第132話 プラプティ炎上2
「賢者様!」
エステルは賢者が滞在している一軒家のドアを勢いよく開けた。
「エステルか! なぜきた? 早く逃げなさい」
賢者はすでに逃げる支度を済ませていた。豪華な
すでに齡は70を越えているが、あまり衰えを見せていない。強力なマナ増幅を兼ねた魔法の杖を手にしている。
「あ、あたしは賢者様のお世話を預かっている身です。賢者様を捨てて逃げたら一生笑い者です」
「気持ちは嬉しいが……」
賢者は言葉を詰まらせてしまった。そして辛そうな表情で賢者はエステルに謝った。
「ワシがこの街に逃げ込んだばかりにお主達には……」
「え?」
『逃げ込んできた?』エステルは賢者の思いもよらない言葉に驚いた。てっきり自身の強化と調べものが目的だと思いこんでいたからだ。
「ワシのことはもうよい、なんとしても逃げおせるのじゃ。これを持ってゆけ!」
覚悟を決めた賢者はエステルに一つの包みを渡した。それはかなり分厚く重い包みであった。
「よいか、この包みの書物にはこの世界の真実をまとめたものを記載してある。私たちは騙されていたのだ」
「……えぇ!?」
「これを別の街の魔術ギルドへともってゆくのだ。そうだな、ここからならヤンタルの街が近い。そこへもってゆき、世界にこの事実を伝えるのだ」
「で、でも……」
一体何を騙されていたというのか、とんと話が分からない。だが賢者とあろうものがこうも真剣に、さも重大なことであると力説している。エステルに手渡された包みは実際の重さよりも遥かに重いと彼女は感じた。
「……エステル……本当にすまなんだ。わたしがお前達を巻きこんだようなものだ。わたしが時間を稼ぐ。あとの事を頼む」
賢者はエステルの背中を押して逃げるよう促した。
◇◇◇◇◇
防壁では巨人兵が迫っていた。防壁さえ守れれば他のモンスターは街に侵入はできない。だが巨人兵がいるかぎりそれは困難といえよう。
クラムベルガは防壁より一段高い高台の塔から指示を出していた。
「バリスタ撃てッ!」
防壁の上に設置された超弩弓から鋼鉄の矢が一斉に放たれる。人の身長よりも大きい矢だ。
放たれた矢が一直線に飛ぶ。
だが巨人に当たる瞬間、何かの力により弾き飛ばされてしまう。巨人の前進は一歩踏みとどまる程度で終わってしまった。
「くそぉッ! 噂には聞いていたがあれが絶対物理障壁か!!」
クラムベルガはいまいましく巨人兵を睨み付けた。あの障壁があるかぎり巨人兵は倒せない。過去の文献ではあれに対抗できるのは攻撃魔法のみとあった。
今この街で攻撃魔法が使えるのは神壁の賢者のみ。彼が来るまではなんとしても時間を稼ぐ必要がある。
「投石ィー撃て!!」
壁内に設置していた大型のトレビュシェット方式投石機のアンカーが外される。先端についた重しからの遠心力により岩が投射された。
狙いを定めるのが難しいこの武器からの攻撃は尽く外れた。だが一発だけ巨人に当たるも絶対物理障壁の前には無力であった。巨人は一歩後ろに下がっただけで再び進撃する。
「拘束ロープ投射!」
同じ方式を使った亜種型の投射機のアンカーが外される。打ち出された重りつきの拘束ロープが巨人をめがけて飛来する。
ロープの両端のは同じ重さの岩がくくりつけられており、ロープが巨人に当たればまとわりつく仕組みである。
巨人に直接岩の部分が当たると弾かれたが、ロープ部分が当たると予定通りロープが巨人に絡みついた。
「よし! バリスタ! 撃てぇ!!」
再装填された超弩弓から鋼鉄の矢が一斉に放たれる。安全に足を止めている巨人兵にすべての矢が命中する。だがまたもや絶対物理障壁の前に矢は弾かれてしまう。
巨人はもがいて拘束ロープをメキメキと引き千切った。
クラムベルガにはもう打つ手がなくなり、悔しさで防壁を殴る。
「クソッ!」
何か方法はないのかと模索するが手持ちの武器ではこれ以上成す術が無い。足元にロープを引っ掻けることができるなら転倒させることも可能なのだろうが奴の足元は多くのモンスターで一杯である。
巨人は自分の間合いに入ると腰の剣を抜いた。片刃の大きな剣である。全長はゆうに5メートルを越えており、黒光する光沢が見るだに恐ろしさを漂わせていた。
巨人は剣を両手で立てて八相の構えを取る。一歩前へと足を踏みしめると目にも止まらぬ早さで剣を
太刀筋は防壁の上スレスレを
クラムベルガは崩れゆく塔から落ちてゆく瞬間、その
「勝てない。人類は巨人には勝てない。逃げてくれ、ヨムルド!!」
彼は崩れた塔の下敷きとなって絶命した。壁内にいた兵士達はそのようすに恐怖し、
今にも逃げ出しそうな兵士達を副団長は声を張り上げて統制を図ろうとする。
だがその瞬間、防壁から奴の剣が突き抜けてきた。防壁の裏側の
巨人が壁の外から剣を突き刺したのだ。その圧倒的なパワーに恐怖しないものなどいない。
突き出た剣の刃がぐるりと上を向いた。巨人の剣から
それは衝撃波となって防壁を構成する何トンもある大きな石材が大量に街の上へと舞い上がった。
地上にいた兵士達は防壁の大岩に襲われて次々と潰されゆく。
「おのれえぇぇ、化け物め!!」
その言葉が副団長の最後となった。
立ち上がった
自警団は上層部を失い、統率を失ってバラバラな対応をとっていたために次々とモンスターの餌食となってゆく。
巨大な図体に剣のような角をもつ
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