第195話 教団施設の罠1
ダリル率いる突入部隊はやがて祭壇へとたどり着き、彼らは蠢いていたソレを目の当たりにする。
「う、何だこれは? 何かの儀式か?」
祭壇の上には裸体を
しかし彼女のお腹には儀式めいた紋章がなにかで描かれている。見たこともない紋章に不気味さを感じとると多くの者の脳裏に『生け贄』という言葉が過った。
どよめく団員の様子に颯太は関心を奪われて部屋の中へと首を突っ込む。そのとき突如、颯太の首根っこを捕まれて元の部屋へと引き込まれた。
「こら! 颯太入るな、俺たちの任務はなんだ?」
「すみません」
颯太を捕まえたのは長い銀髪が特徴の男シンである。階級は颯太の一つ上の班長で独身。颯太と団員のビッツを従えて小隊の隊長をしている。
髪を後ろで結って顔は細長い面立ち。あまり表情に喜怒哀楽を見せない。笑うときはニヒルに口元だけで微笑むことが多い。そんな彼が狐顔の細い目を見開いて颯太に注意を促した。
ダリル率いる突撃隊は彼女を救おうと伸ばした手が触れたとき突如、
「しまった!」
ダリルがそれに気がついたときはすでに手遅れであった。
「危ない! 颯太離れろ」
「うおっ!」
シンはさらに颯太を中に引き入れると、部屋を繋ぐ扉が勢いよく閉まった。ズウウンと響くような音が床や壁からいくつか聞こえてきた。
閉まった扉はここだけではないとシンは
「と、扉が……」
「大丈夫か? 颯太」
「ああ……助かったぜ、シン班長」
颯太は閉まった扉をみてゾッとした。扉に挟まれてスプラッタな姿となった自分を想像して思わず身震いしてしまう。腕には鳥肌が立った。
シンは扉の取っ手掴み、扉を開けようとするが微動だにしない。さらに腰を落として踏ん張ってみるがびくともしない。
今度は三人係で踏ん張ってみるがまったく動く気配すらない。裏から鍵や
「ばかな……こんな……」
先ほど部屋に侵入するときは空きの悪い扉の程度のようにしか見えなかった。なのに今はあたかも何トンもあるような石壁を動かそうとしたそんな感じであった。
「辺りに解錠装置がないか調べるんだ」
「了解」
三人で手分けして扉や壁に解錠装置がないか調べてまわる。だがシンは恐らくないだろうと予測していた。扉の異常性から機械的なものではないと予感がしていたからだ。
調べ初めてまもなくすると奥の部屋から悲鳴の声が扉や壁越しに聞こえてきた。それは恐らく中に突入した団員達の声だ。
おぞましい断末魔のような声に三人は恐怖する。一体中で何が起きたのかと。知りたいようで見たくないと本能が拒否する。
恐ろしいと思えたのは悲鳴の主達はずっと叫んでいるということだ。つまり、中の連中はジワジワと恐怖にさらされているということになる。
もしかしたら、なぶり殺しに遭っているのかも知れない。
「副隊長! 副隊長!」
シンが心配して扉を叩いてダリルを呼んだ。だがその声は自分達のいる部屋に反響してばかりで、向こうに伝わっているのか怪しい。扉を叩いている手からは石の塊を叩いているようなベチベチと音を立てるだけだった。
シンは腰の剣を鞘ごと抜いて扉に刺すように殴りつけた。だがガツガツという硬い音しかせず扉はびくともしない。
颯太とビッツも彼にに習って同じことをする。
そして数分後、悲鳴の声は聞こえなくなった。
「くそうッ! 仕方が無い、現場の判断として撤退する!」
シンは服務規定に従い、上官からの指揮を仰げず自分達も危険と判断して撤退を決めた。だが今度は元きた扉側も同様にびくともしないのである。
「だめだ、こっちもびくともしねぇ!」
「閉じ込められた!?」
三人は自分達の行く末に一抹の不安を感じた。
「うおーい!!」
同じシン小隊のビッツが扉を叩いて外の団員に助けを求めようとする。だが扉は先ほどと同様に大岩を叩いたようにベチベチと音を立てるだけでまるで響く様子がなかった。
彼の声が空しく部屋で反響する。
「仕方がない。
彼らに施されている
彼らは慎重にかつ急いで部屋の中を調べる。壁、床、椅子、柱、棚に割れた花瓶……
しかしどれをもってしても脱出への糸口が掴めなかった。
長椅子に座り込んで助けがくるまで体力を温存する。それが最終的にシンが選んだ打開策であった。
誰もがへたり込んで沈黙と重い空気が漂う中、突如ゴトリと音がした。皆が音のした方向、つまり本殿へと繋がる扉の方向を向く。
ズズズという音と共に淡い光が部屋に広がる。
扉が開いたのだ。
誰かが扉を両手で開けている。だが逆光なので誰なのか分からない。やがて目が馴れてくると颯太はその人物を認識できた。
「あ、あんたは…………」
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