第153話 女将の目論見
刀夜の古代金貨は43枚中、1枚は奴隷取引で使用し、1枚はボナミザ商会が取引に使用し、1枚は売れた。残りは40枚、代金を支払えば残りはたった8枚となる。
たった8枚でも古代金貨は法外な金額なのだが、この8枚は金にならないのだ。刀夜はその事を理解している。
なぜならボナミザ商会が古代金貨を手にした段階で彼らは先に自分たちの金貨をオークションに出して金に替えるからだ。
刀夜の番が回ってくるのは何年後になるかわかったものではない。
「な、納得行かない。なぜだリリア!」
刀夜はリリアに理由を求めた。先程のリリアの悲し気な表情はこのことを指し示していたのだと思ったからであり、実際そのとおりであった。
しかしリリアもまさかこれ程の価格とは思いもよらなかった。刀夜からの怒りを感じると悲しくなってきた。
「も、申し訳ありません……」
謝る必要などない。だが彼女は謝った。リリアは泣きたい気分を抑えて説明をする。
「この杖はただの貯蔵系ではありません。複雑な機械術式が組み込まれています」
リリアの説明に
「まず先端にある魔石は恐らく魔術の自動選別詠唱が施されていると思います」
「それだけじゃないわ魔力の出力コントロールも可能よ」
「そして回りの5つの魔石は呪文を組み込めるようになっています。つまりこの杖は準備しておけば5つの魔法を詠唱なしで使えるということです」
「加えて言うと貯蔵力も桁外れよ」
そこまで説明されれば確かに他の商品などとは一際違うものなのだろうと刀夜は理解した。だが価格に納得いかなかった。
いくら何でも金貨41600枚は法外である。恐らく街の年間予算を越えているのではないかと思える代物だ。
『そんなもの誰も買えるわけない!』
刀夜がそう思ったとき、なぜこれほどの高性能な商品が売れ残っていたのかようやく分かった。
高すぎて誰も買えないのだ。それを理解したとき刀夜の頭は冷静さを取り戻した。
「リリア……すまない怒鳴ったりして……」
「い、いえ……」
刀夜はリリアに当たったのを恥じた。リリアはリリアで刀夜の気持ちもわからないでもあった。あまりにも法外な値段だ。
「この杖はね……あたしの知り合いの同業者が順調に営業を伸ばしてうちの利益を越えたときに一気に突き放そうと無理な借金で購入したのよ……」
女将がしみじみとこの杖に
「ばかな、こんなもの売れるわけがない!」
刀夜は呆れた。そもそも魔法の杖を欲しがるのは魔法使いしかいないのだ。
商人ですら
「そうね。バカな男だったわ。浮かれて何も見えなくなっていたのね。結局借金を返せずに破産したわ。残った借金も含めてすべてを私が引き受けることにしたのよ。そしてすべてが終わったとき、その男は責任をとって自殺したわ……」
刀夜とリリアは女将の話を黙って聞いていた。
その男とは若かりし
元旦那が無茶をしたのは元女房を見返したかったのである。そして威厳を取り戻したかった。だがそれは叶うことはなかった。
「だからといって、この杖の価格をつり上げてるわけじゃないわよ。価格は正当よ。それだけの価値はあるわ」
確かに彼女は嘘はついていない。その杖の価格はほぼ当時その値段であった。ただし今とは金貨のレートは若干異なる。
彼女は刀夜を試したかった。自分が見据えた男が果たしてどれほどのものなのか見たかったのである。
彼が古代金貨というアドバンテージを失ったとき、どうもがいてどう切り返してくるのかそのドラマを見たかった。
刀夜の古代金貨をもぎ取るチャンスを伺っていたのだ。対巨人戦を前に酷かとも思ったが、次のチャンスはそうそうやってこないだろう。
そんな彼女の思惑など知るよしもない刀夜は悩んでいた。杖を買うかどうかではない。杖は買うと決めている。
巨人との戦いにこの杖は必要不可欠だ。刀夜は巨人を討伐した後のことを考えていた。
「よし、杖は買う。それからこの魔導グローブと指輪もだ」
「と、刀夜様!」
リリアが驚きの声をあげる。彼女は刀夜がいくらもっているのか知らないからだ。
「リリア、他に必要なのはものがあれは何でもいい、片っ端から選べ!」
「ええッ!?」
「いいから金は気にせずに選ぶんだ」
刀夜の意図はわからなかったがリリアは、とりあえず言われるがまま、強力そうなアイテムを選んだ。そして刀夜はリリアが選んだアイテムを勘定しながら購入するものを選んだ。
「これらを買う」
「なるぼど……合計、金貨42902枚……」
だがこのように切り返されてしまっては致し方がない。彼女は次の機会を伺える日がくることに期待した。
これで刀夜の残りの古代金貨は6枚となった。お釣の1298枚の金貨はそのままボナミザ商会に預け、魔術アイテムは持って帰ることにする。
これによってリリアの魔法の件はなんとか問題の解決に至った。
ただ杖の魔力をフルチャージするのにリリアの見立てでは7日であったが実際にやってみると10日もかかることになる。
刀夜の感覚ではわからないことであるが、リリアはこの杖の威力に驚くばかりであった。
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