第140話 魔術大図書館
朝食の後、再び魔術ギルドへと
リリアは実技試験を楽勝でパスする。経絡のキャパシティの大きいリリアは体内で流せるマナの量が桁違いである。
同じ魔法でもマナが多いほうが効果は高く、流す量をコントロールして絞れば発動回数も異なってくる。どちらもリリアは優秀だった。
その日の内にリリアはギルドに登録されることとなり、これで彼女の身分は確約されることとなる。
例え、奴隷の烙印があろうともギルド会員の証であるペンダントのエンブレムが彼女を守ってくれる。その辺りの町人や商人よりも大きな地位を持ったのだ。
正直地位だけで言えば刀夜より上となり、二人は複雑な関係となった。
刀夜は明日から魔術大図書館を利用させてもらうことにする。今日のところは皆が心配していることもあり、早く帰って安心させるために二人は帰途についた。
――次の日。
魔術大図書館の利用許可を得た刀夜は早速図書館へと向かう。入口で偶然に捕まえたナタリーを連れて。
『魔術大図書館』などと大層な名だがここはには普通の図書も扱っている。
刀夜が探しているのは巨人に関する情報である。次に帝国崩壊時や街を襲われたときの戦法が記されている情報も探している。
だがナタリーに連れられてやってきた図書館は刀夜の想像を越えていた。
「ここが当魔術ギルドが誇る魔術大図書館です……」
マシンガントーク大好きのナタリーが珍しく口数が少ない。この間の話ではカオス空間を想像させられるような内容であった。
刀夜とリリアは大きな両開きの扉を開けて中へと入ってゆく。中は吹き抜けの大きなエントランスホールが目の前にあり、勉強用の仕切りのある長机が多く並んでいた。
書庫は三階建てとなっており、エントランスホールを中心に放射状に書籍棚が並んでいる。家具はどれも古さを感じさせるシックな作りで非常に落ちついた雰囲気があった。
所々に花や植物などもあり、談話スペースも配置されている。そして本も丁重に棚に納めてあり、床に落ちていたり、置きっぱなしにしている様子もない。
そこは刀夜が最初にイメージした空間より、非常に綺麗な所であった。
「なんだ、すごくいい所じゃないか……」
刀夜の言葉にナタリーの顔は押し潰した饅頭のように苦笑いで愛想を返した。だがリリアはすぐに違和感に気がつく。
「あの……ここの図書館は誰も使われていないのですか?」
リリアの言葉に刀夜は辺りを見回すと確かに人がいない。机を見ると真新しい感じでキズ一つもなく確かに使った形跡がなかった。
ナタリーは顔を反らしてリリアの質問に答える。
「……いえ……使われておりますよ……もうこれ以上になくらいに。ただ
『ここは?』彼女の妙なもののいいように不安を感じた刀夜は辺りをよく見回した。すると書棚はかなり奥深くまで続いており、大袈裟だが果てはどこにあるといいたいほど広いことが分かる。
そしてその奥の書棚と書棚の間に本が山積みされて、ぼんやりと光が灯っていた。
「アレはなんだ?」
刀夜の質問にナタリーが涙目で答える。
「うう……あれこそ図書館に巣食う悪魔達の一人です」
「悪魔? 一人?」
よく目を凝らしてみると本は無造作につまれており、崩れているところも多い。そして周りをよく見回せば、あらゆる書棚の隙間が同じようになっている。
「な、なんだアレは? 蟻塚でも飼っているのか?」
「蟻塚がなんなのか分かりませんが、あそこにいるのはうちの魔術ギルドの魔法使いたちです。彼らは新たな魔術を作ろうと意気込んでやってきては膨大な魔術書を読みあさって、結果読み専に変わり果ててしまうのです。つまり本来の目的を忘れた魔術師の成れの果てです」
「世界は変わってもどこにでもいるもんだな……で? 何であんなに本が山積みなんだ?」
「ああ見えて彼らはまだ研究中のつもりなのです。見つけた本や関係ありそうな本はあのようにキープしてるんです。エスカレートすると派生分野の本や関係ない本まで……」
ナタリーは涙をハンカチで拭きながら酷い現状を説明した。
「奴らが帰ったら片付けてしまえよ」
「それが……彼らはここに住みついているのです。片付けようとすると怒ってくるのです」
「それは酷いな……」
「一階の連中なんかまだましですよ。三階の連中なんて何を勘違いしているか私たちをアシスタントか弟子かと勘違いして、本を探させたり、飯もってこいだとか、トイレ行ってる間に本取られないよう見張っとけとか、そりゃもう酷いですよ!」
「えげつないな……」
「でしょでしょ? 魔術師の権力を乱用してくるんですよ!!」
ナタリーは話を聞いて同情してくれる刀夜に、色々と不満をぶちまけた。そうとう日頃のうっぷんが溜まっていたのであろう。彼女はマシンガントークでようやく不満を吐き出しきると、スッキリとした笑顔で汗を拭いた。
「いやーこんなに親身に話を聞いてもらえて楽になりましました。ありがとうございます」
「そうか、それはよかった。ところでなんだが……」
「はい。なんでしょう」
ナタリーは笑顔で刀夜に返事をした。
「俺はまだあまり字が読めないので巨人兵に関する本を探して集めてきてくれ」
「……………………人の話、聞いてました?」
彼女は死んだ魚のような目で刀夜をみた。
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