第141話 巨人兵のスペック
巨人兵の資料がかき集められてリリアが朗読する。
歴史的背景からすれば巨人兵が現れたのは帝国時代末期なので約400年前となる。
それ以前には存在しておらず作ったのは世界を滅ぼしたと言われているボドルド・ハウマンだ。ボドルド・ハウマンの肖像画は残っていない。ゆえに本当に実在した人物なのかは不明だがどの書籍にもそうなっていた。
当時はこの巨人兵と多数のモンスターがまるで軍隊のように運用されていたらしい。モンスターもそんなに種類は多くなく10種類ほどである。
刀夜はふと思ったことをナタリーとリリアに聞いてみた。
「モンスターってのは昔からいたのか?」
「そうだと思いますが……何か?」
「いや、モンスターを戦争に使っていたというのと数がわずか10種類ってのが気になる……大昔から存在していたなら進化論的にももっと種類はいていいはずだが……」
「戦争に使えたのが10種類程度ということではないのでしょうか?」
リリアの意見に刀夜はそうかも知れないと思ったがどうにも納得行かないと漠然としたものを感じていた。
「帝国時代のモンスター情報はないのか?」
刀夜はナタリーに聞いてみるが彼女は首を振った。
「帝国時代以降しか資料や文献はないですね。賢者ならもう少し何か掴んでるかも知れませんが――賢者はなかなか自分の研究を教えてくれません。ここにある当時の資料もずいぶん後になってから発表されたものです。そもそも賢者という人種は――」
「人類滅亡による文化ロストの影響か……」
「…………そうです……」
ナタリーのマシンガントークが始まる前に刀夜は口を挟んだ。彼は徐々にナタリーの扱いに馴れ初めていた。
「あっと、そろそろ私は時間なので」
ナタリーは席を立って帰ろうとする。
「ん? もう上がりなのか?」
「はい。そうそうここでは時間には気をつけて下さい」
「なぜだ? 閉館時間はなかったのでは?」
「ここは別名、時忘れの部屋と呼ばれています」
「下界と時間の流れが違うとか言わないよな」
「なんですかそれ。単に時間を忘れやすくなるだけです。
ナタリーは書棚奥の魔術師を指差した。
「それについては気をつけよう。気をつけついでにいうと今日俺たちが何をしていたかは誰にも喋るなよ。これは忠告だと思ってくれ」
刀夜は口の前に人差し指を立ててみせた。彼女は書籍を探すのに必要な人材だ。ただし非常にお喋りだ。情報を漏らされては困るので脅しをいれておく必要がある。
「え? な、なんですかそれ」
「喋るととても困る人から、もれなく怖いお兄さんが家にやってくる」
刀夜の脳裏に嫌な記憶が甦る。自分のためでもあるが彼女ためでもある。
「怖! わたしそんなことの手伝いをしていたのですか? 世界平和のためだと上司から聞いたのですが」
「やっていることは世界平和で合っているさ。ただ依頼者が誰なのかは熟慮すべきだな」
ナタリーは膨れたが了承だけはした。ちゃんと分かってくれていれば良いのだが、でなければ『刀夜が』口封じを指示しなくてはなくなる。
そんなことだけは避けたい刀夜であった。
◇◇◇◇◇
刀夜は次に巨人兵のスペックについて調べる。帝国での戦争記録によれば当時の巨人兵の肉体は普通に筋肉があり、今のようなミイラではなかった。
そのせいか今の巨人兵とは動きが全然異なっていたらしく、もっと機敏でパワフルだったようだ。文献によれば普通に走ったり、まるで体操選手並みに動いていたようだ。
もし今の巨人兵がこの頃のスペックであれば刀夜は討伐しようなどとは思わなかっただろう。それどころか出会ったあの山できっと全滅している。
刀夜はこんな化け物の大群を相手にしなければならなかった当時の帝国の人々に同情を禁じ得なかった。
「人類が滅ぶわけだ……」
刀夜はさらに巨人兵の資料を探した。そして非常に興味深い資料に出会う。
「これだ、この資料だ!」
刀夜が興奮する。
その資料には巨人の武装について記載されていた。巨人の手にしている武器は魔法の武器であった。
魔法武器には数種類存在しており、刀夜達が襲われたときの武器も記載されていた。あのハンマーには地震を引き起こして衝撃波を生むとある。
「やはり……デカイとはいえ、あの質量の武器であのような現象が起こるわけがないんだ」
刀夜は自身が抱いていた疑念の一つが判明し、一人で納得していた。他にも剣や槍、斧といった良くある近接系武器ばかりだ。
能力としては炎を出したり、衝撃波を出したり、雷を落とすなどファンタジー魔法の定番な能力を兼ね備えているようだ。
そして鎧だ。
鎧も武器同様に魔法が仕かけてあり、それは最も恐ろしい機能『絶対物理障壁』であると記載されていた。
その名のごとく物理的な攻撃を完全に弾き返してしまうのである。刀夜が投げたナイフが直前で弾き返されたはこの能力で間違いないだろう。
「これは厄介だな。これがあるかぎり巨人兵は魔法でしか倒せないということになる」
「攻撃魔法を扱えるのは賢者様しかいません」
リリアは青ざめる。
彼女の街の自警団が手も足も出ず滅ぼされたのも頷ける能力だ。そして刀夜はこれに挑もうというのだ。勝てるはずなどない。
「となれば攻撃魔法は使えないか……」
この街にくる賢者は年一回、鍛冶屋ギルドの依頼で玉鋼を作るためにくる人だけだ。だが今年分はもうすでに終わっているのでその賢者はもうここにはいない。
そもそも賢者だからと言って誰でも攻撃魔法が使えるわけでもない。専門に研究した人でなければならない。
「刀夜様……」
リリアが心配そうに刀夜の顔を覗きこんだ。刀夜はそんなリリアの頭を撫でる。
「きっと方法はあるさ」
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