第154話 自警団への配属
ピエルバルグ自警団本部の裏には訓練広場がある。
広場には運動トラック以外にも訓練用の障害物、民家、屋敷、兵器倉庫、剣や弓の訓練用標的など様々なものが用意されている。
そんな広場において式が行われていた。
運動トラックに500名ほどの自警団団員が集まって、整然と並ぶ彼らの一歩前に龍児達、新入団員が並んでいた。今日は彼らの団員候補生進級と配属先の辞令交付式である。
ギルド総会の議員の長い話が済むと団長の長い訓示が始まる。その間、微動だにすることは許されない。
自警団の団長はジョン・バーラット。背中まで伸びた金髪の髪をリボンで首の後ろでくくっている。齢はすでに還暦を越えて62。苦労を重ねたのかシワが多い。
規律を遵守するタイプではあるが頭は柔軟であり龍児達のような異人が入団できたのは彼の方針によるものだ。
だが、彼の話は長い……
『入るところを間違えた』
そう後悔し始めたころにようやく辞令交付である。
「龍児佐藤前へ」
式進行を担っているのは副団長のグレイス・バース。頭の左上に火傷の跡があり、そのためかスキンヘッドにしている。
団長が小柄なため二人並ぶと大柄な体格に見えるが龍児に比べれば普通の男だ。横にボテリと成長してしまったため無駄な貫禄がある。
彼の野太い大きな声で龍児が呼ばれた。
「ハッ!」
龍児は駆け足で式台前までくると敬礼をする。
団長の敬礼が済むと手を下ろす。
そして式台の階段を登る。
「龍児佐藤、貴殿を訓練過程を終了したものとして団員候補生を命じる。また第1警団への配属を任命する。以降自警団の一員として戒律を守り、恥じぬ行動を行うこと。団長、ジョン・バーラット」
龍児は団長より辞令を受けとると互いに敬礼を行い元の場所へと戻った。
「由美姫反前へ」
「ハッ!」
粛々と式が行われた。
龍児の配属は団長の読み上げたとおり第1警団だ。散々世話になったアラドやレイラの所属している部隊である。
由美の配属は第2警団だ。第1、第2警団は主に街の外での活動がメインとなる。街道周辺に現れるモンスターの討伐、同じく外での犯罪の取り締まり。
場合によっては村の防衛、他の街の自警団と行う合同作戦など多岐に渡り、長期遠征などもある。その特殊性により他部署からの臨時要員も多く含む。
地理調査委員会や魔術師がそうである。そのため人員は最大200名近くなる場合もある。最も今は人手不足により150名ほどが最大だ。
葵は第3警団、颯太は第4警団と見事に全員バラバラとなった。
第3、第4警団は街中の治安維持が主な仕事となる。外部からの臨時要因は魔法がらみの事件で魔術ギルドの強力を得る以外は自分達独自にやっている。
また戦闘においては建物内などが多くなるので弓矢や長物の武器は扱うことができない。ゆえに弓が苦手な二人には適していた。だがこの部署は戦闘力よりも捜査能力が重要なのでその点に関しては二人はこれからと言えよう。
人数は約120名ほどで構成されている。
これで晴れて自警団団員となったわけだが龍児達異世界組の四人には大きな問題が残されていた。
文字の読み書きができないのである。つまり書類関係の仕事ができない。彼らは実務を行いながら学校に通うことになった。
「うう、まさか異世界に来てまで学校に通う羽目になるとは……」
颯太が嘆いた。
「まぁ仕方あるまいよ。覚えないと追い出されかねんからな」
龍児も渋い顔で複雑な心境だった。こちらの文字はやたらと角ばった形をしており、覚えにくいというよりは書きにくいといったほうがしっくりする。
「そうそう、あたしたち頑張らないと。刀夜組なんてみんなもう文字覚えたそうよ」
「な、なんだと。あいつらいつの間に……クソッ!」
相変わらず刀夜に対して対抗心剥き出しで悔しがる。とはいえ葵もその気持ちはわかる。葵も美紀にドヤ顔で自慢されたときはムカついた。
「差がつくのは仕方がないわ。私たちは訓練で忙しかったし。向こうはリリアちゃんもいるし」
勉学優秀な由美でさえも、あの忙しい訓練のために語学はほとんど勉強できていなかった。
「つか刀夜組って何だよ……ヤツは組長か親分かよ!」
颯太はジト目で冷ややかに突っ込みを入れる。あくまでも異世界組のリーダーは舞衣である。だが刀夜の行動力は目立つうえ、舞衣は大人しくしていたので仕方ない。
「あたしたちも何とか組とかで呼ぶ?」
「なら、颯太様と愉快な仲間たち!」
文句をいっていた割には颯太はノリノリで話に参加してくる。
「それのどこに組がついているのよ。しかも愉快なのはアンタだけだし!」
「お笑い芸人みたいになるから却下」
「そんなのどうでもいいだろ……」
龍児は呆れる。
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