第144話 刀夜の大事なもの
「しかし、先に借りてしまおうというのは少々強引ね。ちゃんと分かるように公開しなくては公平とは言えませんわね」
「それは分かっている。だだこちらもあまり時間をかけていられないんだ」
「確か、世界平和だとか……」
「それは大げさすぎるが、街の安全のためだ」
「…………」
館長はじっと刀夜の目を見た。彼女の指輪が怪しく光ると目の奥も淡く光る。リリアは彼女から魔力を感じた。
詠唱なしの魔法……魔法アイテムだ。止めに入るか悩んだが彼女の微笑みはどこか安らぎがある。そう感じるとリリアは止めるのを
「本当にそれだけ?」
「いや、俺達が元の世界に帰るのに必要なことでもある」
どうやら刀夜にかけられた魔法はチャームのようだとリリアは見抜いた。本来ならあのような質問、刀夜なら『そうだ』と答えるはずである。
危険な魔法ではないとリリアは胸を撫で下ろす。そして館長は刀夜をテストしているように思えた。
「元の世界とは?」
「俺達の住んでいた世界……帰る為の手がかりを探している」
「古代魔法とどのような関係が?」
「一般に出回っている魔法には俺達を呼び寄せるような魔法はない。可能性があるのは古代魔法ぐらいしか思いつかなかった」
館長は図書館を利用したい彼らの理由については大方理解した。だが刀夜の話によれば彼らはまるでこの世界の住人ではないような言い様だ。
彼女としては非常に興味がそそられる話ではある。だがそれはさておき重要なのは彼に古代魔法を授けるに値する人物かどうかである。
「貴方は人を殺したことがありますか?」
「ある」
リリアは驚く。刀夜はやや腹黒い所はあるがそこまですると思っていなかった。根は優しい人なのだと思い信じていた。そして館長の表情は険しくなった。
「どうして殺したの?」
それはリリアも知りたい。彼女は館長の魔法を止めさせるタイミングを失う。
「二人は多くの仲間を助けるための犠牲に……一人は俺のミスで……一人は自分の命を守るため仕方なく……一人はその巻き添えになった……」
「自分の私利私欲のためではなく?」
「私利私欲? 自分の命を守るが私利私欲ならそうだ」
「そのことに後悔はしていない?」
「……している」
館長の強ばった顔は再び優しい顔に戻った。
そして最後の質問をする。
「貴方にとって大事な人はいますか?」
「……爺さん……ハル……智恵美先生…………リリア」
「!?」
リリアはドキリとする。自分が刀夜にとって大事な人物として思われていたことに驚いた。色々と迷惑をかけていることで嫌われていないか心配だった。
特にこの間はとんでも無いことをしでかして、彼を困らせたばかりだ。
館長は指輪の魔法を解除した。
意識を取り戻した刀夜は自分が口走ってしまったことに驚き手を口に当てた。恐る恐るリリアの顔を伺うと彼女は赤面してリアクションに困っていた。
刀夜は自分でもリリアに対してどう思っているのか分からないところがある。だがチャームの魔法は彼の本心を引き出してしまった。
「俺に何をした!?」
刀夜は何かされたことに気がついた。でなければ喋るわけがない。
「ごめんなさい、貴方たちに資格があるか試させてもらったわ」
リリアは『やはり』と思った。館長はリリアの面接試験を影で見ていたのだ。したがってリリアについてはおおむね理解していたが刀夜には直接聞くしかなかった。
「こっちに来てちょうだい。貴方たちが探しているのはこっちよ」
館長に連れられてきたのは図書館から外れた重厚な扉の前だ。
館長はポケットから鍵をだして穴に挿す。だが鍵は回さず何やらボソボソと詠唱するとドアに魔方陣が現れ、ドアがゆっくりと開いた。
「強力な魔法錠です」
リリアは刀夜の耳元で説明をした。
部屋に入る瞬間、壁を見ると外見は木製に見えるがその内側は鋼鉄の壁だ。ドアも同様である。
部屋に灯りが灯される。
部屋のど真ん中に重厚な机と立派な椅子が置かれている。だがそれより目につくはのは壁一面の書棚である。まるでモーゼの海割りのように書籍が多く並べられていた。
