第170話 再開の拓真

「龍児君? 由美君?」


 拓真もまさかこんなところで出会うとは思っても見なかったので一瞬混乱に陥った。


「い、生きていやがった……」


 龍児は今にも泣きそうな顔で嬉しそうにする。龍児にしてみれば山賊襲撃の際に三人を助けられなかったという思いをずっと抱え込んでいた。だが拓真が生きていてくれたと言うだけで彼の心は救われたような気分であった。


 そしてそれは拓真も同じてある。智恵美先生を咲那を助けることができなかった。正直龍児達に顔向けできないと、一緒に死んでしまっていたほうが楽だとも考えた。


 だが出会うことで分かる。生きていることが大事なのだと。生きていることで自分のみならず人の希望繋がっていると。


「拓ちゃんのお友達ッスか?」


「……拓ちゃん?」由美が目を丸くする。


「ええ、彼らは僕の仲間です。姉弟子ねえさん


「……姉さん!?」由美がますます目を丸くする。


 一体どのような関係なのかと色々と不埒ふらちな想像したころ、置いてきぼりを食らった団長達が声をかけた。


「支援に来て下さったのか?」


「そうッスよ。あんた達じゃ全滅するのが落ちッスよ。なんでこんな無謀なこと始めたッスか!」


 その言いぐさに腹を立てたのはカリウスであった。


「無謀とはなんだ! こっちは迫る危機に対してだな――」


「何言ってるッスか、その様子だと絶対物理障壁のことも分かってないみたいッスね!」


 カリウスは刀夜が苦心して立てた計画をバカにされて完全に頭に血が登った。


めるな小娘! そのぐらい、すでに対処済みだ!!」


「ほぅ~ら。ぜんぜん…………え?」


 アリスにとって意表を突かれた返事が帰ってきた。あの強力な防御手段に対して対処済みだと、にわかには信じられない言葉だ。


「うそ……」


「嘘ではない!」


「マジ!?」


 カリウスはしてやったりとアリスを見下ろした。だがそんなカリウスにジョン団長は深刻な顔をした。


「しかし、カリウス殿。現場からは被害甚大の報告以降まったく連絡がありませんぞ」


 その言葉にカリウスは冷や汗を流した。確かに連絡がない。あの刀夜が連絡を怠るなど考えられなかった。現場で何かあったのかと不安が過った。


「ふーん」


 アリスが冷ややかな目をカリウスに投げ返すと彼は口を摘むんで引っ込んだ。


「ともかく現場に急ぎましょう姉弟子ねえさん


 拓真から姉さんと呼ばれて彼女は機嫌を取り戻した。


「そうッスね。団長さん、団で一番で屈強そうな人を一人貸してもらえませんか?」


「屈強そうな男? 一人で良いのか?」


「はいッ! それ俺!!」


 龍児はピシッっと気おつけして右手を高々に上げた。


「……うむ」


 ジョンは確かにこの男なら屈強と言って良いかも知れないと思った。新米ではあるが、あのDWウルフを一対一で無傷で勝った話は彼の元にも届いていた。しかもここに来てから現場に出たそうにしている。


「分かった。いってこい!」


「おっしゃああああああッ!」


 龍児はガッツポーズを決める。拓真が馬車の上から手を差しのべると、その手を掴み乗り込む。


「どうした由美! いくぞ」


 自分はどうするべきか悩んでいた由美に龍児は手を差しのべた。彼女は行くべきか悩んだ。命令は待機だ。


「俺のお目付け役なんだろ? 急げよ」


 龍児の言葉にそれもありかと団長の顔をうかがった。団長は静かに頷くと、由美は龍児の手を掴む。


「じゃあ、いくッス」


 アリスが手綱で馬に鞭を入れると馬車が急に動いた。由美がバランスを崩すと拓真が彼女を受け止める。拓真の顔が大きく見える……


「ほんと……よく生きて……」


 彼女は涙目で拓真を見つめる。


「遅くなって、ごめん」


 拓真は彼女に謝った。


◇◇◇◇◇


 森の中を馬車を飛ばして龍児達は刀夜の元へと急ぐ。


「おい! さっきみたいに飛ばせないのか?」


「ああん? 無理ッスよ。ここは飛ばすには邪魔が多いし、巨人と戦うなら魔力は温存しないといけないッスから」


 確かに木や草溜まりが多く馬はともかく馬車が突っ切るのは無理のようである。アリスの言い分に龍児は仕方がないかと理解した。


 揺れ暴れる馬車で龍児は不安にかられていた。カリウスが懸念したように刀夜という男は定期的に連絡をいれると言えば必ずする男である。だがその連絡が来ない。何かがおこっていると予感がしていた。


 だが龍児はその原因とすぐに遭遇した。


 森道の真ん中に茶色の大きな毛玉がわっさわっさと動いていた。アリスは慌てて馬車をとめた。


「な、なんッスか!?」


 アリスは始めてみるその物体に目をまるくした。龍児や拓真、由美も一体なんなのかと警戒する。だが龍児にはこの毛並みがどこかで見たことがあるような気がした。


 茶色の毛玉はアリス達に気がつくとひっよこりと塊から顔をだした。猪のような顔、カラフルな鶏冠……


「げッ、あんときの猪頭!」


 龍児が嫌な記憶と共に声にだすと。茶色い毛玉から次々と猪頭が顔をだした。それは龍児達が巨人から逃げるときに、そして樹海から脱出できたときに遭遇した獣であった。


 どうやら彼らは単により集まって固まっていただけらしい。


「あれはポーク? 初めて見たッス」


「ポーク!? まんまじゃねーか!!」


 獣達がぞろぞろと分離、分散すると連中の足元に自警団の男が二人倒れていた。すでに絶命しているようで身動きせず、かじられた痕跡も見受けられた。


 それは刀夜が伝令に出した男であった。彼は本団から戻る際にここで襲われ、後から出した伝令もここで襲われたのだ。


 それを見た龍児は頭に血が登った。


「くおの野郎ッ」


 怒りを露にして馬車から飛び降りた。そして背中に担いでいるバスターソードを抜くと馬車の前にでる。


 だがそのとき、空気を震わせるほどの雄叫びが聞こえてくる。獰猛で猛々しく恐ろしい声だ。


 龍児達はどこから聞こえてくるのかと辺りを見回す。


 ポーク達は突然の雄叫びに、オロオロとし始めて逃げ出した。その光景に龍児は『まぁ分からんでもない』と大きく息を吐いて内なる怒りを抜いた。


 それほど恐ろしくも不気味な声であった。


 バスターソードを背に戻すと、自警団の男に駆け寄ってみる。もしまだ息があるならすぐに助けなければならない。だが手足や内蔵に食われたあとがあり、確認するまでもなく二人ともすでに絶命している。


 ポークにやられたのであろう。両手を会わせて拝み、彼らの冥福を祈った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る