第176話 また会う日まで
アリスは指輪の宝石を太陽に透かしてみた。中に
「これは魔法の指輪ッスね?」
「魔法の指輪? どんな魔法なんですか?」
興味を引いた拓真が聞いてみた。
「術式が固定で組み込み済みッスね。マナを流しこめば自動で発動する型ッス」
「で、何の魔法ですか?」
「それは分からないッス。見たこともない術式ッスよ。これはあれッスね。これが何なのか解いてみろと言う、刀夜っちの挑戦と見たッス!」
「それは何の挑戦ですか……」
その宝石は刀夜がプルシ村でアーグ討伐の報酬として頂いたものである。それが魔法の宝石だと知ったのは図書館に出入りするようになってからだが、魔法に
リリアに見てもらっても分からなかったのである。したがって古代魔法の類いだと予想したのだ。そして古代魔法に精通している彼女なら分かるかもしれないと彼女に渡したのだ。
「それからこれは龍児様に。助けて頂いたお礼だと」
リリアは背中に背負っていた長細い、彼女の身の丈ほどある袋を龍児に差し出した。
「あいつが俺に?」
龍児は不気味なものを見たような面でそれを受け取った。形状から恐らく剣だ。それはずしりと重い。だが魔法剣やバスターソードに比べれればまだまだ軽いほうである。
袋には龍の刺繍が入っており、それは美紀がデザインして舞衣が刺繍したものである。袋の紐をほどくと見覚えのある柄が現れる。時代劇や土産物屋で見るヤツだ。
鞘を掴んで一気に引き出す。
予想どおり刀だ。だが長い。
「ああ、やっぱりそれか」
晴樹はリリアが担いでいた刀をもしやとずっと思っていた。
「刀にしちゃあ、ずいぶん長いな」
龍児が率直な感想を述べる。時代劇で見たやつはもっと短かった。
「野太刀だよ。大太刀ともいうけど。長さは5尺……もうちょっとあるかな。袋は舞衣と美紀が、鞘と柄は僕と梨沙で――」
「あたしはたいして何もしてないわよ」
梨沙は少ししか手伝っていないので、やった内に入らないと謙遜する。
「――刀身と他は刀夜だよ。この野太刀は実戦向けに例の玉鋼をふんだんに使ったものだよ」
「ふーん」
龍治は刀を抜いてみせた。刀が長すぎて龍児の体格でも抜くのはギリギリである。
刃を立ててみせると夕日に照らされてキラリと光る。日本刀独特の波紋は殆どないが刃は恐ろしく切れそうだ。
「ふふん」
龍児はまんざらでもなさそうだ。
「ふえぇー長いねぇ。背中に背負ったら佐々木小次郎みたいでカッコいいかもよ」
「そ、そうか……………………」
美紀が褒め称えると龍児は照れて顔が緩んだ。しかし何か素直に喜べない自分がいる。腑に落ちない。それは何かと考えた
「……って佐々木小次郎は宮本武蔵に負けてんじゃねーか!!」
美紀がバレたかとケラケラ笑う。つられて由美がツボに入ったらしく腹を抱えてしゃがみこんで笑いに耐えている。今後龍児があれを背負ってるたびに笑いだしてしまいそうだと。
「あと、刀夜様から伝言です」
「ん?」
「えっと、あくまでも刀夜様からですよ……」
「分かってるよ」
リリアは咳払いをして刀夜の演技で彼からの伝言をつたえる。
「んん。助けてもらったことに感謝する。よってお礼にこの刀を贈る」
「ふふん」
龍児は鼻高々にしてやったりと上機嫌になった。いつか奴の鼻を明かしてやるとずっと思ってきた。それがついにかなったのだ。
「だが、お前のことだ俺の贈り物など迷惑千万だろう」
「ん?」
続けられたリリアの言葉に龍児は嫌な予感がした。
「だから捨てても構わない。自由にしてくれ。最も使いこなせる自信がないのなら同様に捨ててくれてもよい……以上です」
リリアは申し訳なさそうに縮こまって上目使いで龍児の様子を伺った。龍児はすでにゆでダコのようになったいる。
「――あのぉ野郎ぉ!! 上等じゃねえか! 使いこなしてその減らず口ガタガタにしてやる!!」
龍児は憤怒する。
回りは刀夜の皮肉にゲラゲラと笑って腹を抱えた。もし刀を捨てたら使いこなせないものとして見られてバカにされるわけだ。嫌でも刀夜の刀を持っていなくてはならない。
拓真は薄ら涙を拭く。
「じゃ、そろそろいくよ」
しんみり別れるよりこの笑いの中で別れたほうが良いような気がした。
「うん、じゃね」
「必ずまた会いましょう」
「またな!」
「体に気をつけて」
「腹壊すなヨー」
拓真は皆に笑顔を送ってアリスと共に去っていった。そんな拓真をみんなで見送った。そして心の中で誓う。必ず帰るんだと……
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