第213話 エスケープゾーン2
「魔法か!」
ブランは目を輝かせて彼の考えを先回りして答えた。そう基本的に自警団には魔術の心得のあるものはいない。
したがって魔術による仕掛けは見抜きにくい。そのためにいつも魔術ギルドから人を借りているのが現状だ。
だが魔術師といっても千差万別であり得手不得手がある。特に今回は用意周到に魔法の罠が用意されているのだ。強力な魔術師が絡んでいるのだから見落としが出てもおかしくはない。
「殆どカンだけどね。これだけの仕掛けがあるんだからきっとこの部屋が怪しいよ。そして多分だけど北と東の壁が怪しい」
「わかりました調べてみます」
この部屋の北の壁と東の壁は他の部屋に隣接していない。敷地外へと逃げるつもりなら方向としては普通なら最短で作ろうとするはずである。
立てこもるなら話は別かもしれないがメリットは感じられない。
リリアは集中してマナの流れをみる。この部屋の壁も天井へと流れているのが大半である。しかし天才とまで賞されたリリアの目はごまかせなかった。
「晴樹様、あそこ、マナの流れがおかしいです」
リリアが指を指したのは東側に並んでいる作業台と北側の壁の隙間であった。
「これは当たりかな」
ブランは期待を寄せる。そしてリリアはディスペルの呪文詠唱に入った。
「この地に縛られしマナの子らよ、地の流れ、大気の流れに帰れ。ディスペル!」
北側の壁に魔方陣が形成されると仕かけられていた魔術が消し飛んだ。そしてリリアが怪しいと言った場所の壁は明らかに色の異なる煉瓦であり、他の壁と比べても凸凹していた。
「これは間違いないですな。これは隠し通路だ」
ブランは確証するとすぐさま大声で隊長を呼び寄せた。そして団員が慎重にその煉瓦を取り除いていくと奥に空洞が見えてきた。
「ビンゴぉ」
龍児はリリアの才能をすばらしいと賞した。しかし気になるのは隠しかたがこれだけ雑だったにも関わらず手慣れている自警団が見逃したことだ。
「なぁ一体なんの魔法が仕かけられていたんだ?」
龍児はリリアに問いただした。どうすればこんなのを見落としてしまうのか不思議で仕方がなかった。
「なんの魔法かは分かりませんが、恐らく人の認識を阻害する精神的な魔法かと思われます。だとすればやはりこれを仕かけた魔法使いは相当な手練れでしょう」
精神的に作用する魔法は高等な部類に入るのだ。例えば以前にブランが本人の意思とは関係なく巡回ルートを外して、他の場所へ導くなどがそうである。
ブランの時ほどではないがチャームも同様に精神系魔法になる。館長が刀夜に仕かけたときは魔法アイテムを使用したいた。あれは恐らく帝国時代の遺物なのであろう。
そして建物全体にかかっている魔法は恐らくフェイクである。トラップのように見せかけて本当の目的はこの抜け道を隠すため仕かけたのだとリリアは推測した。
「そんな奴が相手なのか……颯太のやつ大丈夫だろうなぁ……」
龍児は捕まっているであろう颯太の事が気になってきた。早くなんとかしないとと気ばかり焦る。
そしてようやく煉瓦が取り除かれると地下へと続く階段と北へと続く狭い通路が見えた。だがその先は暗く奥はどうなっているのかわかない。
エッジ隊長は穴を除き混むと部下たちに命令する。
「エイダ小隊、穴に潜ってどうなっているか調べるんだ。それから捜索範囲を変更する。館の包囲を解除、この穴の向かう先の建物を調べるんだ! ナダは本部に戻って3警に応援要請、街の出口を封鎖するんだ」
指示を受けた部下達は復唱の後、指示通り動きだす。だが事件が起きてからかなり時間がかかってしまった。すでに街の外に逃げられているの可能性があるかも知れないとエッジは気をもんだ。
「俺達はどうする?」
龍児はリリアに尋ねた。晴樹と龍児はリリアの護衛なので基本彼女の行動に随伴することになる。地下を行くか、上から行くか……だが口を挟んできたのはエッジである。
「お前達にはここで待機してもらうからな」
「おいおい、なんでだよ」
釘を指すかのようなエッジの言葉に龍児は不満に思う。これでは颯太の捜索が出きない。不満そうにする龍児をみてエッジは鼻息を吹かした。
「情報は私のところに集まるのだ。魔術師殿が必要か判断するにも指示するにも、ここにいてくれなくては困る」
エッジは正論を述べると再び穴の方向へと目を向けて一言だけ付け加えた。
「それに友達とやらの情報もここに集まる……」
その後地下通路の向かった先は道を挟んで隣の空き家にまで延びていたことが判明した。しかし残念なことにすでにその家は藻抜けの殻となっており痕跡は途絶えてしまう。
その後の3警の面々が到着する頃には一番近い東門は封鎖はされたが時遅く、聞き込みよって複数の馬車が出ていったことが確認された。
自警団ではその馬車が偽装したもので、目立たないよう時差をつけて逃げたのだと判断した。そして時間的に最後に出た馬車に捕まった団員が囚われているだろうと予想する。
そしてエッジ分団長の下した判断によりリリアの協力はここまでとされた。つまり龍児も晴樹もこれ以上、現場に止まることが許されなかったのである。
リリア達は仕方なく刀夜の家へと戻ることとなった。
教団の連中がすでに街の外に出てしまっては3警も4警も団長の許可なしに動くことはできなかった。
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