第196話 教団施設の罠2

 第二目標の館にエッジ分団長の率いる部隊が遠巻きに見ていた。目標の館に人がウロウロとしているのを確認したので迂闊うかつに近寄れなかった。


 第一目標が罠だったことを思えば慎重にならざるを得ない。『仲間だと思って近づいたら敵でした』などと間抜けなことは避けたところである。


「表にいるのはウチの隊員か?」


 分団長が望遠鏡で状況を確認している団員に声をかけた。館をウロウロしているのは皮の鎧をまとったもの達だ。入り口の扉の前でたむろしているかと思えば何やら指示して駆け回ったりしている。


「はい、ナダ中隊のようです。間違いありません」


 自警団は本来ならばハーフプレートの鎧と深緑のマントが通常装備ではあるが今回のように館に奇襲をかける際は音の少ない皮鎧を使うこともある。このようなことをするのは3警4警のみである。


「よし、行くぞ」


「はっ」


 仲間であることを確認できたので彼らの元へと駆けつける。状況から彼らの元でもなにか起きていると分団長は判断した。


「誰だ!」


 中隊を預かっているナダは背後の気配に気がついた。状況が状況なのでかなり神経を張り詰めていた彼は強い警戒を抱いている。


「私だ」


「隊長!?」


 ナダは第一目標を攻略しているはずの分団長の姿に驚きを隠せない。そんなに簡単に終わったのかと。


「こちらの状況はどうだ?」


「そ、それが扉が閉まって中と連絡がつきません」


 上級士官がおらず内心戸惑っていたナダではあったが部下の手前、無様な姿をさらすわけにもいかなかった。


 まさか自分が指揮を取るなどと思いもよらなかったため、即席で思いつくかぎりのことをやってみたのだがどうにも空回りしている感じだった。


 分団長が来たことには驚いたが、彼にとっては指揮権から解放されたことで緊張がとける。


「ダリルはどうしたのだ?」


 当たりを見回しても副分団長の姿が見えないことにエッジは訪ねる。


「副隊長は中です」


「ふぁ? 指揮官が一緒に中に入ったというのか!?」


 エッジは驚きを隠せず唖然としてしてしまった。

 指揮するものが前線にでて万が一があった場合、誰が指揮を取るのか。しかも現実その万が一が起こってしまっている。通常ではあり得ない行動にエッジは目眩を覚えそうであった。


 しかしそれは分団長である自分がちゃんと教えなかった結果でもある。その点は反省すべきと抑えて、エッジは第二分隊の指揮を取ることにした。


「扉は開かんのか?」


「はい、まるで大岩のようになってびくともしません。いま解錠装置がないか探していて、それと屋根に通気孔らしきものがあったのでそこから侵入できないか試みているところです」


 エッジの顔は青くなった。


「この木の扉が岩のようじゃと?」


 彼には過去に経験があった。同様の事例に出会ったことがある。どのような構造にしても木の扉を岩のように硬く微動だにさせない錠など存在しない。あるとすれば一つしかないのである。


「バカもの! それは魔法錠だ! 各自捜索を中止! 魔法トラップに留意せよ!」


 その声を聞いた団員達は慌てて建物から離れた。屋根に登っていたものも青ざめて降り始める。魔法錠なんぞ仕かけられていたのなら彼らでは見抜けない。


 他にどんな罠があるか分かったものではない。魔法の罠の発見はマナが見える魔法使いでないと無理なのだ。


「ナダ! 魔法ギルドに頼んで解錠できる人物の応援を要請するんだ」


「はっ!」


 ナダは失敗を取り戻そうと必死に魔術ギルドへと走った。


 夜目ナイトアイを使うために今回の作戦に魔法使いは二人派遣されている。ゆえに魔法の罠は彼らでも多少は見抜けなくもない。だが残念なことに彼らは解錠の魔法を持っていなかった。


 ゆえに新たに派遣してもらわなければならないのだが時刻はもう夜である。魔術ギルドは24時間職員がいるが主だった魔術師はいないであろう。となれば彼らを呼び出さなくてはならず、時間がかかることは受け合いだ。


「くそ、時間が勝負だったのに、長丁場となりそうだな」


 エッジは悔しそうにする。元々奇襲戦だったのだ。時間が立てばこちらが不利になりかねない。敵の中に罠をしかけられるほどの手練れの魔術師がいるのなら、さらに危険なのは明白なのだから。


「隊長、罠に魔法錠のような手間の掛かる物が仕かけられていたということは――」


「しっ! それを口にするな、誰にも言うなよ」


 声をかけたのはブラン・ブラウンだ。エッジは彼が何を危惧したのか分かっている。だがそれを皆に知られた場合、非常にまずいことになるのだ。


 エッジは口許に指を立てて秘密にするよう促した。そしてブランもそのことは理解していた。

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