第204話 捜索、教団施設3
三人は円形状となっているこの部屋を見まわす。遺体の多くはその場から逃げ出そうとしたのか扉の前に集中していた。
それ以外の者たちは他に逃げ場がないか探しつつ絶命した感じである。その表情はどれもかなりの苦しみを味わったのか苦悶の表情で見ているこちらまでもが辛くなり、凝視するのは困難だった。
遺体のすべてはまるでミイラのようになっており、まったく水気らしいものを感じない。
「もしかして生きたまま体の水分を抜き取られたのでしょうか……」
リリアは吐き気を我慢しつつも遺体の状況を冷静に分析していた。遺体の表情があまりにも苦痛を訴えているように見えることからそのように感じたのである。
死んでからからミイラになったのなら、ここのような表情にはならないだろうと。
「生きたまま水分を抜き取られただって? まるでドラキュラじゃねーか」
龍児はリリアの言葉からドラキュラを連想した。ペンシルバニアが産み出した不死の化け物である。しかし倒れている自警団の団員はみんな男なのだ。
龍児の知っているドラキュラは女性を襲うイメージである。ゆえに彼の脳裏に描いたドラキュラはホ○であった。
「いや、ドラキュラより酷いよ。彼らは血を欲するだけでしょ、ここの遺体は身体中の水分を抜かれたんだよ」
晴樹は真面目に分析する。
「うっ…………そ、そうか……そう考えりゃ確かにドラキュラよりひでぇ」
龍児は颯太がピンチだと言うのに自分だけ変な想像をしてしまったことを恥じて顔を赤らめた。
「ドラキュラって何ですか?」
とはリリアの素朴な疑問である。聞いたこともない単語だが話のニアンスからモンスターの類いだとは理解できる。
「ああ、それは僕らの空想上の怪物のことだよ。人間の生き血を吸うんだよ」
「んでもって吸われたやつは生ける屍だ」
「そ、そんな恐ろしい怪物が……」
彼女は真剣に青ざめた。
「いや、だから空想上だから……実際にはいないから」
龍児たちは遺体の状況を分析しつつも颯太を探したが結局のところこの部屋の彼の遺体はなかったのである。それは安堵すべきことなのかも知れないが、そうなると彼は一体どこへいったのだろうかという疑問が沸く。
もし彼が自力で現場から逃げおおせたのならば良いのだが。だが閉じ込められた仲間が見つかったという報告はない。
部屋全体を見回して何かないかと捜索する。リリアは部屋のあちらこちらに立てかけられている胸の高さぐらいほどある
「それにしても、この
明かりを灯すならもっと均等に並べたほうが効率的である。
「そういや祭壇に女性のミイラがあるよな、悪魔でも召還しようとしたのか?」
龍児は祭壇に横たわっているミイラに興味が沸いた。そこには多くの自警団団員が集まっている。
「悪魔? あ、悪魔って何ですか?」
再びそれはなんなのかと聞いてくるリリアの質問に晴樹は申し訳なさそうに説明をした。
「ああ、それも僕たちの空想の怪物だよ、いわゆる『神』とは正反対の存在のことだよ」
晴樹が『悪魔』について述べている間に祭壇へとたどり着くとリリアは早速現場を調べだす。女性のミイラのみならず祭壇も含めてマナの流れを調べた。
先に祭壇を調べていた自警団の男からも特になんの仕掛けもないと聞かされた。だがそれは物理的なことであり、リリアは微かな魔力の残留に気がついた。
「こ、これは……まさか…………」
「どうしたんだ?」
「どうしたのリリアちゃん?」
何かに気がついたリリアに龍児と晴樹が気になって尋ねた。
「もしかしたら……この女性のミイラは魔法の罠を発動するキーだったのでは」
リリアの言葉にたむろっていた団員たちは青ざめて祭壇から離れた。万が一、また罠が発動したら自分たちもこうなるのではないかと恐れたからだ。
だがリリアからはもうすでに藻抜けの殻であると告げられると彼らは胸を撫で下ろした。仕かけられた罠は一回こっきりの代物であった。
「なぜ罠だと思ったんだ?」
「端的に言うと不自然だからです。これ見よがしな遺体に魔力残留……遺体に触った瞬間にマナが拡散し各罠が発動するように仕かけられていたのでは? あくまでも予測の
龍児の質問にリリアが答えた。だが彼らの会話に割り込んでくるものがいた。
「付け加えるなら、この者は遺体ではなく生きていたのであろう。遺体ならば手足を縛る必要はあるまい。加えて自警団を引き寄せるには絶好の餌となる。おっと餌とは失言だったな」
口を挟んできた男は龍児の同等の体格をもち、金髪角刈り頭に四角い顔には齢を重ねたシワ。右目に大きな傷を負って失っていた。リリアと晴樹はその男に見覚えがあった。
「あ、あなたは……」
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