第201話 現場到着
リリア達を乗せた馬車はようやく現場へと到着した。現場では建物のある敷地内でかがり火がたかれて炎の明かりで建物が照らされている。
ライトアップされた教会は幻想的でまるで観光名所のようであるが、ここで事件が起こったと思えば不気味でもある。
生暖かい風がリリア達を拒むかのように足元を駆けぬけた。
エッジ分団長は建物から少し離れた位置で全体を見ていた。腕を組んで険しい表情で時の浪費に苦虫を噛んでいる。
「隊長、魔術師殿を連れてきました」
背後からナダの報告を受けると後ろをついてきた面々に顔を向ける。
「お手数をおかけして申し訳ありません。アレス殿と……確かリリア殿と……龍児……?」
エッジは何かと魔術ギルドと連携を取ることが多いのでアレスとは面識はある。リリアについては噂の巨人討伐の功労者にして天才魔術師としても有名である。二人が来るのは理解できる。だがなぜここに1警の龍児がいるのか不信がった。
「彼はリリアの護衛です。私共々彼女の護衛につきますので宜しくお願いします」
晴樹はエッジの不信感を拭うように割り込んで説明をした。だがエッジはそんな晴樹を見て顔を険しくする。
「貴殿はどなたですかな?」
「私はリリアの友人で晴樹と申します」
「友人?」
エッジは気に入らないのかジロリとアレスをのほうを向いて無言で説明を求めた。アレスはそんなエッジの心境を読み取って慌てて説明をした。
「すみません。彼女を借りるのに護衛を付けるのが条件だと言われてしまいまして。時間がないので仕方なく了承しました」
アレスは申し訳なさそうにする。本来なら借りた魔術師の護衛は自警団が行うのが通例である。外部の者が増えれば捜査内容が漏れるリスクを背負うことになるからだ。
魔術師を借りる場合は身元がハッキリしていて信頼のあるもでなければならない。そのために魔術ギルドを通しているのだ。
今回で言えばリリアはプラプティ出身であり、巨人討伐という実績を持つとは言えど彼女には明かせない空白時間がある。
加えて『プラプティ出身』もエッジにしてみれば証拠は無いので本当なのか分からない。しかしながら魔術ギルドが保証しているので無下に疑うようなことはできない。
だが護衛の二人は異人である。教団と関係が無いとは言えないうえに誰の保証もない。仮に無関係だったとしても勝手に首を突っ込まれて内部をかき回されるのは御免こうむりたいのが本音だ。
龍児は自警団ではあるが身元保証を受けて入団している他の者と異なり、保証なしで入団している。
エッジはジョン団長の街以外の人物でも入団させてゆく方針に反対の人物である。1警2警のように外回りには関係ないかも知れないが、3警4警のように機密性を必要する部署には都合が悪かった。
「申し訳ありません今すぐ動けるのは彼女しかいないのです」
エッジの顔色を
それに加えて替えの魔術師を待っている暇がもうない。状況はそれだけ差し迫っているのだ。
「魔術ギルドの要請により来ましたリリアです。中に閉じ込められている人々を助ける為にも早速取りかかりたいのですが」
リリアは円らな瞳で隊長に訴える。颯太が生きているなら早く作業に取りかかる必要がある。それが刀夜の願いなのだからリリアはどんな手を使ってでも刀夜の期待に応えたかった。
「分かりましたお願いします……ではこちらへ」
エッジは問題の扉のほうに手を伸ばして彼らの移動を促した。
「ところでアレスだっけ、あんたは開錠できないのか?」
龍児は移動しながら疑問を彼にぶつけてみた。アレスも魔術師なら使えるものだと龍児は思っていた。アレスは苦笑いで龍児の質問に答える。
「私はこんな成りをしていますが、お恥ずかしい話才能が乏しく、扱える魔法は回復系のみなのですよ。なので普段は事務方をやっております」
アレスは頭脳は優秀ではあったが魔法の才能は芳しくなかった。自身でもそれは分かっており、聖堂院時代でも悔しい思いをした。口にはしないが正直今でも気にしていてコンプレックスとなっている。
「あ、す、すまん……」
龍児は余計なことを聞いてしまったと後悔した。まさかそんな理由で事務方をやっていたとは思ってはいなかった。
魔法には才能もさることながら相性もある。才能はあっても相性の悪い魔法は習得しにくいのだ。
アレスの表情が曇ったのを察したエッジは歩きながら龍児に忠告をする。その表情は険しく怒っているようである。
「アレス殿は頭脳明晰、仕事も忠実にこなして魔術ギルドにも我々自警団にとっても信頼の厚い人物だ。一面だけで判断などしてほしくないものだな」
彼にそのスキルがあるのならわざわざリリアを呼ぶことは無いのだ。その程度のことも察せないのかとエッジは内心腹を立てている。
「重ね重ね、すまん」
龍児は申し訳なさそうにシュンと頭を落とした。
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