第151話 マジックアイテム
魔術ギルドには魔法アイテムの売り場がある。館長に代わってナタリーに連れられて購買所にやってきた。一階の受付のあるエントランスの裏に店は存在する。
館長の部屋からこちら、ナタリーのマシンガントークは止まることがない。
「こちらが当ギルド唯一の魔術道具購買部です。初々しい学生さんからベテランまで老若男女問わず愛され続けて創業数百年の老舗です。そもそもこの店の創業者は――」
刀夜はナタリーの話を無視して店に入る。どうせどうでもよい話しかしないのだから。
「ちょっとちょっと!」
無視されたナタリーは膨れながらも刀夜を追いかけて店に入った。
店内はあまり大きくはない。いや店としてはかなり小さいほうだ。クラシックな雰囲気の店だが魔法アイテムと思われる商品が山積みとなっている。
「なんかここ映画で見たことある……」
刀夜がボソリと呟いた。
不遇な少年が魔法学校に通う前に立ち寄った店に似ている。
天井は高く窓は小さい。壁はすべて商品陳列棚となっており、床にも大量に商品が平積みされていた。本当にこれが高額商品の取り扱いなのかと疑いたくなる。
刀夜は棚に所狭しと積み上げられている細長い紙箱を手にした。映画で見覚えのある箱だ。
「それは初心者向けの魔術ステッキですね。私も昔は使ってました」
刀夜は値段を見る。
「金貨12枚?」
「いえ、銅貨です」
「…………」
刀夜は商品を戻し、今度は透けた布を手にした。
「それはマジックストールですね。マナの集客力を上げる効果があります」
刀夜は値段を見る。
「金貨34枚?」
「いえ、銅貨です」
「…………」
刀夜は再び商品を戻し、今度はいかにも魔法使いらしいとんがり帽子を手にする。
「それはマジックハットですね。効果はストールと同じです」
刀夜は値段を見る。
「金貨……」
「銅貨です」
これのどこが高額商品なのかと商品を床に叩きつけたくなる衝動にかられた。刀夜は不穏な予感がした。だが考えられる結論は1つしかない。
「リリア……ここにある商品はもしかして……」
「はい、大半が初級者向けですね」
「俺たちが必要としているようなものは……」
「ありません」
「…………」
刀夜はやはりそうなのかと肩を落とす。恐らくこちらが求めていいるようなアイテムは表には出回らないのだろう。業者間もしくは裏ルートでの流通に違いないと刀夜は読んだ。
「ここにある商品の大半はうちのギルドの魔術師達が作ったものですよ。作る際に使用している素材は古代文明の代物とは雲泥の差がありますから。そもそも古代文明のアイテムとは制作の段階で使用する魔術も魔力も桁違いなわけでして――」
ナタリーは頼まれもしないのに聞きかじった知識を得意気に語りだした。
「つまるところ強力なものは古代文明の魔法アイテムで次点で賢者が作ったものか」
「そうなります」
刀夜とリリアはナタリーを無視して話を進める。
「となればそんな商品を扱うところは一つしかない。いくぞリリア」
「はい」
向かうはボナミザ商会だ。
店の規模、多くの古代文明の商品をあつかい、幅広い豊富な顧客を有している店はボナミザ商会しか知らない。刀夜とリリアは店を後にした。
店の中ではナタリーがまだ一人で得意気に喋っていた。
◇◇◇◇◇
表のメインストリートから裏に入る。大きな広場に出ればそこはボナミザ商会だ。表の入り口は武骨な男たちが寄集まっているので刀夜は彼らに会釈してから中に入る。
もはや彼らとは顔見知りとなってしまった。彼らも刀夜を
ホールに入るとなにも言わずとも店員の男が刀夜を談話室に通す。お茶が出されて暫くすると
「あらぁ、またきてくれたのぉ~嬉しいわね」
「また商品を探しにきた」
「あんたたち、いつも二人べったりね。見せびらかせてるの?」
「俺たちはそんな間柄じゃない……」
「そんなこと分かってるわよ、ペットとして見せびらかせてるかと言ってるのよ」
「…………」
リリアをペット呼ばわりされて刀夜は機嫌を損ねた。文句をつまらせた口が開くと同時に
「冗談よ。只の
文句を言い損なった刀夜は一度飲み込んだ。絶妙なタイミングにわざとやっているかと苛立つ。
正直もう少し言葉を選んで欲しいものだ。冗談もホドホドにしてもらわないと友好関係にヒビが入りかねない。
「で、それはさておき。何を探しているのかしら?」
「……魔法アイテムだ」
刀夜はふて腐れたようにいい放った。
「うちで探すということは古代文明のものを所望していると思ってもいいのかしら?」
「そうだ」
「まだ買い手がつかない残った商品ぐらいしかないけど……高いわよ」
女将は脅してくる。だが多少高くても古代金貨がある。大概のものは買えると刀夜はたかをくくった。
「そう聞いている」
「本来はオークションに回してそこで買ってもらうのが筋なんだどその手順を無視するのよ……そのリスクに見合う金額でないと売れないわよ」
「支払いは古代金貨でいいか?」
「ええ、いいわよ。ただし取引レートは1000よ」
「!」
行きなりレートを決めつけられたことに刀夜は再び腹が立ちそうであった。確かビスクビエンツで売れたときは2600だったはず、それは運が良かったともいえるが1000はいくらなんでも安すぎる。
「それはいくらなんでも安すぎないか?」
「あら、平均相場をちょっと下回った程度よ?」
実に疑わしい内容だ。刀夜が古代金貨の平均相場など知り得るはずがないと見透かされているような気がしてならなかった。
「ヤンタルの街の命運がかかっているんだ。あなただって支店は失いたくはないだろう?」
「あら、なかなか痛いところ突いてくるじゃない。そうねぇ、じゃあ平均相場で1200でいいわ」
だから平均相場など知らないというのに。刀夜はだんだんと腹が立ってきた。とはいえ
「せめて2000位にならないか?」
「あら、ずいぶんと無茶をいうようになったわねぇ~。そんな金額で取引できるわけないじゃない」
「で、では1700でどうか」
「話にならないわ。この先、古代金貨を流せば流すほど相場はどんどん落ちるのよ。そんなリスキーな値段で取引できるわけないじゃない」
論理的で説得力のある言葉だ。刀夜は必死に交渉したが相手が悪すぎた。相手は100戦練磨の交渉の手慣れである。この分野では刀夜に勝ち目はない。
「いいわ、特別に1300でやってあげるわ」
「ありがとう……それで頼む……」
交渉をするにしても、刀夜には不利な材料が多すぎた。女将との後の関係を考えればしつこくやるのは良くない。彼女との交渉を決めるには少ない回数で折り合える金額と理由が必要だったのだ。
だがヤンタルは切り札にはなり得ず、次を用意出かなかった刀夜の負けである。
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