第208話 信用できない自警団
突然その腕をブランが力強く握った。先程までとはうって変わって目が座って今にも怒鳴り付けそうな雰囲気を醸し出している。
龍児はその冷たい視線に驚いて萎縮する。
「な、なんだよ……」
龍児は恐る恐る訪ねて彼の出方をまった。だが龍児を声をかけたのは別の人物である。それも怒鳴り声で。
「くぉらぁ!! 現場のものには触るなとあれほど言っておいただろうが! 追い出されたいのか!!」
青筋を立ててゆでダコのように赤くなってエッジが怒鳴り込んできた。再三勝手なことをするなと忠告しているのに守らない彼らに腹を立てた。
「隊長のいうとおりだ。うかつに触れないでもらおうか」
ブランは隊長の意見に同意すると。ポケットからハンカチを取り出して龍児の指についた粉を拭き取った。そしてブランの行動に唖然としている龍児の腕を離す。
晴樹は三人のやり取りに緊張感を走らせた。自警団には信用できないものがいる。刀夜の言葉に晴樹はその相手は一人だと勝手に想像していたが刀夜は何人とはいっていなかった。
もしその相手が複数だったら……結託していたら……
非常にまずい……晴樹は言いようのない不安にかられ呼吸が乱れた。そしてブランはそれを見逃さない。
「どうした? 気分が悪いのか?」
「い、いや何でもない」
「だが呼吸が荒いな。それは良くない。外にでたほうが良いのではないかな……」
ブランの体がゆらりと晴樹に近づいてきた。とっさに晴樹はリリアとの間に立って少し後ずさりして距離をとった。
「いや大丈夫ですよ。すぐ落ち着きます」
晴樹は冷や汗を流す。これは完全にマークされているとしか思えなかった。
「なぁ、晴樹。ここが駄目だってんだから他の部屋に行こうぜ」
晴樹の懸念を全然理解していない龍児は呑気な提案をしてきた。自分達は今まさに狙われてるかもしれないというのに。だが警戒しすぎてずっとここにいるのも不自然だ。龍児の提案にのったほうが自然だと晴樹は思った。
「ああ、そうだね。他の部屋をみて回ろう」
「おい、くれぐれも現場をいじるなよ」
エッジは自分より長身の龍児を上目使いに、まるで威嚇してるかのように睨み付けてきた。
「大丈夫ですよ隊長、私がついています。彼らにはなにもさせませんよ……」
「そうですよ、私もいますのでご安心を……」
ブランに続いてアイギスまでもが不穏な言葉を口にした。その事に晴樹は青ざめる。先程まで彼の頭には怪しく危険だと感じている人物は隊長とブランであった。なのにここにきて三人目である。
一斉に襲われたらリリアはおろか自分の身を守るのも難しいだろう。ともかくこの場を移動して隊長とは距離をおきたいと晴樹は思った。
「じゃぁ、さっきの部屋にもどろうか……」
「ああ、そうしようぜ」
龍児は呑気に返事を返してくる。彼の任務はリリアと自分を守ることだとちゃんと認識できているのだろうかと心配になる。
しかし、この二人がベッタリくっつかれては迂闊に話はできない。だがこの三人は本当に怪しい人物なのだろうか……確証はなにもない。
三人と二人が倉庫から地下部屋へと戻ろうとする。だがそんな彼らをエッジは冷たい視線で黙って見送った。
煉瓦でできた地下部屋へと戻ってくる。すぐに目につくのは長テーブルとその上におかれている数々の器具だ。
そしてさきほど怒られた白い粉がうっすらとテーブルに積もっている箇所かいくつかある。それは床にも多少こぼれているところがある。
「なぁ、ブランさんよぉ。この器具とさっきの粉は一体なんだよ?」
龍児は率直に聞いた。だがブランはこめかみをピクリとさせる。
「君たちは事件の内容を聞かされたか?」
龍児達は首を振った。刀夜の家にきたアレスやナダからは魔法錠の解除の依頼しかされていない。そのような意味では彼らの仕事は終わりである。
だが颯太を助けるためには現場に踏みとどまって手懸かりが必要であった。
「では教えることはできない。だが忠告だけはしておく。白い粉を触ったり吸い込んだりしないことだ。死にたくなければな……」
「おいおい随分物騒じゃねーか」
ブランの警告からして白い粉は薬物や劇物の可能性が高いと晴樹は考えた。事実、白い粉は麻薬のような薬物なのである。吸い込めば薬物中毒を引き起こす。詳しい成分や効果はまだ自警団にも分かっていない。
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