第175話 刀夜からのお礼

「よぉぉぉーし! よしよしよし!!」


 本部ではカリウスが勝利の歓喜に沸いていた。死者はたったの13名、しかも巨人2匹討伐。これで間違いなく議員入り確定であると彼は勝利に酔いしれた。


 対してジョン団長を初め各自警団の幹部たちは生きた心地がしなかった。2匹目の巨人が現れたと報告が上がったとき誰もが作戦の失敗を覚悟した。


「寿命が10年は縮んだ気がする……」


 ジョン団長はそう言い残して撤収の準備のためテントを後にする。自警団としてはさすがに3匹目はないだろうと思いたい。実際にこのエリアにいる巨人はこの2匹だけであった。


 前線で戦った者達が本部へと帰ってきた。


 だが担架で運ばれてきた刀夜の様子にカリウスは驚く。まさかこれほどの重症を負っていたなどと思っていなかった。人の心配などしそうにない彼にしては珍しく刀夜の容態を気にした。


 後方で待機していた部隊は撤収要因として駆り出され、残りは帰途につくことになる。龍児と由美は元々後方であったが特別に許可された。


 死んだと思われていた拓真はアリスと共にピエルバルグまで同行する。道中6日間の旅であるが話すことは多く話題は尽きない。


 特に賢者マウロウについては非常に興味深かった。もしかしたら帰る手だてについて、一番近い存在なのではないかと思われたからだ。


 途中、刀夜が目を醒ました。そのことを一番喜んだのは言うまでもなくリリアである。刀夜が気を失っている間もずっと付き添っていた。


 だが目覚めた刀夜はまったく体が動かせない状態だ。脊髄損傷のみならず衝撃波による影響は全身にまでおよんでおり、この道中で彼は回復にはいたらなかった。


 ピエルバルグに到着したのは昼過ぎ、そして夕刻になるといよいよ拓真とアリスとはお別れすることになる。


 夕日に照らされたピエルバルグの中央の広場にてアリス、拓真、龍児、晴樹、颯太、舞衣、由美、梨沙、葵、美紀、リリアがそろう。ここにいない刀夜を含めた異世界組で生き延びたのは10名となった。


「ったく、なんでこんな時にあいつは毎度毎度いねーんだよ」


 龍児はこれなかった刀夜に対して腹を立てる。とはいえあれだけの重傷なのだ。てっきり家で休んでいるのだと思っていた。


「申し訳ありません。刀夜様はカリウス様に呼ばれてまして……」


 リリアは本当なら刀夜についてゆきたかった。だが拓真の見送りを代わりに行ってほしいと頼まれたのだ。


「だ、大丈夫なのか?」


「…………」


 拓真は刀夜の体を心配する。とても動けるような体ではないだろうと。刀夜とてゆっくり家で休みたかったが重要な話とのことでハンスに拉致された。


 大丈夫なのかと問われても正直なところあまり良くはない。リリアは答えられなかった代わりに表情を曇らせた。


 場の雰囲気が重くなったので話の流れを変えようと晴樹が拓真に質問した。


「やっぱり行くのかい?」


「ああ、僕たちが帰る方法を見つけるには色々な方向から探す必要があると思うんだ。亡くなった二人の為にも、生き延びた僕はがんばろうと思う」


 それは智恵美先生と咲那の事だ。拓真はそう決心したのだ。


「そっか。じゃぁ止めないよ。こっちはこっちで探してみるよ。頑張れよ」


「ああ、晴樹君もな」


 二人は強く握手する。


「頑張ってね」


「また必ず会おうね」


 皆、おのおのが声をかけ拓真との別れを惜しんで握手をした。そんな皆の思いに拓真は新たに決意をする。必ず帰る方法を見つけようと。


「アリスさん拓真君のこと宜しくお願いします」


「まかせておくッス。姉弟子として拓ちゃんの面倒はしっかり見るッスよ」


 舞衣の頼みにアリスはドンと自慢げに胸を叩いてみせた。


「あの……」


 会話に入るタイミングをうかがっていたリリアが声をかけた。


「このたびは刀夜様をお救い頂きありがとうございました。改めてお礼を申し上げます」


 そう言ってリリアは深くお辞儀をする。拓真はもう何度もお礼を言われているのでやや気はずかしくなってきていた。


「仲間なんだから助けるのは当然だよ」


 リリアは頭を上げて嬉しそうにする。


「刀夜様から助けてもらったことへの感謝だと、お二人に渡すよう託されました。どうか受け取って下さい」


 リリアは小さな小袋を二人に渡す。手の平よりやや小さめの本当に小さい袋であった。


「なんでぇ刀夜のヤツ。命助けてもらってそのお礼がこんな小袋かよ」


 颯太が悪態をつく。拓真とアリスが袋を漁ると金貨が5枚出てきた。


「ひょー金貨ッス。これだけあったらおいしいもの一杯食えるッスね」


 アリスは賢者とはいえまだ稼ぐようなことはしていなかったので金貨に大喜びだった。


 悪態をついていた颯太は目が点になる。自警団で働くようになって金貨を稼ぐのがどれだけ大変か身に染みて分かるようになっていた。


「おんや~コレは!?」


 アリスは袋をひっくり返すと小袋から指輪が出てきて彼女の手の平で転がった。それは大きな赤いルビーのような宝石のついた指輪だ。


「ええー何それぇ。意味し~ん」


「刀夜のヤツ。リリアちゃんいるのに、そんなことする訳?」


「いえ、私はそういうのではありませんので……」


 美紀と梨沙が冷たい眼差しを指輪に向けた。本人がいれば二人に集中攻撃をくらっていたかも知れない。


 そのようなやり取りをよそに指輪を見ていたアリスは宝石の中に何か蠢くものをみつけた……

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