第207話 消えた颯太
照らされた部屋はその全貌を露わにする。
だが部屋は左右に5段に仕切られた棚があるだけでガランとしており、物はおろか人影すらなかった。
団員達が警戒しながら奥へと進むが何もない。ふと上を確認するが屋根と張りしか見えず人が隠れるような所もない。
一番奥まで進むと今度は両開きの扉にたどり着いた。罠が仕かけられていないのを確認すると扉を叩いてみる。大岩を叩いたかのような感触が拳に伝わった。魔法錠がかかっている。
「魔術師殿!」リリアが呼ばれた。
呼ばれたリリアは『わかっていますよ』とばかりに扉の前でディスペルにより魔法錠を吹き飛ばす。
扉が開けばそこはどこか見覚えのある場所……数人の自警団の面々が驚いた表情でこちらを見ている。夜空には多くの星々が瞬いている。そうここは館の右側にあった倉庫の入り口であった。
「た、隊長?」
内一人の団員が思わず驚きの声を出してしまった。先ほどまで魔法錠でピクリともしなかった扉が突然開いて、驚き慌てて戦闘準備に入ろうとしたら出てきたのは同胞だったのだ。
「お前たち、この建物から誰か逃げ出さなかったか?」
エッジ隊長も驚きを隠せない。少なくとも副分団長に危害を加えたはずの教団員は残っているはずなのだ。
「い、いえ。誰かが出てきたという情報は入ってきておりません」
外にいた団員が答えた。誰かがこの建物から出入りすれば即座に誰かに見つかる。そして大声で連絡がいくことになる。何の連絡もないということは誰の出入りも確認されていないことである。
こうなると一体、ダリルを襲った者はどこへ消えたというのだろうか。また遺体のない団員はどこへと消えたのか。
「ど、どういうことだ教団の連中がいなかったのもアレだが、颯太が見当たらねぇ……遺体を見間違えたか?」
龍児達は倉庫の中から外での隊長とのやり取りをみて遺体を間違えたのかと思った。
「いや遺体は三人で確認したんだ。万が一ミイラとなっていても見落とすとは思えないよ」
「じゃあ颯太はどこへいったというんだ?」
龍児は晴樹の意見にややイラつきを覚えた。せっかく助けにきたというのに遺体すらないのである。
生きているのか死んでいるのか、龍児にとっては煮えきらないもどかしい時間であった。もっとも行方不明のほうが死んでいるよりはマシなのではあるが。
「こうなると、颯太は教団の連中に連れ去られたと考えるべきかな……」
「――連れ去られた……じゃ、じゃあ颯太はまだ生きているかもしれないってことだな!」
「そうだね。今ならまだ生きている可能性があるかもしれないね」
「私も同意見です。颯太様は生きていると思います」
颯太は生きている可能性がある。それがわかっただけでも龍児にとっては力が沸いてくることだった。
「隊長さんよぉ!」
「分かっておるわい。これみよがしに聞こえるように喋りおって! 貴様らにそんな初歩的なこと言われずとも分かっておるわ!」
龍児の掛け声にエッジは怒りの声で返した。そして即座に部下達に再捜索を指示した。今度はもっとよく調べるようにと。
「なんであんなにカリカリしてやがんだよ! こちらだって颯太の生死でイラついているってのによ」
龍児は我慢できずに愚痴をこぼしたが、ブランはエッジの気持ちを理解していた。
「たぶんプライドでしょうな」
「プライド?」
「隊長はこれまでも色々と難題な事件を解決してきた自負があるのですよ。彼にとってはそれが自信であり、その結果が分団長という立場を得たわけです。そして本来なら今回の作戦は我々の先手だったはず。だがここにきて多くの部下を失ったうえに完全に後手にまわってしまった」
「なるほど。自信を傷つけられたってことね。――っだからって俺たちに八つ当たりすんなよ!!」
ソレについては八つ当たりではなくエッジがいっていたとおり勝手に動いたり、現場を荒らされるのを嫌っているからなのだが……
ブランは分かっているがあえてそれは口にしなかった。
「それより早く私たちも探しませんか?」
「お、おおう。そうだな」
リリアのもっともな意見に龍児は
「ではどこから探しまする?」
先程から金魚の糞のようについて回るブランから訪ねられた。まるで元から一つのチームであるかのように。
色々と解説してくれるのはありがたいのだが晴樹はリリアの護衛である。無論龍児も。そして刀夜から自警団は信用できないと言われているのだ。
もしこの男が教団側の人間であればリリアが邪魔だと判断した場合、その魔の手から彼女を守るのは難しくなってしまう。
加えてアイギスと名乗る自警団の女性もついてまわってくるのでこちらも要注意である。晴樹は二人から目を離すわけにはいかなくなった。
晴樹とリリアを守るはずの龍児は完全に刀夜との約束を忘れている感じである。彼の頭の中は颯太の事で一杯なのだろうと晴樹は見透かした。
相談したくともこうもブランとアイギスがベッタリと同行されてはうかつに相談もできない。
「とりあえずこの部屋から調べようぜ。さっきから気になっているこの白い粉は一体なんなんだ? さっきの部屋にあったテーブルの上も粉々だったが」
龍児は棚にうっすらと埃のように積もっている粉を指ですくってみた。粉と言ってもかなり湿り気があって指にべたりとした感触がある。
その粉は相当湿気を含んでいるようだった。
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