第157話 ギルド総会

 作戦の決行が決まれば後は早い。


 デュカルドはギルド総会の上議員だけのことはあり、いきなり次の日に緊急総会が開くように手筈を整えた。


 作戦の総指揮者は無論カリウス・オルマーである。刀夜は作戦参謀兼実行部隊の指揮をとる。


 そのためカリウスに作戦内容を今日中に叩き込む必要にせまられ、まる1日を要した。家に帰ってからも皆に説明という名の説得行う必要があり、その日は疲弊した。


 そして次の日、エドの迎えで刀夜が向かうはギルド総会だ。この日はリリアを置いて刀夜一人で向かう。


 議員たちを説得する役はカリウスである。刀夜はあくまで顔見せと不測の質問に対応する予定でしかない。


 議会の会場に入る扉の前でカリウスは階段に足をかけたり下ろしたり、何度もタイを直したりと緊張感で一杯であることを露にしていた。多くの議員はカリウスのことは親のすねかじりのボンボンという認識である。


 今日、この日、そのイメージをどれだけ祓えるか、そして辣腕らつわんの主だと扶植ふしょくできるかが鍵だ。刀夜はある程度の戦略を教えはしたが、こればかりは本人しだいである。


 議会内ではデュカルドが緊急に議会を開いた説明を行っていた。そして少しでも息子を有利になるようお膳立てをしていてる。


 そしていよいよ会場の扉が開かれた。


 階段を登り、会場の灯りと議員の視線を浴びるとカリウスの頭は白くなった。


 会場に飲まれて心拍数があがる。そんな様子を刀夜は真後ろでみている。


「大丈夫だ。やつらの視線を見るな。自分だけを見つめて彼らは野菜だとでも思え。野心を思い出すんだ!」


 後ろからこっそりアドバイスする。


『野心……そうだ私には野心がある。そのためにはもっと前へ! 前へ行かなくては!!』


 カリウスは心を奮い立たせる。


「あぁ、大丈夫である」


 彼は答弁台へと足を運んだ。刀夜が彼の側にいられるのはここまでだ。刀夜は離れた席に腰を下ろした。


 議会の部屋は日本の国会中継で見るような部屋とうり二つであった。違いといえば明かりを取り込むために窓が多いことだ。記者の傍聴席もない。


 カリウスの立つ答弁台の後ろは一段高くなって議事録を取る書記、さらに高くなって議長、左右には上議員の席が答弁台を囲むようになっている。


 答弁台の前は扇状に長机が段々に並んでいおり、多くの議員達が座って視線を向けていた。


 デュカルドは議長のすぐ横に座っていた。親子の視線が合ったがここは立場を留意しなくてはならない。カリウスは議長に会釈し、答弁台の前に立った。


 会場が静まり返る。資料の複製は間に合わないのですべて口頭で説明をする必要があるが、そこは刀夜に仕込まれた。


 カリウスの作戦の説明が始まった。時折ヤジが飛ぶが無視して喋り続けるよう刀夜から指示されている。彼は説明に集中力をすべて注ぎ込んだ。そのお陰かヤジは耳にはいっても脳が言語として受け取らない。


 ヤジを飛ばしている輩はデュカルドの対抗している派閥の議員達である。ヤジはエスカレートしてもはや作戦とは関係がなく聴くに耐えない内容になってきている。


 デュカルドはここが正念場だと言わんばかりに息子の作戦説明をする姿を見守っていた。


 説明が終わると一部から拍手が上がった。デュカルドの派閥の議員達だ。カリウスの説明は練習どおりうまくできていた。


 問題はこれからである。アドリブが要求される質疑応答の時間だ。


「カリウス殿、本作戦における自警団の被害はいかほど見ておられるのか?」


「被害は20から30名ほどと想定しております」


 被害が大きいとヤジがとぶ。


 その後も作戦についての問答が執り行われた。だが突然呼び出された彼らは作戦内容を精査する時間もなかったため作戦の穴をすぐには見いだせない。すると話は作戦とは関係のない方向へと脱線し始める。


「カリウス殿、本作戦はあなたが考えたものなのか?」


「いや、本作戦の立案はそこにいる彼との共同作業である。彼は本作戦において作戦参謀兼実行部隊の指揮を取る。名を刀夜という」


 共同作業は嘘ではない。こうして議員の説得も作戦の内であり、現場で自警団の指揮を取るのもカリウスの仕事なのである。


 刀夜は実行部隊の指揮を取らねばならず、不足の事態が発生した場合はカリウスが判断しなければならない。そのため、昨日はカリウスの意見を取り入れて若干の修正が施されている。


 刀夜は起立して議員達に深くお辞儀をした。


 ようやくなぜここに異人がいるのか議員達は理解した。カリウスと一緒に入ってきた場違いな男をずっと不振に思っていた。


「い、異人ではないか!!」


 差別主義の議員が大声でヤジを飛ばす。


 そのことにカリウスの頭に血が昇る。その男を指差し恫喝した。


「異人だからなんだというのだ!」


「異人が立てた作戦など誰が従うのかッ!」


「問題なのは人種ではない! 作戦の堅実性だ!」


 奴隷を買うような男が自分を棚上げしてよくいう。そう思う刀夜は脱力感に襲われながらも冷ややかな目で成り行きをみていた。


「いくら堅実でも異人などに顎で扱われて自警団が素直に指示に従うものか!」


「すでに事態は深刻化しているのだぞ!」


 もはや進行を無視して二人は争いを始めた。これにはさすがに議長がガベルを手にして机を叩いた。


「静粛に! ハベル議員、貴殿の差別的発言はギルド総会憲章32条に違反している。ルールに従い退場を命じます」


 街の運用上、人種差別はしてはならないと条例で決まっている。しかしながら実際には守れておらず差別は根深く残っている。奴隷制度や色街などはその最たる例である。したがって自警団は存在しないものとして知らない、見ない、聞かないを貫き通さなくてはならなかった。


 ハベル議員は特に文句もいわずさっさと出てゆく。彼の人種差別の常習犯なのだ。だが彼の意見は現実な問題の的を射ているのである。

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