第198話 魔術ギルドからの依頼

 そして長い二人の沈黙にようやく終演が訪れる。


 突然家の扉が叩かれたのでリビングにいた者達が一斉に扉をみる。こんな夜中に誰だろうかとリリアが応対に出た。


「はーい」


 扉を開けると魔法使いのローブを着た男と自警団の男、ナダが立っている。


 刀夜の家は街外れにポツンとあるので家の外は真っ暗だ。そのような中で魔法使いは営業スマイルで、自警団の男は青ざめた顔で立っていた。


 魔法使いの男は焦げ茶色のローブを着ていて結構長身だ。彼がフードを外すとまぶしそうなオールバックの金髪ロングヘアーと額につけている金色のサークレットが露となる。


 顔は整った顔立ちでいわゆるイケメン。耳が長ければエルフかと思えるような男である。


「夜分すみません。私は魔術ギルドのアレスと申します。あなたがリリアさんですか?」


「は、はい?」


 恐ろしく透き通るような声で彼は尋ねた。


 リリアは魔術ギルドがこのような時間になんの用かと嫌な予感がした。特に隣には顔色の悪い自警団団員もいる。


「魔術ギルドから会員であるあなたに仕事の依頼できました」


 リリアはやはり仕事の依頼なのかと思うと残念に思うのであった。今の刀夜にはリリアの手助けが必要なのだ。離れたくないというのが彼女の気持ちであった。


 魔術ギルドは街の運営に大きく関わっている。特に医療と治安に関しては彼らの協力なしでは成り立たない。そして魔術ギルドに登録されている魔術師は特権を得る代わりにギルドに協力しなければならない。


「それでしたら、この家の主と共に話を聞かせていただいて構いませんか?」


「ええ、いいですよ?」


 そう返事をしたものの、なぜ主とやらも話に加わるのかとアレスは不思議に思う。用事があるのはギルド会員である彼女だけだ。


 もし結婚しているなら夫を説得するようなケースもあるがギルドの情報によれば彼女は独身となっている。もしかしたらすでに事実婚しているのだろうかとアレスは色々と勘繰りをした。


 アレスは刀夜とリリアの関係を知らない。リリアにしてみれば奴隷という立場上、刀夜の承認が必要なのだがそれを公然ということはできない。


 アレスが家に入ると中は大きな石畳部屋で台所とリビングが兼ねている。そのような中に異人が数人、どうやら彼らの共同している家なのだとアレスは理解した。


『だが主とは? 彼らのリーダーかなにかだろうか?』


 リリアは刀夜の部屋の扉を全開にする。アレスたちの会話を皆に聞かせるためである。


「申し訳ありませんが、主は動けないのでこちらでお願いします」


「わかりました」


 アレスとナダが刀夜の部屋に入るとなぜか自警団の鎧を着た大男がいる。なぜこんなところに自警団がいるのか……何かと妙なことの多い家だと彼は不安になってきた。


「こちらが主の刀夜です」


「初めまして魔術ギルドのアレスです」


 アレスは『初めまして』と挨拶をしたものの『トウヤ』という名前に何やら聞き覚えがあった。そして上司から指示を受けたとき最後に「粗相のないように」と意味ありげな言葉を受けていた。


 その時は意味は分からなかったが今、彼の中でパズルのピースが繋がり始めた。


『もしかしてこの御人は巨人討伐を指揮したと噂されているあの影の男!?』


 カリウスの巨人討伐は噂になっていた。影で彼を操っているものの存在を。カリウスが動くとき常にかたわらにいて、実行指揮を取ったことで刀夜の立場はそう噂されていた。


『ということは、彼を主と称するリリア女史は古代魔法をたった1日で習得し、ギルドを混乱に落としたあの天才魔術師!?』


 リリアもすっかり噂の人物になっていた。魔術ギルド内の魔力を根こそぎロストさせた事件は特に有名で復旧に魔術師総出となってしまった。そして巨人討伐の功労者の一人。


『となるとその隣の大男は巨人をたった一人で倒してしまった豪傑の男では……』


 アレスはまさかこんな辺境な場所の鍛冶屋の家に巨人討伐の功労者が揃っているなど思いもよらなかった。上司の言葉の意味が理解できると緊張して冷や汗が出そうであった。


「リリアになんの仕事ですか?」


 刀夜が最初に尋ねた。現状自分の体が自由にならないのでリリアを取られるのは痛いのである。


「お休み中、申し訳ありません。こちらは4警のナダ殿。火急の用件にてリリア殿にご協力をあおぎに参りました」


「で、リリアに何をさせるつもりだ?」


「詳細は彼から」


 アレスから紹介された自警団の男は一歩前へと出る。


「はい、我々4警はある事件で屋敷に強襲をかけたのですが扉に魔法錠がかかり中に入った者と連絡が取れません、なのでその解除をお願いしたいのです」


「あれ? 4警って颯太のところ?」


「はい、確か彼も中に閉じ込められております」


 その言葉に龍児は青ざめた。先ほどまでお地蔵さんのように押し黙って固まっていた男がナダを襲うかの如く迫った。

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