第166話 戦慄の巨人兵4
力なくだらりとした巨人を前に刀夜は勝ち誇っていた。骨と皮だけの体なのに巨体を支え、跳ねる、振り回す、引きちぎる。筋肉などない体でそれらは不自然すぎる。
見た目ではない何かの力で支えているのは明白なのだ。
それを根こそぎ奪ってやった。もはや脱け殻となった奴に動く力などない。あとは仕上げのみ。刀夜は右手を掲げて号令を放つ。
「バリスタ! 円月断絶刀! 一斉に撃てぇぇぇぇぇぇ!!」
バリスタから鋼鉄の矢が放たれると今度は弾かれずに巨人に刺さった。
円月断絶刀は刀夜が考案した対巨人兵器の一つである。全長2.3メートルの円盤状に中心をくりぬいて穴が空いている。円周は刃となっており、研ぎは刀夜が直々に行っている。
それを強力なバネを使った射出機で打ち出す。超重量武器なので射出の際に射出機が浮くほどの衝撃がある。
広い面積は巨人への命中率をあげるためだ。そして鋭い刃が巨人の皮膚を切り裂き、重い重量が巨人の骨を砕く。
巨人の本体はミイラのような姿をしている。ほとんど肉がなくバリスタでは突き刺せる箇所が少ない。また刺さっただけでは巨人の動きを止めらない可能性がある。致命傷にはならないと踏んでいた。
そこで円月断絶刀だ。超重量と鋭い刃は骨すら切断する。当たるだけでも肉体を動かすのは困難になるほどのダメージを繰り出す。人間に当たれば確実に真っ二つになるであろう。
巨人は次々と体に円月断絶刀をその身に食らった。体の骨や筋を切り刻まれて、その肉体を支えることができなくなると転倒した。
「よし、パイルバンカー隊突撃しろ!!」
パイルバンカー……これも刀夜が考案した対巨人兵器の一つである。
木と鉄でできた四角柱の中に鋼鉄の太い槍が入っている。先端は露出して巨大な銛になっており、突き刺されば抜けなくなる。止めというよりは万が一の保険用の武器である。
三人で担いで巨人めがけて走る。狙うは頭、首、胴体、肉のない手足は避けてできるだけ銛が突き刺さりやすい所を狙う。
体当たりを決めた瞬間、槍の先端が巨人に突き刺さる。トリガーを引くと強力なバネにより激鉄が射出されて槍を後ろから叩き、槍は深く巨人に突き刺さる。
銛の返しが体内で引っ掛かり二度と抜けなくなった。
射出の際の反動に対しては対処していないため、彼らは大きな反動を受けて吹き飛ばされてしまう。反動の痛みに耐えつつもパイルバンカーが決まっているのを確認すると笑顔を浮かべた。
パイルバンカーの槍には鋼鉄の細いワイヤーが仕かけてある。万が一巨人が動きだしてもこれを回りの木にくくりつけておけば奴は動けなくなだろう。
「魔法効果、限界です!」
体内時計で約47秒。上出来だと刀夜は笑む。
そして巨人は身動きを完全に止めてしまった。横たわって、まるでガリバーのように地面に張り付けられている。仮に魔力が復帰しても円月断絶刀により体の骨が砕かれた今、もはやなんの戦闘力もない。
「伝令! 我、巨人を討伐せり!!」
刀夜は勝利を確信した。
「ハッ! 巨人討伐せり。おめでとうございます」
伝令が刀夜を祝福する。その言葉を聞いた自警団の兵士達に歓喜が沸き起こる。
「あの巨人に勝った……」
「俺たちの勝利だ!」
「これで街は救われた!!」
戦死者わずか6名。そのほとんどが最初に刀夜の命令に従わなかった者達である。パーフェクトゲームは叶わなかったが刀夜は満足していた。
一時期火薬の原料の硫黄が手に入らずどうなるかと思ったがたったこれだけの犠牲で済んだのだ。
「刀夜様おめでとうございます……」
リリアが寄ってきて刀夜を祝福した。
「ありがとうリリア……お前がいなければこの勝利はなかった」