どうやらナタリーの言っていた『書籍の数が分からないとい』とはコレのことなのだろう。
「ここは……」
「ここは古代魔法書物の保管場所。一般の図書館をいくら探しても古代魔法の書物は出てきません。ここの扉が開かれるのは数年ぶりね。自警団の方が利用されて以来になるかしら……」
館長は積み上げられている書棚を見上げた。
古代魔法には危険な魔法が多く存在する。そのため使用者の人格を確認して、習得者を特定しておく必要がある。
「どうして俺達に?」
「そうねぇ。巨人兵の悲劇を少しでも減らしたいからかしら。プラプティのような悲劇はもう見たくはないの」
「な、なぜそれを……」
ごくわずかのものしか知らない情報をなぜ知っているのかと刀夜は気になった。もし情報を漏らしている奴がいるのであれば早急に手を打たなければならない。
「自警団の調査の時に私が協力したからよ。あなたの話を聞いてピンときたわ」
つまり彼女は巨人の件について知っている数少ない人物の一人だったというわけであった。刀夜は面倒ごとにならずに済んで安心した。
「ここで得た魔法は私利私欲のために使わないと誓える?」
彼女はいままでとうって変わって厳しい目付きで睨んできた。
「わかった誓おう」
刀夜は即答すると遅れてリリアも誓った。
「この部屋を使用する際は私か、副館長にいうといいわ」
「わかりました。ありがとうございます。念のために確認しておきますがナタリーは入室禁止と理解してよろしいですね」
「ええ、そのとおりよ」
「わかりました」
ナタリーは金貨を1枚得ることができなくなってしまった。返事を済ませると館長が出てゆき、扉が閉まる。
「さて、じゃぁ早速探すとするか……」
探すといってもここの書籍だけでもかなりの数がある。一体何日かかるやらと考えるだけでも嫌気が沸き起こりそうであった。
しかしリリアはにこやかにしている。
「実はーもうすでに大体の場所が分かりました」
「な、なに!?」
刀夜は驚いた。偶然見つけたのだとしたら、また何か変な力が働いたのかと疑った。だがそうではない。
「ここの書籍は系統だてて、しっかり分類されています。だから探している魔法はおそらくあの辺りです」
リリアは刀夜の頭上の棚を指差した。
「そうなのか、だがすぐにソレに気がつくとは大したものだ。でかしたぞリリア」
リリアは刀夜に誉められて嬉く思う。思わず笑みが溢れて「えへへ」と声にまで出してしまった。
刀夜は脚立をおおよその場所に置いた。リリアが上るので刀夜が脚立の足を支える。一段二段とリリアは脚立を上り、一番上にまで到達すると聖堂院の制服の下からリリアの下着が見えそうであった。
刀夜は思わず想像してしまい、赤くなると喉を鳴らした。誘惑に負けて、少し姿勢をずらすと白く清純そうな下着が見えた。さらに顔が赤くなると目を反ららす。
『ふ、不純だ。こんなこと彼女に対して失礼だ……』
刀夜は赤面したままリリアの様子を見た。彼女は真剣に探している本かチェックしている。刀夜のことなど目には入っていない様子だった。
『でも男なら見たいと思っても……ふ、普通だよな……』
刀夜は再び姿勢をずらすと再び赤面した。
「あッ!」
刀夜はリリアの声に心臓が飛び出しそうになり、慌てて顔を反らした。
「ありました。ありましたよ刀夜様!」
リリアは脚立から降りてきて嬉しそうに本を刀夜に渡そうとうする。だが刀夜はそんな彼女を直視できない。そんな刀夜をリリアは不思議がる。
「どうかしたのですか?」
「あ、い、いや。な、なんでもない……本はリリアが読むのだから持っていなさい」
「はい……?」
不思議がるリリアをよそに刀夜は机と向かう。その後、その魔術書を読んで調べると目的の魔術書で間違い無いことを確認した。
後はリリアがこの魔術を習得すれば一つクリアだ。
刀夜は次のステップについて考え始めた。
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