第225話 反撃開始2
ガタッ! 突如クローゼットから大きな音がした。
大きな机の椅子に座っていた背広の男が驚いて音のしたクローゼットを見つめた。一体なんの音なのか……クローゼットには緊急避難用の隠し通路がある。もしかしたら風で隠し蓋が空いたのかもしれない。
仕方が無いと言った感じで隠し蓋を直そうとクローゼットへと近づいた。だが万が一小動物が迷い混んでいたりして開けた瞬間目が合ったから嫌だななどと考えてしまう。
扉を大きく開くと、そこには大男が二人しゃがんで並んで入っており目が合った。
「うわわわわーっ!!」
彼は驚き腰を抜かして床に倒れると後退りして距離を取った。ぬぅっと大きな体の男が二人、クローゼットから出てくる。さらに後から三人。
片目の大男がギロリとへたり込んでいる男を睨みつける。
「ひぃいいいいい」
ブランにとって非常に見知った顔の男だ。忘れることなどできようもない。
「貴様、ベルト・ベルリット議員だな!」
「お、お前はブラン!! なぜここに!」
ベルトは目の前にいる男の存在に青ざめた。ブランは妻子を失ったとき敵を探して勝手に動いて行き着いた犯人がこの男だった。だがあまりにも証拠がなく、殆ど予測の域でしかなかった。しかも相手は議員だ。
さらにブランは自警団の指示を無視して勝手に動いたので逆にそのことで責められることとなった。その時にこの男からあることないことデタラメな証言で侮辱を受けたことをブランは忘れてはいない。
ブランは鬼のようような形相で、眼力だけでも相手を殺しかねないような雰囲気である。さきほどとは異なる別人ぶりに龍児は驚く。
「もう言い訳できんぞベルト! よくも俺の大事なものを奪ってくれたな!!」
「ひいい、貴様またこんな勝手を!」
「勝手ではない! 許可はとってある! 観念しろぉ!!」
ブランの大声に表にいた教団員が扉をあけて入ってきた。そしていつの間にか侵入していた珍客に驚くと
「なんだ貴様ら、どこから入りやがった」
「コイツ自警団だ!」
「こ、殺せ! 皆殺しにしろ!」
こうなってはもはや口を封じるしかない。ベルトは腰を抜かしたまま後ずさりをしてブランたちからさらに距離をとる。
教団員が剣でブランに襲いかかってくるとベルト議員は今のうちと壁に沿って逃げ出そうとする。だが出入り口の前までくると目の前を何かが飛んできた。
ビーンと音を立てて壁にナイフが刺さっており、思わずそれを見て背筋が寒くなる。
「ラスボスの癖に逃げてんじゃねーぜ。今度は二度と動けないように両足にぶちこむぞ」
ラスボスではないが、彼を
「くぅ、何をやってるさっさと――」
ベルトが教団の二人をけしかけようとするが二人は素手のブランにすでにボコボコにされて顔を捕まれていた。
「ふん」鼻息を吹きかけて二人をベルトの前に投げ捨てた。足元に転がされた教団の二人は完全に気を失っており白目を向いている。
味方を失ったベルトはみるみる青ざめてゆく。
「おい、司祭みたいなやつはどこに行った?」
颯太がナイフをちらつかせてベルトを脅迫する。だがベルトはふて腐れた面でしゃべりたくないとばかりにそっぽを向いた。こんなことに時間を割いている暇はなく、その態度に颯太は激怒する。
「おい、こっちにゃ回復魔術師がいるんだぜ。即興のヤバい拷問いこうか?」
自警団の拷問はかなりキツイと噂では聞いたことがある。ベルトはちらりとリリアを見て血の気を失った。魔術師がいることにベルトは本当にやりかねないと恐怖を感じた。
「と、隣の部屋のはずだ」
颯太と晴樹そしてリリアが捕えにいくべく、すぐに部屋を出ていった。龍児も追うとするがブランだけは動こうとせずベルトを睨み付けている。
