第158話 自警団騒然1

「カリウス・オルマーよ、続けてください」


 議長は喧嘩の相手がいなくなったのにカリウスに発言を求めた。それはカリウスが最後に漏らした話の続が重要ではないかと思ったからである。


「ハッ、ありがとうございます」


 カリウスは一度咳払いをして彼等を説得すべき言葉を選んだ。


「すでに議員の方々も知ってのとおり、山に出現した巨人兵はすでに樹海へと降りたっている。そのため近隣の街道は閉鎖され、噂はすでに街の人々に行き渡ってしまった。もはや巨人兵がヤンタルに表れるのは時間の問題なのだ。ヤンタルが落とされるようなことになれば次に狙われるのは我らの街である!」


 巨人兵が山を降りたことは皆知っていた。そしてもはや戒厳令も意味を意味をなさなくなっていることも。


 会場は静まりかえった。


「思い出して欲しい。近年プラプティの街が滅んだのを。我らの街があのようにならないと誰が言えましょう! なのに! 自警団は調査しただけで一向に動こうとしないのは何故か? 答えは簡単、彼らでは巨人兵を倒す術がないからである!!」


 自警団出身の議員にとってそれは痛い所を突かれることになった。多くの議員がカリウスの言葉に耳を傾け始めている。


「今、ここにその巨人兵を倒すプランがあるのだ! それも極めて有効な作戦だ。例え、その作戦に異人が関与していようが我々は受け入れる器量がある。かつてモンスターに追われてきた難民を我々の祖先が受け入れピエルバルグが発展したようにだ! この作戦が成功すれば今後我々は巨人に怯えることのない社会を手にすることができるのだ!」


 カリウスは興奮してきたのか思わず声に力が入った。語る言葉の一つ一つに魂が籠る。


 もはや質疑応答ではなく演説になっていた。刀夜はカリウスの様子をみていて、彼の器量を見誤っていたかも知れないと感じ始める。鷹の子は鷹だったと……


 議会から拍手が沸き起こる。


 デュカルドに対抗している議員も苦々しい顔でうつ向くしかなかった。難癖をつけるのはなんとでもなるが、その場合は刀夜の作戦以上のプランを提示しなくてはならない。


 そんなことができるのなら、今頃答弁に立っているのは彼らのはずであった。


 作戦が成功すればデュカルドはとてつもない功績を得ることになる。只でさえ強力な権力をもっているのに手がつけられなくなると彼らは懸念したまま議会は終了した。


◇◇◇◇◇


 一夜開けてピエルバルグ自警団は朝から騒然としていた。ギルド総会議長を初め、オルマー親子、デュカルドの側近の議員が二人、そして刀夜が自警団の会議室に入った。


「な、なんでヤツがここにいるんだ!?」


 龍児は驚いていた。この街のトップとも言える連中と肩を並べて堂々と自警団本部に乗り込んできたのだ。


 多くの団員のいる事務所を通り過ぎるとき龍児と刀夜は目があった。龍児は嫌なものを見てしまったと睨みを利かせたが、刀夜は見ないふりをして無視した。


 気にも止める必要がない。


 そんな態度に龍児はムカついた。


「なんなんだよ一体!?」


 龍児がブリブリと文句を垂れていると、颯太、葵、由美が集まってくる。


「彼がくるなんて聞いていた?」


 不思議におもった由美は葵に訪ねた。葵なら美紀経由で情報を持っているかと思ったからだ。


「あたし、何も聞いていないよ」


 刀夜は龍児達に情報を漏らさないよう美紀達に釘を刺していた。彼女達の口を塞いだのには理由がある。只の龍児への嫌がらせだ。


 彼が驚き慌てる姿を拝んでやろうという、実に下らない理由である。だが現に龍児は目を白黒させており、刀夜は彼の前を通り過ぎるとき笑いを堪えるので精一杯であった。


 異世界組がわけが分からないと頭をひねっていることに見かねたレイラが声をかけた


「お前達、何も聞かされていないのか?」


「あぁ、聞いてないぜ……」


 仮にも同じ異世界の仲間だというのに、なぜ情報の共有ができていないのか。レイラはまた喧嘩でもしているのかと疑う。


「昨日、議会で巨人兵討伐が決まったのだ。今日来たのは恐らく出動要請だろう」


 昨日の会議の結果は自警団の幹部クラスには知れ渡っていた。


 龍児達は青ざめる。あの巨人と戦うなど正気の沙汰ではない。なまじ龍児達は遭遇しているだけに、巨人の力を知っている。アレを倒せるイメージが全く沸かなかった。


 腹が立つのはそんな作戦を立てるバカは一人しか知らず、そいつはさっき堂々と自分の目の前を無視して過ぎていった。


「あのぉ糞野郎ぉ……やりやがったな!」


 自警団には颯太も由美も葵もいるのを刀夜は知っているはずなのだ。巨人と戦う場合、外での戦いとなるので現場に出るのは龍児と由美となる。自分はいい、だがクラスメイトの由美を危機に晒すのかと刀夜に対して龍児は怒りに震えた。


「さっきの男、例の男か? 確かライバルの……」


「ライバルなんかじゃねぇ、あいつは敵だッ!!」


 龍児の怒りはおさまらない。


「以前、自警団をメチャメチャにされるとお前は言っていたな……まさか本当になるとは……」


 レイラは以前に龍児と初めてあったときに刀夜の存在を知った。見去らぬ世界で見事な作戦で仲間を助け、それどころかそのアーグを殲滅に追いやった男。それほどの人材なら人手不足の自警団に欲しいと。


 だがその判断は誤りであった。あの巨人を討伐するなどと言い出すとは思いもよらなかった。


 御し得る。その思いは明らかに見込み違いであった。これほど危険な男だったとは……レイラは嫌な予感に見舞われた。


「だからいっただろ? アレが絡むと、ろくなことが起こらないんだよ!」


 龍児は怒りながら地団駄をふんだ。そんな龍児を異世界組が宥める。

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