第219話 リリア貸出拒否

「自警団はどうするつもりなんだ?」


「郊外となるので異例の2警と3警の合同捜査となった」


「ん? なぜ4警ではなく3警なんだ? 一番事情を握っているんだろ」


「情報は3警にもリークしてあるし、4警は残念ながら今回の件で人員的被害が大きすぎた」


「加えてまだ内通者がいるかも知れないというわけか……」


 ブランは押し黙ってしまう。刀夜に図星を突かれたのだ。魔法とはいえダリルをそんなに正確に仕止めるにはある程度誘導がなければ難しいと踏んでいたのだ。


 そして団長も同じことを考えたに違いない。ゆえに今回の件で4警を外したのだろう。


 事件の経過としてはよく分かったと言えよう。そしてここからが本題だと刀夜は睨んだ。


「――で、本来であればそんな門外不出の情報をなぜ俺に話したんだ? 極秘のはずだろう? 重罪じゃないのか?」


 ブランは何もかも見透かされているような気がしてきた。しかしそれはブランの買いかぶりであるのだが、そう思えてしまうのは刀夜の演出がうまいだけのことである。


 ブランは頭をポリポリと掻いて頭を深く下げた。それを見たアイギスも頭を下げた。


「それは何の真似だ?」


 分かっているくせに意地悪な言い方をするとブランは思った。


「……リリア殿をかして欲しい」


「なぜだ? それは魔術ギルドからの依頼か?」


 そんなことだろうと刀夜は思った。


「個人的なお願いだ」


「分からんな……4警はお留守番のはずだろう?」


 ブランはおそらく単独で行動するつもりなのだ。だがそれは危険極まりない。加えて相手には危険な魔術師がいるのだ。


 リリアが危険にさらされる。


 そんなことは絶対に容認できない。


「魔術ギルドの依頼でもないのにリリアをそんな危険な所にやれるか」


 いい加減まどろっこしくなってきた刀夜は先手を打ってでた。颯太の命とリリアの命、刀夜にとってどちらが重いか明白である。先程までとはうって変わって刀夜は真剣に怒っている。


 リリアは自分の身をそこまで想ってくれている刀夜に嬉しさを感じた。だがそれゆえに彼らには同情する。こうなったら刀夜は絶対に首を縦には振らないだろう。


「そこを曲げて頼む。彼女の力が必要なのだ」


 自警団は自警団で魔術ギルドに応援要請を出している。しかしやって来たのはリリアとは別の人物であった。


 しかも到底あの魔術師に対抗できるとは思えないような連中だ。加えて4警は捜査から外されてしまった。


「分からんな。なぜそこまでこだわる?」


 ブランは自分の家族の身に何が起きたのか話した。彼ら教団によって家族を奪われた忌まわしい話を。


 だがそれこそ刀夜にとってはますます怒らせることとなった。それはブランの個人的な復讐だからだ。なぜそんなことにリリアが巻き込まれなければならないのか。


「彼女は必ず守る。この命に代えても。必ず守る」


 ブランは再び頭を深く下げた。だが刀夜の意思は変わらない。


「頼む刀夜! 颯太を助け出すためにも彼女の力を貸してくれ」


 龍児までもが頭を下げてきた。だが誰がなんと言われようとリリアを危険にさらすわけにはいかない。もし彼女に万が一があれば刀夜は自分が自分でいられないような、そんな気がした。


 彼女を失うのが怖いのだ。想像しただけで手が震えてきそうだった。いやすでに震えていた……どうしようもなく怖いのだ。


 そんな震える刀夜の手を暖かく柔らかい手で包まれた。刀夜の側に座っていたリリアが刀夜の手を握っていた。


 彼女は無言でじっと刀夜に目で訴える。


 許可して欲しいと。


 しかしリリアは立場上、それを口にできないのだ。だから無言で刀夜に訴えた。そして刀夜もリリアが何を言いたいのか理解する。


「頼む! リリアちゃんは俺が必ず守るから! 颯太に希望のチャンスをくれ!!」


「刀夜、僕もリリアちゃんを守るよ」


「は、ハル!?」


 まさか晴樹までもが言い出すとは思わなかった。そしてリリアの意思も固そうだ。刀夜は彼らの熱意に負けた。


「……わかった」


 刀夜は始めて今、自分が身動きできないことを呪った。リリアの側にいてやれない、この手で守れないことに苦渋を舐めた思いであった。

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