第181話 協力拒否

「それはそうと帰還の調査はどうなっている?」


 龍児は刀夜の容態から停滞しているだろうと思った。しかし舞衣からは驚く回答を得る。


「刀夜君とリリアちゃんとで毎日、図書館にいっているわ」


「な!?」


「マジかよ……」


 龍児も颯太も驚いた。動くことすらままならない身なのに図書館に鍛冶作業など信じられない内容である。健康なときでも正直なところ辛そうな作業なのに。


 龍児は巨人兵討伐で得た優越感など吹き飛んでしまった。奴に追い付いたと思ったのは思い込みだったのだと。


 このままでは奴には敵わないと思ってしまいそうな自分が腹立たしかった。険しい顔で不服な面をあらわにしてしまう。


 そんな龍児をみた舞衣と梨沙は顔を見合わせて『やれやれ』といった顔をした。だがそんな龍児の気持ちは分からないでもない。舞衣や梨沙、美紀もそんな刀夜を見て何かしなくてはと考えてこの露天を初めたのだから。


「で、今のところどうなんよ?」


 颯太は進捗具合を尋ねた。


「ストーンサークルに儀式的な模様を施してあったことから魔法が関係していると思っているようだけど、まだ調査を始めたばかりですから……」


 彼らがこの世界に飛ばされてきたとき、削られた教室はストーンサークルで囲まれていた。それはすでに風化してこけだらけで古い代物だったが、石柱には文字らしき物が刻まれていた。


 しかし、こちらの文字と照らし合わせても該当する文字はなかった。可能性があるとすれば帝国時代の古代文字の可能性が高いと読んだ。


 しかし、古代文字はリリアでさえ解読はできない。賢者の知識が必要になるがここに賢者はいない。したがって刀夜は翻訳されている魔法の中にそれらしい物がないか調べていた。


 しかしながら館長の話では図書館の古代魔術の書物にそれらしい物はなかったという。その為に刀夜は類似する魔法や過去の歴史からたずさわりそうな物を探していた。


「あれか、確かチューブもあったよな……」


「そっちのほうは何かないのか?」


「それも怪しいのですが、こちらの世界にそぐわない技術で作られていることから情報を集めるのが難しいみたいなの」


「確かにあのチューブはこっちの物というより俺たちの世界のモノっぽいよな……」


 みんなは一体なんだったのだろうと思案して黙りこくってしまう。しかしいくら考えたところで、なんの情報も持たない彼らでは想像の領域から抜けることはない。


 刀夜や拓真のように行動しなくてはならない。『情報は足で稼げ』とは誰の言葉だっただろうかと思いつつも舞衣はそのとおりだなと痛感した。


◇◇◇◇◇


「話は変わるけど、龍児はなんで刀夜と張り合っているの?」


 龍児はドキリとする。梨沙が唐突に龍児にとって聞かれたくないことを聞いてきた。


「いや、別に張り合ってるとか……そんな……」


 嫉妬したからなどと恥ずかしいことを言えるはずもない。


 それに今回は後方待機だったものの龍児も由美も巨人兵討伐作戦には参加していたのだ。万が一を考えなかった刀夜の作戦に腹立たしいものがあるのは確かだ。


 現に13名もの自警団団員が亡くなっている。二匹目の巨人が現れた場合の対処がなかった時点で龍児や由美がその仲間入りになっていてもおかしくはない。無論二匹目が現れるなど誰も想像などできはしなかっただろうが。


「バレバレだよ……」


 颯太が冷ややかな視線を送った。刀夜と晴樹ほどではないが長年ダチをやっているのだ。単純な龍児の思考は読みやすい。


「……き、気に入らねーもんは気に入らねーんだよ。大体あいつは見捨てられた者の気持ちとか、助けを求めてるヤツの気持ちとか考えねーんだからよ!」


 龍児はいつも刀夜のこととなるとコレをいう。舞衣も梨沙も端から見れば、そう見えても仕方がないかと思うところはある。


 どうにも腹黒い所や危険を臭わせる物があるのは分かるからだ。しかし、この間の夜に起きたリリアと刀夜の一件など思えばそれほど単純な物でもないと思える。


「由美から聞いたけど巨人戦凄かったんでしょ。龍児も刀夜も凄いんだからさ二人力を合わせればもっと色々できるよ。ねっ、だから仲直りしたら?」


 梨沙は龍児を真剣に見つめて説得を試みてみた。


 龍児はその真剣さにたじろいだものの、それは不可能のように思えた。あの刀夜と協力などありえるのかと。絶対にやり方や方針で揉めるのは目に見えている。


 龍児にとって根本的に刀夜の考え方はどうしても受け入れがたいのだ。


「あいつがスゲーのは認めるよ。だがダメなモンはダメなんだよ!」


 龍児は顔を背けて刀夜の才能を認めつつも拒否した。奴の才能は認める、だが他は認められない。今の龍児にはそれが精一杯である。


 舞衣はなんと頑固なのだろうかとため息をつく。梨沙はこれはいわゆる男の意地ってやつかと、その心情を想像した。


「ところで、そろそろ学校行かねーとやべーんじゃねーか?」


「ああっ! そうだった!!」


 学校のことなどすっかり忘れていた龍児は颯太の忠告に焦る。学費は自警団持ちなのですっぽかしなど言語道断である。自警団をクビになりかねないと二人は慌てて学校へと駆けていった。


「逃げた」


「逃げましたわね」


 舞衣と梨沙は白い目を二人に向けたのであった。

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