第147話 硫黄を探せ
しかし肝心の硫黄が手に入らない。この世界に硫黄が存在するのは書物で分かっている。
だがこの世界の人は硫黄が入手できるようなところにわざわざ行かない。そもそも硫黄の使い方を知らないのだから、そんな危険な所に取りにいくバカはいない。取ってきても一銭にもならないのだから。
しかし世の中にはそんなバカや金を積めばやってくれるバカはいる。刀夜はボナミザ商会へと赴く。
「あらぁ~久しぶりじゃなあぃ」
わざわざ女将が出迎えてくれた。刀夜は恐縮する。部屋に通されてお茶がだされた。
「カリウスの一件以来じゃない」
「いつぞやは世話になりました。とても助かったよ」
「別にいいわよ、ちゃんと金になったわけだし。そうそう古代金貨一枚売れたわ2600よ」
「たった一枚でその値段なのか!?」
「ええ、ビスクビエンツにはあまり出回ってないからね」
女将は良い値で売れたことにご満悦であった。古代金貨のオークションでこれ程の金額がついたのは久しぶりなのである。
運搬料金および護衛の料金、そのたモロモロの諸経費を差し引いてもボロ儲けである。
「ビスクビエンツ! ビスクビエンツにも支店があるのか?」
刀夜はこれはもしかしたらまた手に入るかと期待を寄せた。
「もちろんよ。ビスクビエンツはこの辺りの都市としては2番に大きい街。加えて隣大陸とも交易している街なのだからね。あそこは商売の街よ。作らない理由がないわ」
なんとも好都合。これならここからでもビスクビエンツの情報が得られる。最も、それなりの見帰りを用意しておく必要がある。
「実は探しているものがあるんだ」
女将は不機嫌な顔をした。以前に『もっと会話で楽しませなさい』といったばかりである。
「見返りとして面白い情報がある」
ふて腐りそうになった女将の目が輝く。
「ふふふ、そーゆーのはもっと先に言いなさいよ」
「その前に非常にデリケートな問題なので人払いを頼む」
女将は店員達を下がらせる。
「近日、ヤンタルの街で巨人兵が現れて自警団が動いたのは?」
「ええ、知っているわ。うちとしてはヤンタルの支店がどうなるのか気が気ではないわ。自警団はあれ以来動く気配はないし」
「自警団は動かないのではなく動けないんだ」
「どういうこと?」
「俺は最近巨人兵について情報を集めたが今の自警団にあれを倒す術はないだろう」
「……それは困るわね。被害が出る前に引き払ったほうが良いかもしれないわ」
楽しそうな話かと思えば、いきなり重い話である。女将の表情は再び険しくなる。支店1つ失えばとてつもない大損害である。
「ところが自警団の代わりに動こうとしているものがいる。議員候補のカリウス・オルマー氏だ」
女将の目が光る。あのボンボンにそんな器量があるわけがない。裏で動かしている奴がいると女将は
そして最近カリウスに近づいた男、奴の情報をアレコレ聞き倒した男。そいつは目の前にいる。
「ふふ、あんたね。あんたがそそのかしたのでしょう」
「……ご明察」
このぐらいは読まれるだろうと刀夜も思っていた。以前にオルマー家とコネクションを作りたいことを匂わせていたからだ。
「とんでもないことを餌にするのね。死ぬ気?」
「俺が勝算もなしにこんな無茶をするとでも?」
「あら、意地悪な言い方。あたしは貴方の心配をしてるのよ」
そう言いつつも女将は笑みをこぼした。刀夜のいうとおりこの男は勝算もなしに挑んだりしない。だがどこか
危うい雰囲気があるのだ。それを安定させるのは経験しかない。
「ありがとう。だが避けられない道なら利用しない手はない」
「なるほどねぇ、で相談に繋がるのかしら?」
「そうだ。奴と対峙するに当たって必要な素材を探している」
「それは何?」
「硫黄だ」
「……硫黄? 何それ」
刀夜は硫黄について説明をしたが、
「残念だけどうちでは扱っていないわ」
在庫という点では刀夜も初めから期待はしていない。ボナミザ商会が扱うような代物ではないからだ。
「やって欲しいのはビスクビエンツに硫黄がないか探して欲しい。もしない場合は隣の大陸から輸入、それでもない場合は採取を依頼したい」
「ちょっと、それはお金も時間もすごく掛かるわよ。それでもいいの?」
正直いうと刀夜はそんなに待てないのが現状である。巨人がいつまでもそこにいるとは限らないからだ。だが将来的にもあったほうが良いのは確かだ。
「どのくらいかかる?」
「そんなの専門外だから
「分かった。支払おう頼めるか?」
その後、カリウスとの一件の話をネタにお茶を頂いた。
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