第227話 激突自警団VS教団

 龍児達はこの先どうするか悩んでいた。


「ともかくここにいる者だけでも上にいこうぜ」


 颯太が嫌そうな顔で提案した。彼にとってここはあまり居たくないない場所である。


「しかし捕まっている連中はどうする? 人質にでもされたら厄介だぞ」


「だったら地下階段で籠城するのはどうだい? アイギスさんが自警団を呼びにいっているからすぐにくるんじゃないかな?」


 確かに晴樹の意見が良さそうに聞こえた。地下に下りるにはあの狭い通路しかないようだし、攻めて来るにしても良い防御になりそうな気がした。


 龍児達は先ほど下りてきた階段前にまで戻ってきた。そしてどう籠城するかを検討する。


 だが晴樹の提案どおりこの階段の狭さを利用するのがベストだと判断した。ここなら敵がなだれ込んできても常に一対一で対峙することなる。


 彼らが階段中央で戦術を思案していたとき、急に上が騒がしくなった。


「なんだ?」


 ガタガタと激しい物音した。どうやらそこそこの人数がこちらに向かってきているようである。


 龍児は敵がきたと判断すると前に出て階段を塞ぐ形をとった。彼のガタイは大きいので狭い階段ではほとんど壁である。


 龍児の後ろに颯太、その後ろに晴樹、最後尾にリリアと助けた自警団団員と並ぶ。


 鉄格子が開いてローブを着ている男達が四人慌てふためきなだれ込んでくる。降りてきた男達と龍児の目が合う。


「げッ!! じ、自警団!」


 先頭の男が悲鳴のような声を上げて急ブレーキをかけると後ろから次々と追突された。


「な、なんでここにも自警団がいるんだ!?」


「ここにも?」


 彼らの言葉に龍児はピンとくる。アイギス達が来てくれたのだ。そしておそらく襲撃されて彼らは慌てて逃げてきたのだと。


 もしブランが見つかっただけなら、彼一人にこうはならないだろう。とはいえこうなると追いたてられた教団の連中がブランのほうに向かったかも知れない。


「ブランがやべぇぜ!」


 叫ぶと同時に龍児は目の前の男の顔を掴むと引き寄せて突き上げるように強烈なボディブローが炸裂。男の体は地面から浮く。それも後ろの男の顔前に尻が見えるほど。


 そのまま気絶すると階段を滑り落ちるようにして、龍児の股を通って下に落ちた。後ろの男が慌てて腰のナイフを抜こうとするが、龍児の右フックをもろに受けると壁とサンドイッチとなってしまう。


 またしてもや一発で気絶させられ階段を滑り落ちてゆく。


「な、なんだこいつは!?」


「うおおおおおおおお」


 龍児は雄叫びを上げ、二人の相手をショルダータックルで上へと押し戻し戻す。まるで重機関車のように階段を駆けあがると後ろの壁に二人を叩きつけた。


 階段を降りようとしていた男は信じられないといった目で顔をひきつらせた。龍児のタックルでのびている二人から龍児へと目線を変えると目が合ってしまう。


「ひいいいい怪物だぁぁぁぁぁぁ」


 男は足を滑らせながらも元きた方向へと逃げ出した。


「誰が怪物だッ!」


 龍児が不満にげにする。喧嘩で色々と言われたことがあるが『怪物』は始めてである。最も類語の『化け物』は言われたことはあるが、龍児としてはまだそのほうが言われ慣れている。


「龍児!」


 晴樹が龍児に進むように促した。


「ああ、わかってらい」


 仲間が来ているならここで籠城する必要はない。すぐにブランの加勢に行かなければならない。


 龍児は先程の男を追いかけるように階段部屋から出てゆく。皆はそんな龍児の後に続いた。


 階段部屋をでると、そこにいたのは葵をはじめとする自警団だ。先程の男は彼女らにボコボコにされて捕まっていた。


 やはりアイギスが助けを連れてきてくれたのだ。彼女は約束を守った。ならば龍児も彼女に頼まれたことを守らなくてはならない。


「え? 龍児?」


 部屋から飛び出してきたのを敵かと葵は焦ったが、勢いよく走ってきたのは龍児だ。


「後はまかせた!」


 ただ一言そう言うと右の上へと続く階段を駆け上がってゆく。


「え? 何を?」


 何を頼まれたのかさっぱり分からず彼女は戸惑いを隠せない。そもそも龍児がなぜこんな所から出てきたのかが謎である。上官からは仲間としか聞かされてない。


「よ! 葵、ごぶさた!」


 颯太が飄々ひょうひょうと挨拶して龍児のあとを追いかけて階段を上っていく。


「そ、颯太!?」


 もはやプチパニックである。龍児に続いてなぜ行方不明となっていた颯太がここにいるのかと、まったく状況が呑み込めないでいる。


「葵ちゃん、地下の捕まっている人達をお願い」


 さすが晴樹だ。龍児と違ってちゃんと何をやって欲しいのか会話になっている。しかし自警団でもない晴樹がなぜここにいるのか? 葵は考えるのが面倒になると思考を停止させた。


「葵様、よろしくお願いします」


 リリアも葵の目の前を通りすぎて階段を上っていく。そして理解する。またあの男が何かやらかしてくれたのだと。葵の冷たい視線がここにはいない男に向けられた。


 そのころベッドの中で言われなき疑いをかけられた刀夜は悪寒に襲われていた。

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