第160話 巨人兵討伐隊出陣

 会議が終わり、会議に参加していた面々が事務所に入ってくる。


 事務所には幹部の机のが列をなして並べてあるが、団員が集まれる広場も設けてある。とは言え、数百名もいる全団員は無理なのだが情報を聞きたいと多くの団員が集まってきていた。


 足場が二段ほど高くなったいる式台に幹部と議員達が並らんだ。当然かのように刀夜も隅っこに立つ。重い空気とざわめきに副団長が号令を入れた。


「刮目!!」


 全員が静まり返ると注目を浴びる。普段の訓練の成果により、動揺していても命令一発で彼らは切り替えれるあたり統率はしっかりと取れていた。


 団長が前に出て演台に立つ。


「先ほどギルド総会より、総会側で編成される巨人兵討伐隊への支援要請が入った。我々自警団はこの要請を……受諾した」


 討伐隊といってもカリウスと刀夜とリリアだけであるが、現時点でそれを知るのは極僅かだ。ほとんどの者は巨人との戦いを自警団が受諾したこと驚きを隠せなかった。


「静粛に、まだ話はある!」


 ざわつく団員に再び副団長が声を張り上げる。


 静かになったことで団長は続けた。


「我々自警団はこの街を守るために存在する。私は私の家族が大事だ、そして友人が大事だ、その大事な人達が住むこの街が大事だ、誰かに守ってくれと頼まれたからやっているのではない、私が私の大事なモノを自分自身で守りたいから、これまでやってきたのだ。そして今、隣街に巨人兵がせまりつつある。陥落するようなことがあれば次は我々の街となる。我々は遅かれ早かれ戦うことを迫られるだろう。その時に戦場がこの街で良いのか? 否、そうなる前に叩くべきなのだ。その為に調査団を派遣したではなかったのか? 何度も言う、言われたから戦うのではない! 守りたいものがあるから戦うのだと。今回、街の住人から討伐の志願者が現れた。議会はその者に街の未来を託した。我々は自警団だ。街の守護者なのだ。矜持きょうじを示すときである。よって我らも戦いに赴くことを決意した」


 やはり戦うのか、そんな重い空気が淀む。唖然として沈黙するなか幹部達が拍手をした。引き寄せられかのように団員達も拍手が起こる。だがその表情に生気は感じられない。


 最後に副団長が付け加えた。


「なお、本作戦はヤンタル自警団と共同で執り行われる予定である」


 ヤンタルにはまだ連絡はいっていないが、この後に早馬が飛ばされることになる。ヤンタル側では連日この問題に頭を悩ませていた。よってピエルバルグのこの共同作戦の申し出は即了承を得ることになる。


 自警団での仕事を終えた議員達と刀夜はその場を去っていこうとする。龍児は振り向きもしない刀夜を睨み付けていた。


 作戦の実行が決定すると自警団の動きは速かった。


 ヤンタルからは議員や自警団幹部と一部の団員がやってくる。そのため刀夜とカリウスは多忙を窮めた。特に刀夜の回りには常に人だかりができており、龍児達は近づくこともできない。


 カリウスの作業は作戦内容の説明である。説得という作業はほぼ終わっている。技術的なことはすべて刀夜に振った。


 刀夜の作業は使用する罠の作成と武器の作成、そして作戦を実施する為の場所選びと非常に多い。作戦内容や苦情関係はカリウスに振った。


 さらに刀夜は自宅でも罠の作成を行っている。主に晴樹が主体になってやってくれているので刀夜は助かっていた。製作の後半ともなれば晴樹、舞衣、梨沙も自警団に赴き共同で仕上げにかかる。


 そして作戦の要となるリリアはグレイトフル・ワンドにマナを連日詰め込んでいた。毎日注ぎこんでも一向に満タンにならず、底の知れないこのとてつもない杖に焦りを感じた。


 体に負担がかかるマナ集客強化アイテムを使うかと迷ったとき、それは刀夜に止められた。結局、杖を満タンにするのに10日かかったが彼女はやりきってみせた。


 12日間という日数でようやくすべての準備が完了した。ヤンタルからきた第1警団、そしてピエルバルグからは第1警団と第2警団の大所帯の編成がなされる。その中には龍児と由美、刀夜とリリアの姿がある。


 すでに噂となっていた巨人の話は自警団の動きで市民の知るところとなる。街中の人々からの期待と不安の視線を集めると、死地へと赴く彼らのために集まっていた。


 討伐部隊の先頭にはオルマー家の馬車にカリウスが搭乗している。その馬車にはエドとハンス、刀夜とリリアも乗り合わせていた。


 刀夜の作ったメガホンで豪華な馬車の上からカリウスが身を乗り出して命令を出す。


「ではこれより巨人兵迎撃に向けて一路ヤンタルへ向かう! 全軍前進!」



 およそ自警団と似合わない馬車のあとに両街の団長がついてゆく。その後を続々と各部隊が付いていく。


 自警団の旗を掲げた騎手、団員達、作戦に使用する大型、中型のカタパルト、数々の新兵器やトラップなどを積んだ荷馬車、最後は殿しんがりの団員がついてゆく。


 過去にもなかなか例をみない大がかりな進軍となった。街の人々からから自警団にエールが飛び交う。


 巨人兵に怯えることのない未来への願いを彼らに託した。

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