第172話 龍児出陣
アリス達が現場に近づくと逃げ纏う兵士たちでごった返した。
「一体どうしたんだ?」
龍児が逃げる兵士に問うと兵士は引きつった顔で答えた。
「巨人だ! 巨人にやられた!」
「何だと、刀夜のヤツ失敗したのか!?」
「違う! 一体は倒したんだ! だけど新たにもう一体現れたんだ!!」
「な!?」
龍児は開いた口が塞がらなかった。発見された巨人は1体、自警団の調査で見つかったのも1体。その後新たに発見されたのも1体。誰もが敵は1体だと思い込んでいた。したがって対策は1体で計画している。
「龍ちゃん! ここからは足で行くッス!」
「りゅ、龍ちゃん!?」
龍児は脱力感に襲われる。しかしアリスのいうとおり、逃げ纏う兵士たちの中を馬車で進むのは危険であった。
皆が馬車を下りる。
「もう近いから、こっからは戦闘モードで行くッス」
「龍児君、これを」
龍児は拓真から手渡された武器を受け取った。そして包まれている包装紙を剥すとそれは巨大な剣だった。
大きさは龍児の持っているバスターソードより少し短い。だが刃の幅が決定的に異なっており、太くて大きい。
そして剣の中央は窪んでおり、透き通った緑の水晶のようなものが入っている。その中には幾何学模様の文字だか機械のようなものが入っている。
「いや、だから本当にこれ振り回すのか? いくらなんでも重過ぎだろ」
「さっきも言ったッスが、これはアンタとアタシで使うッス。名づけて魔法剣ロード・オブ・グローリー」
龍児はよく分からんと言った顔をした。
「分からん! 名前はカッコいいが、具体的に言ってくれ!」
「論より証拠、やったほうがわかるッスよ」
龍児が掴んで立てている剣に向かって手を添えた。そして反対の手でペンダントのタリスマンを握る。彼女が集中すると、タリスマンが淡く輝き、剣の宝石がゆっくりと光る。
「これは何やってんだ?」
龍児は質問するがアリスは集中しているため答えれない。その様子を見ていた拓真が代わりに答える。
「恐らく剣にマナを注入しているのだろう」
拓真にはマナの流れが見えていた。ずっとマウロウの濃密度なマナの環境下にいたため彼には微かだがマナが見えるようになってきていた。
「つまりこれで力が使えるのか?」
「まだだよ」
マナの注入が終わったアリスが答える。そして彼女は自身の持ている杖を龍児に向けた。
「今度はあんたの番ッスよ」
「へ?」
間抜けな返事を返す龍児を無視して、アリスは呪文に集中した。
「かの者の肉体にマナよ集え、血へと、肉へと転成し力となりて神々の祝福を授けん。デバィンボディ!」
龍児の体が輝くと黄金の粒子が放たれて、全身に力がみなぎるのを感じた
「おおッ!?」
「まだまだ行くッスよ」
アリスは再び呪文に集中した。
「かの者の理への
龍児に魔力が宿り目から赤い光を放つ。脳の処理能力を加速されて、あらゆるものをスローのように感じさせる。
今度は指にはめている指輪を龍児に向けた。
「んじゃあとは定番の……プロテクション! リジェネーション!」
龍児の体が淡く光ったような気がするが黄金の粒子でかき消された感じで何が起きたの分からなかった。最初の2つは魔法の影響をすぐに感じたのだが。
「今のは?」
「物理防御と継続回復魔法だよ」
答えたのは拓真だった。
「さぁ先に行くッス。アタシらも後からすぐ追いつくから」
そう言われて仕方が無いと剣を持ち上げると、あれほど重かった剣が普通の片手剣ほどの重さにしか感じらっれなかった。
「おお、なるほど。こいつはスゲェ」
龍児は感心する。だがアリスは険しい顔で怒った。
「魔法効果は時間との勝負ッスよ! 急ぐッス!」
「おう! じゃぁ先に言ってくるぜ!」
龍児は駆け出すとさらに驚いた。周りの景色がとてつもない速度で流れてゆくのに早さを感じない。逃げまとう兵士達の間を抜けてゆくごとに、回りとの時間差を感じる不気味な感覚であった。
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