第156話 巨人兵討伐計画書
デュカルドに進められて刀夜とリリアは席につく。メイドからお茶を出されるが刀夜は早速本題に入った。
デュカルドの前に刀夜は二冊の厚みのある本を、そして少し離して薄い本を複数置いた。
「こちらが今回の巨人兵討伐計画書と必要機材の設計図になります」
「ほう……随分多いな」
デュカルドは目の前に置かれた書物を眺めるだけで開こうとはしない。
「急に呼ばれましたので今回は原本を持ってきております。ですので後で返却をお願いします」
「それは分かった。で、計画の進み具合はどうなのか?」
デュカルドにしてみれば息子が議員になれるのか、なれないかが重要であり、そのための計画の進捗と成功率が分かれば良かった。方法や手段の詳細などどうでもよかったのだ。
「はい。カリウス様にご提案させて頂きました二つののうち、その一つがこの計画書で、こちらの計画書はすでに完成しております」
「……ほう」
デュカルドはすでにできていることに気を良くした。だがカリウスは慌てて刀夜に確認する。
「ま、まて。この計画書はどっちのプランなのだ?」
カリウスにとって議員になれるとして、その手段は重要であった。できるかぎり自警団の手を借りないほうが望ましい。そのほうが功績を独り占めできるからである。
「どうなのだ?」
息子の質問に便乗してデュカルドが聞いてくる。
「カリウス様に用意した計画のうち準備に自警団を使うのはどちらの方法も共通になり、その計画書がこちらになります」
刀夜はデュカルドの前に置いた二冊のうち、表の計画書を示した。どちらのプランでも準備と巨人を引き寄せるまでは共通となるので計画書は別々にしておいたのだ。
「二つのプランで異なるのは戦闘時に自警団を使用するか否かとなりますが、今回は提出させて頂いた計画書は自警団を使うプランになります」
カリウスはその言葉を聞いて肩を落とした。
「自警団を使わないプランは無理なのか?」
「はい。現状では計画実行に必要な材料がこの大陸にはありません。四方八方、ビスクビエンツまで探したのですが残念ながら。現在隣の大陸にまで取りに行っている所です」
ボナミザ商会経由で探してもらったが結局ビスクビエンツにはなかったのである。ただ、昔は微量ながら売っていたこともあったそうなので、隣の大陸の街に調査をしてもらっていた。それもなければ取りにいってもらうよう依頼しなければならなかった。
「それはいつまでかかるのか?」
「目算ですが少なくとも20日以上はかかるでしょう」
「そんなに待っておれん!!」
カリウスが激しく声を上げた。確かにあの山にいつまでも巨人がいるとは限らない。だからといってそこまで声をあげる必要はあるのかと刀夜は疑問に思った。
刀夜がどうにも分からないといった顔をしていると、それまで黙って話を聞いていたデュカルドが説明した。
「これは極秘情報だが、再び巨人兵が目撃されたのだ」
「……ほう」
刀夜はそれは好都合ではないかと思った。なにしろヤツはまだあの山にいてくれたのだ。
『作戦を実行したら巨人はいませんでした』
これが一番やってはならないことなのだから。だがデュカルドの表情は険しい。
「ヤツが発見されたのは山のふもとに広がる樹海なのだ」
カリウスが付け加えた。その内容に刀夜はようやく事態の深刻さを理解した。背筋にたらりと冷や汗が流れる。
もし近くの街道で巨人に見つかり、街に逃げ込もうなどしたら大変なことになる。特にプルシ村は一番近いだけあって非常に危うい。
「すでに街道は閉鎖された。適当な理由をつけてはいるが街の人々に知れ渡るのは時間の問題なのだ!」
カリウスはさらに力説する。だがそんなに怒鳴らなくても刀夜はもう理解している。
「であれば、このプランをすぐに実行すべきです」
カリウスにしても刀夜にとっても作戦の失敗は許されない。失敗すればカリウスの議員入りは永久に失われ、刀夜は命を失う。
カリウスの野心が試される。彼の中で賭けに出るか否か葛藤が激しく起こっていた。胸が苦しいのか胸元の服を握りしめて苦渋の表示で必死に選択を選ぼうとしている。
「成功率はどのくらいなのだ?」
苦しむ息子に代わりにデュカルドが聞いた。
「作戦の失敗はすなわち私の死でもある。作戦は必ず成功させる」
刀夜は力強く答えてみせた。リリアは内に沸き起こる不安をオルマー親子に悟れまいと表情を押し殺して耐えた。
「……やる……」
カリウスがボソリと呟いた。
「父上、私はやります。この作戦を実行する!!」
「うむ。成り上がる為には時として人生を賭けが必要だ……ワシも若いときもあったものだ。よかろう。カリウスよお前の運命はワシが見届けよう」
「父上……」
カリウスは感激していた。そして必ず成り上がってみせると決意した。
刀夜はそんな親子を見ていて胸がチクリとした。父親は息子の為に、息子は父親に近づき越えようと、それは刀夜にとって理想の親子のように見えた。
「親なんて……」か細い声で刀夜はつい口にしてしまう。オルマー親子には聞こえなかったがリリアは聞き漏らさない。
刀夜の両親との間になにかあったのだろうかと不安を募らせた。
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