第200話 次は謝る
龍児たちは黒い光沢のあるランドータイプの馬車に揺られていた。すでに日が落ち、街中の人通りは乏しく、酒場の賑わいも一段落といったようすである。
自警団のナダは馬の手綱を握り、魔術ギルドのアレスはその隣を座っていた。
龍児とリリアそして晴樹が馬車のやや豪華な装飾が施されたボックス内で座っている。まるでVIPのような対応に龍児は目を丸くする。
「自警団にしちゃ珍しい馬車だな……」
「それはリリアちゃんのおかげなんじゃない」
「なんでだ?」
「これ魔術ギルドの馬車でしょ?」
「そう言う事か」
言われてみれば確かに施されている装飾には魔法の模様のようなものが所々にあった。依頼の大元は自警団かも知れないがリリアに依頼を出しているのは魔術ギルドである。
とは言え単にナダが自警団本部に戻るより魔術ギルドへ走ったほうが早かっただけなのであるが。
「この手で颯太を必ず助けてやる……」
龍児は両拳を握り締めてやる気に満ち溢れていた。しかし晴樹はそんな龍児に不安を抱く。刀夜がだした今回の条件をクリアするのは極めて困難であることを彼は理解していないと思えた。
「――龍児、刀夜の条件はかなり厳しいこと言ってるって自覚している?」
「あ?」
「言いにくいけど颯太の状況は相当マズイと思ったほうがいい」
教団からみれば自警団は邪魔しにくる敵なのだから排除するために罠を仕かけていたといえる。罠が発動した時点で死んでいる可能性が極めて高いのである。
「お、おい!!」
「最悪は覚悟したほうがいいよ」
龍児は想像したくない状況をわざわざ言葉に直して釘を刺されたことに気分が悪くなる。だが分かっていてもポジティブに考えていなければ不安で押し潰されそうなのた。
「僕としては君に我を忘れず冷静に行動してほしい。今回、刀夜の懸念が正しければ僕たちは敵のど真ん中に入るかも知れないんだから」
龍児は晴樹の意見に驚きを隠せなかった。それは自警団が敵であるかのような言い様だからだ。街を守るはずの自警団が悪事に加担しているとは思えなし思いたくもない。
晴樹は手綱を握っているナダ達に聞こえないよう龍児達に身を寄せた。内緒話だと気がついたリリアや龍児も顔を寄せるとヒソヒソ話を始める。
「刀夜が懸念しているのは今回の事件は自警団がからんでいる可能性がある」
「お前も刀夜もどうしてそう思うんだ?」
龍児の意見にリリアが刀夜の意見を代弁する。
「刀夜様は自警団の中に教団関係者が混じっていることを疑っています」
龍児にしてみればなぜそう思うのかが知りたい所である。共に命をかけて戦って背を預けることもあるような危険な職場にわざわざ潜り込むのかと。
「たったあれだけの情報でなんでそう思えるんだ?」
「魔法トラップです。事前に自警団が来ることを想定していたとしか思われません」
「自警団の誰かが襲撃のことを事前に漏らしたと言う事なんだね」
「はい、魔法でトラップを仕掛けるのは簡単な事ではありませんから仕掛けるには事前に知っていないと不可能です」
魔法で罠を仕掛けるには簡単なことではない。まず魔法を発動するためのトリガーの設置が一番難しい。
そして魔法をどうやって発現させるかとなるが、これは貴重な魔法アイテムを使うのが普通である。そのため高額な出費となるうえに足がつくリスクを伴う。
それ以外の方法となるとかなり高度な知識が必要となるが、まだ知識の乏しいリリアには分からないことであった。
「連中にすればリリアちゃんの魔法錠の解錠を邪魔したいと思うかも知れない」
「だから刀夜様は確実に信頼できる人物で護衛に付けたかったのだと思います」
刀夜にとって信頼している人物は晴樹とリリアだけだ。龍児は単に単純だから盾にしてやろうという理由だけだったのだが、晴樹達はそれを良いように受け取っている。
「――だってさ。あんな目に遭っても誰かさんを信用してるんだって……」
晴樹はからかいと意地悪をその一言に込めた。
「…………わ、分かったよ次はちゃんと、あ、謝る……」
龍児は顔を背けつつも次こそは謝ろうと思うのであった。
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