第173話 龍児VS巨人兵2

 龍児は再び巨人と対峙しようとしている。


 相手はすでに右腕と武器を失っているが巨人のパワーは油断ならない。加えて魔法剣といえど絶対物理障壁越しに防具の破壊は不可能に近いときく。


 であれば先ほど腕を吹き飛ばしたときのように防具の隙間を狙ってゆくのが得策だ。


 だがこの巨体……さらに強化魔法効果の効果時間内に決着をつけなければならずゆっくりしている暇はなかった。


「一気にカタを付けてやるぜ!」


 敵が手出ししにくい懐へと潜りこもうとする。そうすれば巨人の手は届かないだろうと龍児はそう考えた。


 突っ込んでくる龍児に巨人は残った左拳をフック気味に振りかざしてくる。


 真横から大きな拳が迫る!


 間に合わないと悟った龍児は咄嗟に急ブレーキをかけた。


 目の前を岩石のような拳が特急電車のようにとおり過ぎる。冗談ではないあんなもの食らえば即死しかねない。どっと冷や汗が流れ、緊張感で全身が震える。


 そして目の前には鬱陶うっとおしい籠手の壁ができていた。突進の道筋を奪われ、迂回することすらできなかった龍児は立ち止まるしかなかなく、思い通りにいかなかったことに舌打ちする。


「懐に入られるのは嫌ってか?」


 ジャンプで飛び越えようとしたとき、遅れてやってきた横からの突風に襲われてバランスを崩した。


「な、なに!?」


 腕を飛び越えるのは断念せざるをえない。だが今の突風が何なのかと疑問に思う。聞かされていた話では、巨人の衝撃波は武器によるところだったはずである。


「まさか、拳圧だとでもいうのか!? あんなとろくさいのに!」


 龍児の脳内は魔法により処理能力が加速状態にある。そのため集中すると巨人の動きなどスローモーションのように見えてしまう。


 加えて元々巨人の動きはゆったりと動く癖に攻撃の際は早い。あらゆる速度差のギャップが彼の感覚を狂わせる。


 巨人の腕が急に大きくなり、視界一杯になる。


「こ、こいつ、俺の得意技を!」


 巨人の裏拳が迫る。


 龍児は咄嗟とっさにジャンプで回避する。身体能力強化魔法により通常ではあり得ない高さを飛んだ。だが慌てて飛んだために巨人の腕の高さにはわずかに足りない。


「こなくそッ!」


 前転のように体を丸める回転力で剣を叩きつける。絶対物理障壁と干渉してそれを軸に上へと弾かれた。


 直撃は免れた、だがしかし……空中で猫のように体を回転させて体制を立て直す。


 空中という完全に無防備状態を巨人は見逃さない。フェイスプレートの下から大きな口を開けて噛みつこうと迫る。


「グオオオオオオオッ!」


「喰われてたまるかッ!!」


 器用に体を捻って横回転を加えて迫りくる巨人の顔にぎ払いの刃を立てた。再び絶対物理障壁と干渉して弾かれる。


 派手に地面へと激突するがプロテクションによりダメージは軽減された。受けた細かな傷がリジェネーションにより修復されてゆく。


「ちぇッ、あんたの魔法。すげーわ」


 龍児は少し悔しくなった。巨人の攻撃を凌げているのは彼女の魔法のおかげだと実感させられる。魔法の加護がなければこの僅かな時間で何回死んだだろか?


『さて、どう戦うかな……空中戦は絶対禁止だな』


 龍児が攻めあぐねると、巨人が立ちあがる。巨人もしゃがんでの攻撃は死角が多くなってやりにくかったのだ。


 そしてすぐ側にあった投石機をローキックで破壊した。破壊された部品が龍児に目がけて飛散し、襲ってくる。


「冗談じゃねぇ!」


 龍児は集中力を上げると降り注ぐ破片がスローモーションと変わる。強化された俊敏な動きで降り注ぐ大きな部品を避けて細かいのはプロテクションに委ねた。


 ある程度避けたところで再び懐に飛び込むと巨人の蹴りだした足元に潜り込めた。その勢いで剣を振りかざしてすね当てに叩きつける。だがまたしても絶対物理障壁に弾かれる。


「くそう! やはり渾身の一撃でないとダメか!」


 龍児が使用している魔法剣は巨人の剣と同種の武器である。振りかざした際に斬撃波を生み出して圧力で相手を粉砕する。しかし、その発動条件は使用者の一定以上を気合を入れることで発動する。


 よって発動させるには最初の時のように思いっきり踏ん張るか振りかぶるのが手っ取り早い方法である。


 しかし貯蔵している魔力を使用するので使用回数に限度があり、龍児はそれを気にして思いきった行動に出れなかったのである。


 巨人の攻撃を凌いで必死に対策を考える。


『何か方法はないのか?』


 巨人に向けて振りかぶった剣が大きく弾き飛ばされ、龍児は反動で地面を転げた。『くそう!』刀夜に大口を叩いておいてこのザマかと悔しがると地面を殴り付けた。


 立ち上がろうとすると、龍児の視界に刀夜の作ったネットが見えた。ネットには巨人の鎧が引き剥がされてくっついている。


『……これは…………行けるかも知れねぇ……』


 龍児は覚悟を決めて巨人へと向かってゆく。疾風のように地を駆け抜ける。


 巨人は円弧を描くように左拳を上から振り下ろした。豪快な力任せのパンチは龍児の進行方向に対してドンピシャである。


 それを睨み付けて凝視すると、ほんの一瞬だけ加速する。拳が龍児の頭上すれすれを掠めた。


 一気に今まで貯めた力を爆発させるかのように足腰に力を入れて、後ろに背負うように構えていた剣を加速の力と渾身の力を掛け合わせて全身を巻き込むように振り抜く!


 絶対物理障壁と干渉する。


 ビシッビシッとヒビの入る感触が腕に伝わる。


「いっけえええええええぇぇぇ!!」


 全身の血管を浮き上がらせて鬼のような形相で渾身の力を絞りだす。魔法剣が青白く光ると、あたかも火山が爆発するかのごとく一気に斬撃波が放たれた。


 巨人の腕の風圧が吹き飛ばされる。


 バリバリと障壁の割れる音が耳障りだ。


 龍児の剣が巨人の腕の裏を切り裂き、剣先が駆け上がってゆく。


 巨人の籠手の裏には防具はなく、あるのは留め具だけである。龍児はその留め具を狙い腕を切り裂く。


 巨人の視線からは龍児が消えたかのように見えた。だが次の瞬間、魔法剣の斬撃波により腕の籠手が爆発しかのように吹き飛ばされた。


 籠手のパーツがバラバラとなって辺りに散る。


 龍児の気合いの一撃により切り裂かれた巨人の腕は骨ごと砕かれ、だらりとしてその力を失う。

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