積もる積年の恨みが彼の心を焦がしていた。そのようなブランの表情から龍児は嫌な予感を感じとる。
だが刀夜と約束している以上、龍児はリリアを守りにいかなくてはならない。そしてブランも刀夜にそう約束しているはずだが妻子の仇が目の前にいるのだ。
この瞬間、いま一緒にこいと言うのは酷のような気がした。龍児はブランの耳元で囁く。
「頼むから怒りに任せて殺したりしないでくれよ。貴重な情報源なんだ。しっかり『見張っててくれよな』」
「!」
ブランは驚いた表情で龍児の顔をみた。龍児は刀夜との約束による行動の拘束を解こうとしていてくれているのだ。
これでリリアの身に万が一があれば責められるのは彼になってしまう。刀夜との約束を破ることにブランは躊躇した。
「いや、し、しかし……」ブランの中で葛藤が発生する。
「あんたと刀夜の約束は俺が引き継ぐ。絶対に守り切って見せるから安心しろ」
龍児はブランの肩を叩いて部屋を後にした。
「すまない…………ありがとう」
ブランは龍児の男気に申し訳ないと思うと同時に感謝した。そしてブランとベルトは部屋で二人きりとなる。
「さて、お前には何から聞こうか……」
床にへたりこんでいるベルトにブランは冷たい視線を送った。この男を100回殺しても自分の気持ちは晴れないことをブランは理解していた……
◇◇◇◇◇
隣の部屋の扉を晴樹が勢いよく開いた。ここも書斎のような部屋となっている。
「きえええええッ!」
気合いの声と同時にサーベルが振り下ろされた。晴樹はとっさに刀で受けると一気に踏み込んだ。刀に体重をのせて教団の男を弾き飛ばす。
「ふーふー」
司教のような男は目が据わっていた。隣の部屋の物音から敵が来たと咄嗟に判断して今の一撃にかけたのだ。だが弾きかえされた。最低でも一人と思っていたが当てが外れた。
「手を貸そうか?」
部屋に入ってきた颯太が訪ねる。
「ヤバくなったらね。もっともあの程度の太刀筋に負ける気はしないけど」
晴樹はにこやかに笑顔で返した。だが司教に顔を向けると顔つきが変わる。怒っているのか笑っているのか、どこを見ているのか司祭には判断がつかない。
晴樹は無表情にそして静かに殺気を放つ。
刀を中段に構えた。
「うーうー」
司教は向けられた剣先を嫌がり、左右にうろうろと位置を変える。だが晴樹の剣先がつど司教を追従する。
睨みあっていても埒が明かないと業を煮やした司教が斬りかかった。
だが晴樹の刀が消えたように見えた瞬間、司教のサーベルの刃半分が消え去る。
切り落とされて宙を舞ったサーベルの刃は絨毯に包まれて静かに床に落ちた。
司教は信じられないといった顔で愕然とする。
「へん、年貢の納め時だな」
戦ったのは晴樹なのになぜか颯太が勝ち誇る。
「く、くそう!」
司教は残った柄部分を晴樹に投げつける。晴樹はそれを刀で弾いた瞬間、司教の顔面に刀が叩きつけられていた。
司教は懐からナイフを抜こうとしていた。投げつけたサーベルを晴樹にガードさせて突き刺すつもりだったのだろう。
だが彼は晴樹の腕前を舐めていた。司教はナイフを抜ききる前に一撃で倒されると後ろに倒れる。
「お、おい、殺してねーだろな!?」
颯太は青ざめる。貴重な情報元なのだ。
「ま、一応峰打ち」
「あ、そっ」
颯太には普通に刃のほうで斬りかかったように見えた。だが司教の顔を見れば顔一直線に赤く叩きつけられた跡があるが斬れてはいない。
鼻血をだして顔は赤くなっている……
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