第150話 館長の助言

 次の日、刀夜はリリアと共に魔術ギルドにきた。相変わらずのローマ神殿のような外形と木造の内装とのギャップに製作者をセンスを疑いたくなる。


 入り口の受付嬢に館長への面会を求めると彼女は刀夜達を案内しようとする。見た目は20代ほどでナタリーとは異なり落ち着いていて白黒の事務服を綺麗に着こなし、見た目そして仕事人の安定感がある。


 刀夜は勝手知ったるなんとやらで案内を丁重にお断りして館長の部屋へと向かう。大きな扉を叩き、館長の返事と同時に中へと入った。


「あら今日はあなたも来たの?」


 館長は刀夜を見て手にしていた書類を机に置いてメガネを外した。大きな机の上には十数枚ほどの書類が置かれて彼女の決裁を待ち構えている。


 刀夜は忙しいときに来てしまったかと恐縮するものの、昨日の出来事に謝らなくてはならなかった。


「ええ、色々と問題が生じたと聞きまして」


「そうね、まさかたった1日であの魔法使うとは思ってもいなかったから忠告するのを忘れていましたわ。正直彼女の才能は驚異的ね」


 怒っている様子もなく彼女はリリアの才能を誉めてくれた。その点については刀夜も同意見だった。昨日の話でリリアの才能は驚異的であると初めて認識した。


 そしてリリアを誉められることがなぜか自分が誉められたかのうような気持ちが沸いた。それは刀夜にとって経験したことのない感情だった。


「申し訳ありませんでした。こちらも配慮が足りませんでした」


 刀夜は頭を下げるとリリアも頭を下げる。リリアの話では魔法の影響により一瞬ではあるが周辺で魔力の消失を引き起こし、大騒ぎになってしまっていた。


 古代魔法の力がこれ程とは思いもよらなかった。それは魔術書を読んでいたはずのリリアでさえ同じである。


「大丈夫よ直ぐに復旧させたから。魔術研究にトラブルはつきものだし慣れているわ」


 彼女は穏やかに許してくれた。そんな彼女に刀夜は今日きた目的のもう1つの話を進める。刀夜としてはこちらが本命の話だ。


「実は今日はちょっと相談がありまして……お時間をいただけないでしょうか?」


「あら何かしら? 少しなら構わないわよ」


 館長は二人を椅子に座るよう促すと、刀夜とリリアは椅子に座った。そして魔法の効果持続に関して彼女に相談した。


「なるほどね。確かにあの魔法ではそうなるわね」


 館長は図書館に貯蔵ちょぞうされている古代魔法の内容に関しては把握しているが賢者ほど詳しいわけではない。


 彼女と賢者が異なるのは賢者は古代文明を研究して現代用にまとめて翻訳し、実践検証している点である。ゆえに古代文明に関して精通していないと勤まらない。


 対して館長は書籍からどんな魔法なのか知っているだけであり古代魔法を使ったこともないという点が賢者と異なる。


「鍛え上げれば持続効果を伸ばせるものなのでしょうか?」


「それは無理ね」


 館長は即答した。


「3秒が5秒になったところで、それはあなたが望むものでは無いでしょう」


「はい」


「その娘のキャパシティはもう限界だと思うわ。いくらプラプティ出身だからといっても。人であるかぎり限度はあるもの」


 彼女の説明に刀夜はそれは当然かと思った。リリアも自分の才能がすでに限界まで上がっているとは考えもしていなかった。


 なぜなら賢者達はどうやって魔法の研究をするのかという問題に繋がるからだ。魔術の研究などトライアンドエラーの繰り返しなのだから、膨大なマナを必要とするはずである。


「方法はあるわよ」


 館長は落ち込む二人に先に回答を与えた。暗く淀んだ二人の心に光明こうみょうが差し込む。


「それは、どうすれば良いのですか?」


 リリアが珍しく刀夜より先に口を開いた。リリアとしてはこれ以上刀夜を失望させたくなかった。彼の役に立ちたかった。


「魔法アイテムよ」


「あ!」


 リリアはそれの存在を完全に失念していた。彼女は大抵のことは努力すればなんとかしてしまうため、魔法アイテムに頼ったことなどなかった。


 それは彼女のみならずプラプティ出身者の魔術師は大概そうである。だが魔法アイテムには別の問題がある。


「高いわよ」


 館長は意地悪そうな笑みを浮かべる。


「あの……お借りすることはできないのでしょうか」


 魔術ギルドには登録者に対して必要な場合には魔法アイテムを貸し出す制度がある。だがしかし……


「分かっているでしょう。当ギルドからの依頼でないかぎりは貸し出せないわ」


 当然の返事にリリアは落胆して肩を落とす。刀夜はそんなリリアを見て彼女の頭を撫でた。リリアはなぜ撫でられたのかと不思議な顔をする。


「館長、買うとしたらいくらだ?」


「と、刀夜様!」


 リリアはようやく頭を撫でられた理由がわかった。不甲斐ない自分に代わって何とかしようとしてくれているのだ。だが魔法アイテムの価格はとてつもなく高額である。


「それはご自分の目で確認したらどうかしら」


 彼女はそれ以上のことを話してくれそうにない。館長の意味深な言葉にしたがって刀夜は売り場に行ってみることにした。


 あまり長々と館長の時間を取るのは申し訳ない。彼女にお礼をいって部屋を後にする。

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