第145話 対巨人兵器を作れ

 その日の夜に刀夜は家で待っていた皆に魔術書が見つかったことを伝えた。


「というわけでリリアは明日から魔術ギルドで魔術訓練に入るから家のことは再び皆に頼むことになる」


 魔術の訓練はリリア一人で行うことになる。刀夜が魔術に関してできることは特にないのだ。彼には巨人兵討伐に向けてやっておくべきことが多すぎるので、ずっと構っていられない。


「リリア。君自身のほうが分かっているとは思うがあまり無茶はするな。体を壊したら元も子もないからな」


「それは刀夜様のほうです。昨日も遅くまで作業されていたようですけど、あまり無茶はしないで下さい」


 リリアは刀夜がまた過労で倒れるのを懸念した。過労は魔法では治せない。またあのときのような辛い思いをしたくはなかった。


 だが皆は刀夜とリリアが何をやっているのかは分からない。計画そのものを知っているのは刀夜とリリアだけだ。


 仮に問いただしても彼は答えないことは晴樹がよく知っている。答えられるならとっくに伝えてくれているはずだと。


 晴樹の読みどおり、機密保持のため刀夜はその内容をいまだ教えることはできなかった。


「刀夜は次は何をするんだい? 手伝えることがあったらいっておくれよ」


「そうだよぉ、あたしたちも手伝うよ」


 晴樹や美紀が気を使かってくれた。彼らからすれば今回はやることがなくて手持ち無沙汰ということもある。


「ありがとう。じゃあ皆にも手伝ってもらおうか」


 そういって刀夜は鞄からノートを取り出した。計画のすべてを伝えるわけにはいかないが、部分的なら万が一漏れても問題ない。


 刀夜は彼らにもできる仕事を与えることにした。といっても作業内容としてはメインは晴樹になるであろう。


 ノートを広げて皆に見せる。皆が覗きこむと図面が描かれていて寸法が記されている。どうやら何かの機械設計図のようであった。


「これは?」


 晴樹は何かの機械の図面だとすぐに分かったが、何をするものなのか分からない。


「これはワイヤーを作る機械だ」


「ああ、なるほど」


 晴樹は即座に構造を理解した。このような機械の構造などは男子のほうが詳しいうえに理解が早い。この装置は細いワイヤーをねじり混んで一つのワイヤーにする装置である。


「するとこの回転ジョイント部分は交換可能で太さを変えれるようにするのか」


「そのとおりだ。だがそれだけじゃない」


 刀夜は次のページをめくってみた。


「こっちは金属を引き伸ばして針金を作ることができるジョイントだ」


「成るほど一台で複数の機能をもたせるのか。だけど刀夜、針金を作るところからだとかなり時間がかかるのじゃないか?」


 刀夜は晴樹の意見にそうだと頷く。


「ねぇ、針金はこっちには存在しないの?」


 彼女たちは買い物に出かけても食料や生活道具、衣類、装飾品ぐらいしか見ていない。工具や材料の店も見ていればそんな質問はなかっただろう。


 舞衣の意見に刀夜は答える。


「針金はこの世界でも存在する。ただしワイヤーにするには固くて太すぎる。こっちでは主にスプリングや留め金としての使われ方しかしていないようだ」


「つまり買ってきてさらに細くして束ねるわけね」


「そのとおりだが、正確には柔らかい針金を発注する」


 舞衣も頭の回転が速いので刀夜の趣旨を直ぐに理解してくれる。


「なので作ってもらいたいのは、この装置の型だ。それをバラバラにして各鍛冶屋に発注する。部品単位で発注するから、これが何の装置か分からないという寸法だ」


「へぇ~なるぼとねぇ」


 梨沙が感心する。


 刀夜はさらに次のページをめくった。


「これは何?」


「わかった! 鮫の背鰭せびれだ」


 美紀がボケているようで本気で答えた。形はそうだが絶対に違うだろと皆は内心突っ込みを入れる。


「これはフックだ。これも外部に発注するので型を作って欲しい」


「フックの割には変わった形だけど、これどうやって使うの?」


 一見でこれの使い道が分かれば大したものだ。


「分かった!!」


 刀夜は本当に分かったのかとドキリとする。しかも声をあげたのは美紀だ。


「兜の上に取り付けて近づいてきた敵に両手でこう! シュワ!」


「違う。断じて違う。どこにフックの要素があるんだ! しかも普通に投げナイフのほうが早いだろソレ」


 さすがに刀夜は突っ込みを入れた。


「使い道は宿題にしておく」


 美紀の相手が疲れてきた刀夜はため息をついた。そしてノートをさらに1ページめくる。


「もう1つ作ってもらいたいのはワイヤーを巻き取るドラムとその装置だ。基本的には木製だが回転ドラム部分は金属になる。こっちは元になるものが売られいたから、それを買って改造すればいい」


 皆は真剣な目付きで刀夜の図面を見つめている。


「どうだ、やれそうか?」


 正直かなりの作業量である。刀夜一人ではまず不可能だと晴樹は目算した。しかもそのノートにはさらに続きがあるようで、刀夜にはまだやるべきことがあるのだと晴樹は直感した。


「僕は大丈夫だよ。やれる」


「あたしも手伝うわ」


 晴樹に続いて梨沙が答えた。


「やるわ」


「あたしも、がんばるぅ!」


 舞衣も美紀もやる気を見せてくれた。


「ねぇ、これがうまくいったら皆でおいしいものでも食べにいきましよう」


 舞衣の提案で皆は一気にやる気をあげた。


 だが刀夜は作戦の内容を彼らに伝えずに巻き込むのは不本意であった。申し訳ないと思いつつも正直手が足りない。猫の手でも借りたいほどの状況なのである。彼らが理由も聞かず手伝ってくれることに刀夜は感謝していた。

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