自分達は廊下にいた数名の信者を捕縛はおろか命からがら殴り倒すのがやっとだったのだ。


「すげぇ……」


「約束は守ったぞ」


 ニカリと笑うブランに龍児は敵わねぇと思うのであった。


 やがて雪崩れ込んだ自警団に教団の信者は次々と捕まった。そして畑には火がかけられて黄金の海が炎に飲まれてゆく。


 激しい炎と煙を立ち上げ教団の野望は空高く消え去ったが、これで教団のすべてが消え去ったわけではない。

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