第224話 反撃開始1

 龍児たちは森の草葉から望遠鏡で砦の様子を伺ってみる。砦には時おりフードの被った者達が二回生の窓から見え隠れする。


「間違いねぇ、連中のアジトだ」


「ああ、間違いないな。ついに突き止めたぞ」


 自警団が追い求めていた拠点が見つかりブランの心もはやる。だが彼らと異なってリリアは極度の緊張にさらされていた。


 教団の施設に高度な魔法の罠を張った手練れの魔術師のことだ。聞いているかぎり真正面からやりあって勝てる気がしない。リリアは攻撃魔法を持っていないのだから。


 もし対峙した場合、全魔力を失ってもマナイーターを使うしか方法が思い浮かばない。


 相手の魔力さえ奪えば白兵戦で勝機があるかも知れないと。最も相手がその魔術師だけだったらの場合だが。


「どうやって侵入する?」


 今のところ砦に侵入できる入り口は表の扉しかないように見える。一階の壁には窓はなく高い位置に光を取り込むスリットがあるだけだ。そこからは侵入できない。


 二階には侵入できそうな窓があるが砦の壁は見事に絶壁で登れそうな所がない。


「ここからでは無理ですな」


 表から侵入したのでは見つけてくれと言っているようなものだ。隠密に侵入して首謀者を押さえないとまた逃げられる恐れがある。捕まっている颯太達が人質にされる恐れも考慮しなければならない。


「裏口がないか迂回して調べてみよう」


 ブランの意見にみんなが賛同する。再び森の中を移動するが困ったことに森は砦を囲んでいなかった。


 かわりに彼らの視界に入ったのは黄金色に輝く畑であった。夕日に照らされればさぞ美しい光景なのだろう。思わずそんなことを考えてしまうが今はそれどろではない。


「まいったな……」


 畑を通れば砦から丸見えになってしまう。これでは裏には回れない。彼らが悩んでいると、近くの井戸から突如教団のローブを被った者がひょっこりと頭をだした。


 龍児たちは驚いてあわてて口を塞ぎ、草木の裏に隠れた。そっと間からのぞき見る。


 教団の者はキョロキョロあたりを見回していて明らかに挙動不審だ。後ろ向きなうえにフードを被っているので顔がよく見えない。


『あいつを捕まえないか?』


『あの井戸、隠し通路かもしない』


 龍児の意見にブランは自分の意見を付け加えると、互いにうなずいて了解した。


 ローブの者は井戸からいそいそと出てくるが狭いのか足場がないのか、なかなか苦労しているようだ。


「今だ!」


 ブランと龍児がローブの者に背後から襲って龍児が羽交い締めにした。


「観念して大人しくしろ! でないと殺すぞ!」


「ひいいいいいいいいい……って、え?」


 ローブの者はその声に聞き覚えがあった。というかよく知っている声だ。


「龍児?」


 自分の名前を呼ばれて龍児は一瞬驚いたが、よく聞けば聞き覚えのある声だ。


「その声、まさか……颯太なのか!」


 龍児は捕まえていた腕を緩めて彼を離した。颯太は頭に被っていたフードを脱ぎ、顔を龍児に見せた。見間違えるはずのないトゲトゲ頭は間違いなく颯太だ。


「龍児…………」颯太は感極まって涙目になる。


「りゅうぅぅぅじぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 颯太が号泣して龍児に抱きついてくる。


 颯太を必ず助ける、そう言ったものの自分自身半信半疑だった龍児は彼が生きていてくれたことに感極まった。思わずもらい泣きしそうになりぐっと堪える。


 晴樹もリリアも彼が生きていてくれたことに安堵はしたが、なぜ彼がここいにいるのかと不思議に思う。それもこんな古井戸から出てくるなど……


 二人の喜びもつかの間、ブランに説明を求められると颯太は砦の中に誘拐された人々や自警団の連中がいることを話した。


 そしてこの事件の首謀者達の話しをするとブランの顔つきが変わる。当然である妻子を殺した犯人に間違いないと彼は確信したからだ。


 さらに颯太から恐るべき事実が伝えられた。


「モンスター工場!?」


 みんが驚くのは無理もない。


 この世界のモンスターはこの地に生まれて繁殖していると思っていたからだ。そこでどれだけの獣が作られたのかは分からない。だが少なくとも作ったとしか思われないリセボ村の合成獣と巨人兵は存在する。


 そして『御方』と呼ばれれる存在。


 急に話のスケールが大きくなったことに彼らは戸惑いを隠せなかった。だがそれらも首謀者達を捕まえればすべて分かることだ。


「颯太、お前どうやって抜けてきたんだ? 捕まっていたんだろ?」


「ああそうだよ。地下に牢屋があってそこに囚われていた。抜け出して2階の偉いさんの部屋のクローゼットの中に隠し通路があってそこから脱出したんだよ」


 晴樹は颯太の行動力に驚いた。正直颯太がそこまでできる人間だとは思っていなかったからだ。彼のことを心のどこかで見くびっていたいたのかも知れない。


「ではその古井戸から幹部の部屋まで行けるのだな?」


 これはチャンスである。恐らくは幹部用の隠し非常口であろう。忍んで直接奴等の部屋へゆけば逃げられずに済むかも知れない。


「よし、その隠し通路から侵入しよう。そしてそいつらを捕まえて皆を助けるんだ」

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