第220話 スシュ村の暴動
後手にまわり続ける自警団の印象とは裏腹に自警団の動きはそんなに悪いものではない。昨日の夜の内に2警3警の非常招集が発令されてスシュ村へと赴いていた。
2警の分団長はアレス・ミドラー。
日焼けした色黒な肌が特徴で肌色に負けないよう顔のパーツは個性を主張しており、眉、目、鼻、口が縄張り争いをしているようだ。口数は少なく号令などは殆ど副分団長にやらせている。槍が得意だ。
3警の分団長はアイリーン・バッツ
3警は女性ばかりで構成されている部隊である。女性ならではの事件を扱うことが多い。
ウェーブのかかった金髪を染めて瞳の色と同じパープルがかったピンク色。少し分厚い唇にはお気に入りの紫の口紅。年齢の割には見事な肉付きの良いプロポーションをずっと維持しており、熟女らしいフェロモンを出している。なお年齢を聞いても絶対に答えない。
スシュ村へはリセボ村経由で馬で2日だが早馬なら1日の距離にある。しかし閉鎖的なのかリセボ村とスシュ村は殆ど交流はない。
人口も少なく交易もあまり行われていない。だが地理的なのかモンスターとの遭遇はめったにないのどかな村である。
自警団の合同隊は夜中に出たためその日の内にスシュ村へと入った。あまりモンスターとの遭遇がない為か予算、人員の問題か村の防壁はかなり脆弱でブランキのプルシ村といい勝負である。
村に入って直ぐに気がついたのはその臭いである。初めて臭うそれを彼らは表現する言葉を思いつかなかった。葵と由美が感じたのは薬品のような臭いである。
集まってきた村人たちに事情を話して村を捜査した。だが村からは麻薬は出てこない。
本来ならここで空振りかと諦めるところであるが、彼ら村人達の目が気になっていた。目の下のクマは強く、自警団を睨んでいるような気配を感じる。
だがこのような辺境の村では自警団に対してあまり良い顔をされないのはよくあることだ。力や権力を行使すると嫌われるのと同じである。
だがアイリーンは直感で彼らが何か隠している気がしてならなかった。捜査をあまりやったことのない2警の連中には分からない微かな違いを感じ取っていた。
「アイリーン殿、うちの隊長が撤収するのかと聞いておりますが、いかがなされますか?」
声をかけてきたのはいつもの副分団長のククル・フォードだ。口許の二つのちょび髭がどうにもエロおやじみたいで彼女は好きではない。できることなら直接聞いて欲しいものだと思うのであった。
「申し訳ないが、もう少し待っていただけるようお伝えてくれ」
「了解しました」
アイリーンは思案する。村からは何も出なかった。だがこの村に来てからずっと感じる違和感が気になる……なにか違う、何かが違うのだ。
彼女はその違和感を探すかのように辺りをキョロキョロと見回す。そして彼女はその原因を突き止めた。この村にはあるべきはずのものが極端に少ないのだ。
アイリーンは左手を高々と上げて切り落とすような動作を取った。それは3警だけの合図である。
指示は二つ、戦闘準備か戦闘開始のどちらか。状況から戦闘準備のほうだ。一気に3警の面々に緊張が走る。葵も緊張感を走らせて腰の小太刀に手をかけた。
村人たちは突如変わった自警団の雰囲気に焦りを感じた。明らかに自分たちに敵意を向けているからだ。
「こ、これは何の真似ですか?」
「村長――」
アイリーンが声をかけると村人たちにも緊張感が走った。
「この村には家畜小屋も少なければ穀物倉庫も少ないようだが、あなた方はどうやって収入を得ているのです? 見たところ皆さんが手にしている農機具は随分と真新しいようですが……」
この村周辺の畑は荒れており、使っている感じがしなかった。使っているところもあるが到底村全員分の食料を確保できるとは思えない。
さらに家畜産業も行っていなければ鍛冶屋もない。新しい農機具は街から購入しなければならない。
「そ、それは出稼ぎで……」
「嘘を言うな! リセボ村との往来がないことは明白だ!」
リセボ村に人を雇う余裕はない。となれば出稼ぎにはピエルバルグしかないわけだが、ピエルバルグへ向かうにはリセボ村を経由する必要がある。
だがリセボ村での話によればスシュ村との街道の門は使われていないとのことだ。事実、街道は荒れ放題であった。
「始めにも言ったが我々は教団の『残党』を追いかけている。奴らの残った拠点と製造工場そして農場はすべて消滅だ!」
アイリーンの言葉に、とうとう我慢きなくなった村人の一人が鍬で彼女を襲った。
「そんなことさせるか!」
だが彼女はソードで受け流すと同時に柄で男を殴りつけた。男は思わぬ早い反撃をくらうと倒れて鼻血をボトボトと垂らした。それを見た他の村人達も農機具を片手に自警団に襲いかかる。
「俺たちを飢えさせるつもりか!!」
「畑を守れぇ!!」
「全員抜刀! だだし殺すな、生け捕りにしろ!!」
命令と同時に全員が剣を抜く。
「アイリーン!?」
これには2警のアレスも驚き、思わず彼女の名を呼んでしまう。なにしろこんなことは打ち合わせには無かったことである。これは彼女の機転によるアドリブであった。
だが成果はあった。村人達は自供したも同然だ。ブラフも交えて彼女はこの状況を引き出したのだ。彼女は彼らが教団もしくは教団と癒着があると読んだのだのだった。
そして正解は後者だ。彼らは教団員ではないが生きてゆくために教団に手を貸していた。正確には麻薬の元となる原料の栽培を別の場所で行っていた。そして報酬として食べ物や生活用品などを教団からもらっていたのである。
こんな外れた土地に誰もやってくるものなどいないのだ。医療魔術師も来ない。商人もこない。自警団ですらやってこない。彼らは街や自警団に不満を抱き、教団はそこにつけこんだのだ。
すでにどっぷりと教団に依存して生きている彼らにとって、それを奪われることは死を意味することと同じである。
だが村人が暴動を起こしても武装し、専門の訓練を受けて手慣れている自警団にかなうはずもない。特に3警の面々は相手を捕縛することに手慣れいるので次々と暴徒を鎮圧してゆく。
だが2警の連中は戸惑った挙げ句、やもなく己が身を守るために相手を斬りつけてしまう。幸いにも魔術師を連れていたので死者は出さなかったが、このような事態に弱いことを露呈しまう結果となった。
そしてスシュ村の暴動は瞬く間に自警団に鎮圧されてしまった。
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