刀夜はリリアの頭をなでる。彼女と出会っていなければこの勝利はなかっただろう。
どこのだれが刀夜とリリアを引き合わせたのかはわからない。だが彼女との出会いは刀夜にとって大きな変革をもたらし始めている。
「お前と引き合わせてくれた奴に感謝すべきなのかな……」
「い、いえ。あたしのほうこそ刀夜様と出会えて良かったです」
地獄のような未来しかなかった彼女にとって刀夜との出会いは生涯得難いことなのかも知れない。
リリアは姉の言葉を思い出した『いつかきっと……』
「さてと、仕止めた奴の面でも拝んでやるか」
フェイスプレートで顔の見れない巨人がどんな面をしているのか興味が沸いた。ミイラなのだからさぞかしシワクチャで乾燥してカサカサな顔ををしているのだろう。鼻は削げ落ちてブタのようかも知れない。
刀夜はまるで無邪気な子供のような顔で巨人のもとに赴く。彼は完全に油断していた。まだ戦いは終わっていないことに気づいていなかった。
横たわっている巨人の回りには刀夜と同様間近で見てやろうという野次馬が集まっている。そんな彼らにまじって刀夜も巨人をしげしげと見ていた。
リリアはそんな刀夜を子供みたいとクスクスと笑いながら歩いて後を追う。
だがその時、途絶えていた巨人の魔力を微かに感じた。まさかとリリアの血の気が引く。
だが彼女の目には巨人の指先が一本動いているのがしっかりと見えている。音もなくゆっくりと持ち上げて、誰もそのことに気がついていない。近くにいる刀夜でさえ。
「刀夜様ーッ!!」
リリアは悲痛な声で彼の名前を叫んだ。
リリアの声に反応した刀夜は振り向いて彼女をみるがいまだに気がついていない。その瞬間、巨人の指が刀夜めがけて振り落とされた。
刀夜が悪寒を感じ振り向いて見上げたときすでに巨人の爪が迫っていた。
「刀夜殿!!」
側にいた自警団の男が刀夜を庇った。
刀夜は男に突き飛ばされ難を逃れることができたが、巨人の爪は助けてくれ男の脇腹を引き裂いた。
「ふぐぅッ」
男の顔が苦痛で歪む。
彼の脇腹から鮮血が飛び散るとよろめいた。
残っていた僅かな魔力で動いた巨人の爪は地面に突き刺さると、力を使い果たしてその動きを止めた。
マナイーターの効果時間があとわずか続ければ巨人の魔力を完全に奪えただろう。だが魔力をフルに蓄積させた杖でも完全に奪うには至らなかったのだ。
「うむぅぅ……」
刀夜を庇った男は負傷した脇腹を押さえて今にも倒れそうだ。刀夜はとっさに立ちあがって命の恩人である彼を支えた。脇腹からの出血は酷く、内蔵が飛び出している。重症だ。
「しっかりしろ! せっかく勝ったのに死ぬな!」
刀夜は彼を横にすると彼の傷口を両手で押さえた。
「リリア! リリア!」
リリアはすぐに駆け寄って手を彼に差し向けた。咄嗟に
そしてリリアが呪文の詠唱に入ると刀夜は手を放した。
「我が親愛なるベェスタの神よ、この者の傷を癒したまえ。ヒール!」
リリアの手が青白く光ると魔方陣が形成される。男の傷口がその光で包まれるとみるみる傷口が塞がり飛び出していた内蔵も戻った。
「ふうぅぅぅぅ」
男も安心したのか大きく深呼吸をした。
「いやぁありがとう、お嬢さん」
男はリリアに笑顔を向けた。
「いえ、刀夜様を助けていただき、ありがとうございました」
「本当にありがとう。お陰で命拾いをした」
男はまだ痛いはずなのにニカリと笑ってみせる。
彼はなぜ身を挺して守っくれたのか刀夜には分からなかった。しかし彼が傷ついてしまったのは自分の油断のせいである。浮かれていたと自分を戒めると同時に彼を慎重に本部に戻すことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます