第164話 戦慄の巨人兵2
近くにあった
「バカかッ!」
刀夜は吐き捨てるように兵士を
巨人の攻撃範囲内にいる彼らは当然巨人兵に狙われることとなり、ハンマーが高々と持ち上げられた。
「ペグシールド! 回避!」
刀夜の指令が響く。
『ペグシールド』それは刀夜が考案した対巨人用の防御盾である。
いわゆるタワーシールドであるがその大きさは3.8メートルもある。受け側は円弧ではなくへの字で尖っており、シールドの下部も剣先のように尖ってる。それを地面に半分突き刺して衝撃波を防御するものだ。
使い方、形状がテントを地面に固定する器具『ペグ』に似ていることからその名をつけた。
複数人でシールドを持ち上げて勢いよく地面にシールドを突き刺す。そこへドラを鳴らしていた兵士など、表に出た兵士達が隠れた。
巨人のハンマーが打ち下ろされると直撃を受けた兵士は叩き潰されて即死した。
そして衝撃波が襲ってくる。
ペグシールドが衝撃波を切り裂いて裏に隠れた兵士の命を守る。鼓膜がやられないよう耳を押さえて恐怖に耐えた。シールドは想定道理機能している。
だが囮となるはずだった槍を持った兵士達はバラバラとなってしまい、巨人をおびき寄せるための『かかし』は使えなくなってしまう。
刀夜の作戦は非常によくできている。ドンピシャで計画どおりやれば死者ゼロも可能であった。
多少計画を狂うことを前提に死者の見積りはだしてはいたが、それでも刀夜は死者ゼロのパーフェクトを期待していた。
それがいきなり狂わされた。刀夜の作戦は戦う人々の感情まで考慮に入っていなかったのである。
だがそれでも作戦の打ち合わせでは
亡くなった兵士達が感じた恐怖が伝染する。到底人の死にざまと思えない最後が発症を促す。
巨人に近い
当然巨人の注目を浴びる。
今度は薙ぎ払うかのようにハンマーをスイングすると複数名の兵士がえぐられた地面と共々、バラバラとなって空高く飛び散る。
飛んできた岩がバリスタを破壊して待機していた兵士が下敷きになった。
刀夜の計画がどんどん崩れてゆく。巨人は視界に映る近くにいる人間を優先する傾向にある。したがって
『何人死んだ?』
こんなはずではなかったのにと刀夜は呆然とする。恐怖が次々と感染していく。
止められないのか?
刀夜の脳裏にそんな予感がしたとき、戦場のど真ん中に立つものが現れた。細身の剣を抜いて巨人に向けるその者のヘルム下から三つ編みの赤い髪が見える。
「貴様ら! それでも栄えある自警団の兵士かッ! 作戦通りにやれ! 矜持を示せ!!」
聞き覚えのある女性の声だ。女性の割には迫力があり、しかも危険な場所を陣取って皆を奮い立たせようとしている。
刀夜は彼女の迫力に押され、用意していたクロスボウを手にして走り出した。リリアはそんな刀夜に置いていかれまいと懸命について行く。
兵士達は彼女の声で我に帰ると再び
刀夜は巨人と罠の対角線上の位置に陣取るとクロスボウを構えた。しゃがんで膝をついてクロスボウがぶれないように固定する。
「こっちだ!」
刀夜は彼女を呼んだ。同時に刀夜は巨人に向けて矢を放つ。
だが矢は巨人の胸に当たると意図も簡単に弾かれてしまう。それは最初っから分かっていること。ダメージなど期待していない。
刀夜と彼女が一点に集まったことで巨人は罠のポイントにめがけて進んでくる。
あと三歩。
刀夜達もゆっくりと後退して間合いを調節する。
あと二歩。
あと一歩。
だが巨人はそこで足を止めてしまい、ハンマーを掲げようとする。
いまここで打ち下ろされたら罠が潰される!
「バリスタ! 撃て!」
刀夜の背後、森の中に隠されていた大型のバリスタから鋼鉄の矢が放たれる。
矢が巨人の胸に当たり弾かれると巨人は体制を崩して一歩下がった。ハンマーは打ち下ろせなかった。
体制を建て直して再び刀夜を睨むと再び迫り寄る。
一歩……二歩!
「今だ! やれ!!」
アンカーが外れると強力なバネにより二本の太いポールが地面から飛び出す。ポールは地面に隠されていたネットを引っ張って持ち上げた。巨人の身長と同じ高さのネットだ。
ポールは根本の軸により遠心力を働かせて巨人を包みこむような動作を行う。引っ張られたネットは落ち葉を撒き散らしながら巨人のほぼ真正面から覆うように展開された。
ネットと巨人がぶつかると刀夜の思惑通りネットは弾かれなかった。
あれだけ岩や矢を弾いていた絶対物理障壁がネットには作動しないのである。刀夜は文献で巨人の絶妙物理障壁は落とし穴や、ネット、ロープといった物には作動しないことを突き止めていた。
絶対物理障壁は巨人に直接ダメージを与えるようなものには反応し、そうでないものには反応しないのだと推測したのである。
刀夜と巨人が初めて出会ったときもそうだった。巨人は森の木を手で押し退けて現れたのだ。したがって絶対になにか条件があるはずだと思っていた。
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