第203話 捜索、教団施設2
「俺たちも入るぞ」
颯太の安否が気になる龍児は突入する部隊の後を険しい
「あ、勝手に入るな!」
目を反らしている隙に勝手に館へと入られてしまいエッジは焦りを感じつつも怒りを覚える。どのみち彼らも突入しなくてはならないが勝手に動かれては困るのだ。
しかし部下達から次々と報告と指示を要求の対応で彼は動けなくなってしまう。
「ああ言ってますけど」
「無視だ。入ってしまえばこっちのもんだ」
「もしかしてわざと怒らせてます?」
リリアは刀夜との一件をダブらせていた。だが相手を怒らせようが今の龍児には余裕がなかっただけである。目の前に颯太がいるのかも知れないのだ。
部屋に入るとそこは長椅子がずらりと並べたてられた部屋だ。本来なら窓がある場所には煉瓦で埋められているため外の景色は見えず、まるで地下にでもいるかのような錯覚を覚える不気味な部屋だった。
先に突入した部隊のランタンでは淡く弱々しい光なため部屋は影だらけとなって余計に不気味さを演出してしまっている。
「この部屋に光明となりて集えマナの子らよ。ライト!」
リリアは杖を突き出して唱えた呪文により
「おお、明るい」団員達から喜びの声が漏れる。
辺りが昼間のように明るくなると部屋の隅々までよく見えるようになった。壁の染み、石畳の目尻、柱の影から長椅子の下まではっきりと見える。
だが囚われていた人影はここにはなかった。ここは颯太を初めシン小隊が閉じ込められていた場所であるが誰もその事に気がつくことはなかった。
先攻していた自警団はさらに奥に進むと再び大きな扉に出くわす。今度は両開きのスライド扉である。
団員が近より扉を調べる。軽く叩いて見ると最初の扉みたく大岩を叩いたような感じであった。おそらくこれも魔法錠が施されていると判断した。
「魔術師殿、お願いします」
「はい」
呼ばれたリリアが扉へと向かう。団員達が見守るなか神経を集中してマナの流れをみると魔法錠と思わしき流れが見える。
「どうやらここも同じ仕掛けのようですね」
彼女は再び呪文を唱える。
「この地に縛られしマナの子らよ、地の流れ、大気の流れに帰れ。ディスペル!」
リリアが魔法をかけると扉一杯に魔方陣が現れ、収束した瞬間、ピタリと閉じていた扉がガタリと音と共に隙間ができた。
その扉を自警団団員達が二手に別れて両側から手を添える。突撃の準備が整っていると彼らは
真っ暗な部屋に扉の隙間から光が差し込むと一筋、床を照らす。代わりにうっすらとした瘴気が床の隙間から雪崩込んできた。やがて鼻を突くような異臭が立ち込めてくる。
誰もが「うっ」とした顔で慌てて鼻と口を手で押さえた。そして一気に扉が開かれると部屋の中を漏れた光が照らしだす。照らされた先には自警団団員と思われる鎧姿の者が数名横たわっていてピクリともしない。
突撃隊が慎重に部屋へと侵入するとリリアは再びライトの魔法を詠唱して部屋を明るくした。部屋全体が明るく照らされて全貌が明らかとなったとき、その場にいた誰もが絶句して表情を凍らせた。
横たわっている団員は皆、まるでミイラのようになっており、すでに絶命している。相当苦しかったのかその表情は悶絶しており、今にも悲鳴が聞こえてきそうだ。
数々の悲惨な現場を経験しているはずの団員達でも、自分たちの同僚がこのような無残な死に方をしたことに動揺を隠せなった。
「ひでぇ……なんてひでぇことしやがんだ……」
死体を一つ一つ確認してる龍児は今にも反吐がでそうな気分だった。遺体の前にしゃがんで颯太ではないと確認しては憐れんで手を合わせていた。
「お前たち入るなと言っただろう!」
怒ってやってきたのはエッジ隊長である。先ほど入るなと言ったのに無視されて腹を立てていた。
「入らなければ魔法錠に対応できないだろうが」
エッジの言い分に対し龍児が反論するが本音は颯太をさっさと探したいだけだ。
「必要とあらばこちらから呼ぶ。ド素人に現場を荒らされては迷惑だ!」
「あんた達の邪魔はせんよ。それに俺たちはリリアの護衛だ彼女の側を離れるわけにはいかないだろ」
「すみません、隊長さん現場は荒らさないよう注意しますのでご容赦下さい」
「うぬぬぬ…………ッ」
リリアは申し訳ななさそうに隊長に謝った。ここで揉めて追い出されては元も子もない。リリアは必要不可欠であろうが、龍児たちは最悪追い出されかねない可能性がある。
「隊長、ちょっとこれを」
ブランが奥の祭壇から隊長に声をかけた。何か発見したようで隊長の判断を仰ごうとしたのだが結果的にリリア達を助けることとなった。
「……むやみにその辺を触るなよ!」
エッジの険しい顔の鋭い目は『お前たちを見張っているぞ』と威嚇しているかのようであった。龍児達を睨みつけると彼は渋々と呼ばれた先へと向かう。
「まったく何だよ、あのオッサン。
龍児はエッジが十分に離れたところで忌々しく愚痴をこぼした。彼にしてみればエッジのようなネチネチと絡んでくるタイプが一番嫌いでかつ苦手である。
「まあまあ、とりあえず了承は得たんだからいいんじゃない」
「そうだな早く颯太が『いない』ことを確認しよう」
龍児としては彼の遺体など見たくはなかった。遺体を見るぐらいならまだ行方不明のほうがましだと思えたのである。床に倒れている壮絶な死に様を思えば。
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